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プロローグ ??????・????

 



 ふ、と息を吐いた。


 肩から力が抜ける。止めていた呼吸が意識を取り戻す。まくりとした空気が、火照ったコメカミに心地良い。

 まるで今世界が始まったかのように、脳味噌がおぼろげな視覚情報を咀嚼しだす。



 ──────────────映画館だ。



 しん、と静まり返ったシアター。

 薄暗く、全体的にピンボケしたような視界の中で、流れ続けるエンドロールの白文字だけが、ことさらに鮮やかだった。

 何度も見てすっかり擦り切れてしまった、古いフィルム映画にどことなく似ている。



「  」



 左から声を掛けられた、らしい。実際声は聞こえてはいないが、視界が動いたからきっとそうなのだろう。

 そこにいたのは一人の幼い少年だった。プラチナブロンドと紫眼が美しい、童話の中から飛び出してきたような子だ。



「(──────なんで?)」



 さっきまで、誰もいなかったはずなのに。


 そんな疑問が、その少年が浮かべた親し気な笑顔で塗りつぶされる。

 薄く艶やかな唇に隙間ができて、中の舌が動いているのが見えた。視線はこちらを向いていて、しかも時折傾聴のような沈黙も見て取れる。

 どうやら彼は、この視界の主である私と何やら会話をしているようだ。



「(誰、なんだろう)」



 音は相変わらず聞こえない。ゆえに喋っている内容は把握できないが、悪い雰囲気でないことだけは確かだ。

 奇妙な状況だが、不思議と気にはならなかった。夢だからか、それとも本能的な部分で意味を理解しているからだろうか。



「           」



 喋り始めて少したった頃。不意に少年が左手で前を指差した。

 ずっと流れていたエンドロール、その最後の行が今消える。次いで『The End』の文字が、射干玉のスクリーンの真ん中を陣取り、風化するように消えていった。


 数秒間の静寂、痛いほどに。そうしてやっと、自分の両手が肘置きを押す。

 映画が終われば観客は席を立ち、映画館を後にするのが普通だ。多分、なんて前置きをつけるまでもなく、私はこれからこのシアターを出るのだろう。


 ……そう。普通。普通だというのに、何故か。



「(……出たく、ない)」



 なんの問題もなく動く足とは裏腹に、心の髄からそう思った。

 立ち上がった視界は粛々と階段を登り、すぐに出入り口の前へと辿り着く。

 『私』は振り返らない。また、きっとこちらを見ている彼も、私を止めることはない。



「(ねえ、……待って。  待ってってば、)」



 思考を置き去りに、両手が扉へと伸びる。押した手に伝わる、確かな重み。

 開き出した隙間から光が漏れて、その白が全てを塗りつぶしていく。



「(まだ私、何も──────────……)」






「        」




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