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第二十三話 役割




ソラは辺りを見渡す。

先ほどまではパレード、施設、その他街灯やスマホの灯りなどで明るかったテーマパークが、今はひたすらにじっとりと暗い。

空は黒。マットで変化がなく、そもそもの藍色や雲の灰色も見えなくなっている。



「停電……?」

「え、やば」

「待ってウィッキー戸惑っとるんやけどw」

「お母さぁん、くらくなっちゃった」

「だるー」

「非常用電源的なのないの」



未だ緊張感には欠けるものの、周囲の人々もざわめきだしている。

そんな中、ソラは身をこわばらせルクバトと目を見合わせる。



「影狼、……だよね」

「うん。それも今までより範囲が大きいね」



ルクバトは冷静な目で周囲を見渡した。

曰く、今回の『狩場』はこのテーマパーク一帯。学校にて展開されたものとは規模が違う、と。

つまり単純なこと、シンプルなまでのパワーアップ。また広いぶん逃げ切ることが難しくなっている。



「前回みたいに見つけ次第どっかから飛ぶ……?」

「いやあ、流石に二回同じ手には引っかからないんじゃないかなああっちも」

「てかそもそも今どこにいるんだろ、場所わかりそう?」

「人が多くてちょっとわかんないな……この人混みに紛れて近づいてくる手かもしれないし、あんまり離れないでね」



そうして話していると、不意に。



「ッ、!?」



場内に響き渡る、絹を裂くような悲鳴。

一瞬、波を打ったようにその場は静まり返る。そして一度たなびくように群衆は波を打ち、次いで急に尻を叩かれた馬のように、パニックになって逃げ惑う。



「ぎゃッ」

「ソラ、!」



人の波に押され、ソラも転びかける。


波間からちらりと見えた、その光景。


影狼の姿。その躯体は今までにないほど大きく、成人男性の背丈はゆうに超える。

しかしソラの視線はその大きさではなく、その口元へと吸い寄せられた。

がばりと開いた口からはぼたぼたとどす黒い血を流しており、鋭い牙には何かが引っかかっている。それが衣服の端切れであること、そしてその顎下にぐったりと気絶した人が倒れ込んでいるのを見て、ソラの脳はやっとどういうことか理解を示す。



「……人を、殺してる……?」



気づいた途端、言い知れない悪寒がソラの背筋を駆け上がる。

今までソラとルクバト以外の人間に危害を加えるようなことはなかった。

木下は操られはしていたが、それだって操られた『だけ』だ。食われたりすることはなかった。



「(これ以上殺されたくなかったら……いや、場所はすぐわかるだろうし、抵抗せずに出てこい、ってこと……?」



ソラはこっそりとルクバトを見る。ルクバトは動かない。

彼の目的は星であり、すなわちソラの守護。なるべく周囲に被害を出すなと言いはしたものの、ソラを放り出してまで他人の救助には出向かない。

かといってソラに何か出来るかといえば、それもない。

機動力も、膂力も、あまりにも足りていないのだ。影狼の前に出た瞬間、何も成せずにやられるだろう。



「く、……」



ソラは密かに歯噛みする。

いつだって自分は足手まといだ。





「……って顔だね」



煮詰まっていた思考に鶴の一声。ソラは視線をあげる。

ルクバトは一度笑って、それから立ち上がった。



「僕が影狼を引き付ける。だからその間に避難誘導をお願い」

「はあ!?」



ソラは慌ててルクバトを見た。



「いや無理、無理だって! そんな避難誘導とかやったことないし、」

「大丈夫」



ぽん、と手中にポップな煙。

晴れたそこには、白を基調にしたポップなデザインの拡声器。



「魔法の拡声器。 ソラの声を皆に届けてくれる」

「ふざけてる?」

「ふざけてないね。あと目くらましもかけておくから」



影狼にはソラの姿は見えないし、声も聞こえないよ。


そう言ってルクバトはソラの身体に触れないまま、するすると何か紋様をなぞり上げた。

すると青い紋様が、ルクバトの指を追いかけるようにソラの身体に浮かび上がる。

どこかで見た模様だ。それもそのはず、以前学校で影狼から逃げて美術館に逃げ込んだ時、ルクバトが扉にかけていたものと同じである。



「へえーそれなら……ッてそういう問題じゃなくて! 単純に係員でもない私が」



言葉は続かない。気づいた次の瞬間、すでにソラは付近の高台にいたからだ。

支えを失い傾く身体。驚いて階下へと落ちそうになるのを気合いでこらえる。



「(落ち着け、落ち着け……)」



やるしかない。

頬を一度強くはたき、ソラは前を見据えた。

パニックになっている人間にごちゃごちゃ説明するのは無駄だ。影狼云々なんて話してたらいくら時間があっても足りやしない。

だから今は多少事実と違っても良い。簡潔に、要点を纏めて。



「────ご来場の皆さん、!」



はっきりとしたその一声がパーク内に響き渡る。

拡声器を握った掌がぬるついて、ソラは手を拭いて握りなおした。

声の上ずりが腹立たしい。しかし、ルクバトの言っていたことは本当のようだった。

何せ今の今までパニックになって走り回るだけだった人々が、ソラの一声と共に皆示し合わせたように動きを止めたのだ。



「現在、園内にて原因不明の事故が多発しております。慌てず騒がず、落ち着いて、正面エントランスより避難してください。繰り返します。現在──────」






「パニックになる来場者で僕の機動力を削ごうってこと、だよね」



避難勧告を始めたソラ、そこから少し離れた場所にて。

ルクバトは影狼と対峙していた。



「僕がいる時点で、ソラがこのパニックで怪我をすることはない。人を避けて飛行に移れば、見つけやすくなってそれはそれでよし。……作戦が相変わらず味気ないよねえ」

《⇆※※※ ※※⇆※※ ※※ ⇆⇆⇆⇆ ⇆※ ※※ 》

「目的一辺倒、おしゃべりを楽しむ余裕もない。おまけに発話能力は得たのに、会話をしたくないからわざわざわかりにくい言い方にしている。こうはなりたくないッ、ね!」



背後。

不意打ち。ワープホールを通って後ろへと回り込み、拳を叩き込んだ。

轟音と共に建物にヒビが入る。破裂するように影狼は身体を弾けさせ、何匹かに分裂。

喰らい潰すように何匹もの黒がラッシュを仕掛ける。



「はは、何匹もいるの本当にうざったいな」



ルクバトは軽やかなバックステップでそれらをいなしていく。

その動きに業を煮やしたか、戦闘から離脱しようとするものが出る。大方、ソラを探しに行くつもりであろう。

それに気づきざまルクバトは回り込み、浮いたその一匹を蹴り飛ばした。

仲間を巻き込み、吹き飛ぶ影狼。



「ソラの邪魔はさせないよ。避難がちゃんと終わるまで、君は僕と遊んでなきゃ」


次回の更新は4/25(金)の予定です。

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