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本の中の聖剣士  作者: 旦夜
10冊目:万物の記録(アカシックレコード)
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10冊目:万物の記録(アカシックレコード)001頁

挿絵(By みてみん)

 目を開ける。

 屋外で寝ていたらしい。つまりここは夢の中。

 ぼんやりと周囲を見渡していると「やぁ、起きた?」すぐ近くに人がいる事に気がついた。

 すごく眠くて、あんまり顔が見えないや。

 また眠りそうになって、そばに居る人間の声を聞く。なんだか落ち着く声だ。

 それに、すごくいい匂いまでする。

 落ち着く匂いと、優しい声。すぐに意識が遠くなるが眠ることは出来なかった。

 すこし強めに肩を揺すられた。

 「おーい、起きてくれ!」

 ……あれ?俺はなんで、声の主に警戒できない?

 いつもなら、誰かに触れられたらすぐ飛び起きて、剣を構えられるのに。

 声の主の顔を見た。

 目が、覚めた。

 「……なん、で?」

 平凡極まりないがある程度整っていて、どこか幼さの残る、色の黒い男性が目の前にいた。

 男性はやっと起きたとばかりにため息をつき「きみは『契約者』だよね?」微笑んだ。

 「え、あ、うん、はい……」

 しどろもどろに答えながら、どういう状況なのか掴めずにいた。

 視界に恐らく『彼のテラー』と思われるものが映りこんだ。


 ああ、お前か。お前が契約したのか。


 剣を構え『彼のテラー』へ斬りかかる。寸手のところで避けられた。

 斬りかかられた『テラー』は「ちょっと、なんで見えるのよォ~~!!」ふわふわと俺から距離をとるが、それを一瞬で詰めて再度剣を振る。

 何度もぎりぎりのところで避けられるが、とうとう大木の前まで追い詰めた。これで逃げられない。

 大木ごと斬ってやる。今すぐにでもこの『テラー』の首を斬り落とし──

 突然、クリスが制止に入った。

 「優也、やめなさい。本の世界で『テラー』を殺せば『契約者』にどんな影響があるか分からないわ」

 「……わかった。なら、現実世界で殺せばいい?」

 今度は男性が酷く困った顔をした。

 「俺も叶いたい願いがあるから契約してるから……叶わないと困るんだが」

 「……そ、そっか。じゃあ、瓶を出して。今すぐ。俺の砂あげるから」

 「それは駄目だろ」

 じゃあ、なんだったらいいのさ。

 男性はまだ剣を構えた状態の俺に近づいてくる。

 「俺、契約したばっかりなんだ。それから、初めて他の契約者に会ったから不安でさ。良かったら協力出来たらと思ったんだ……駄目かな?」

 「だ、駄目じゃ、ないけど……」

 「ありがとう」

 男性は右手を差し出し、名乗った。

 本名で、名乗った。

 「俺は斉藤(さいとう)理久(りく)。よろしくな」

 知ってるよ、なんて言えない。言えるわけが無い。

 俺が理久を見間違うわけが無いけど、2度も『契約者』になる人なんて聞いたことがないから自信がなかった。

 理久の右手を、右手で握る。ぎゅっと力を込めたあと、離す。

 「俺は……『聖剣士』って名前で活動してます」

 「何それ。超かっこいいじゃん!!」

 「そう、かな?」

 「俺も何か考えようかな……何がいいと思う?」

 「自分で名乗る人もいるけれど、色んな『契約者』と出会って勝手に呼ばれる場合もあるから、すぐに決める必要は無いと思う。でも、本名を名乗るのは辞めた方がいいよ」

 「そうなのか?」

 「うん」

 簡単に『契約者であれば知っておいた方がいいこと』を伝える。

 次いつ出会えるか分からないから『迷魂狩り』よりも、俺との勉強を優先させることにした。


 手頃な木陰に座りつつ開くお勉強会。前も同じこと、やったなぁ。

 白紙の本を出して見せた時、理久は初めて会った時と同じ反応をした。

 色んなことを説明してあげた。

 沢山聞かれた。

 沢山答えてあげた。

 全部、答えてあげたかった。

 ひとつだけ、答えられなかった。

 「なあ。聖剣士…さん?は、なんで俺に色々教えてくれるんだ?」

 『理久』の能力に、誤魔化しは効かない。それはわかっていた。

 それに、俺は嘘をつくのがどうも下手くそなのだ。

 俺の知る『理久』は常時能力を使っていなかったから、使っていない方に賭けることにする。

 「……あなたは、千隼(ちはや)のお兄さんだよね?」

 「えっ、もしかして前に遊びに来てくれたりした?」

 「うん」

 「じゃあさ、蓬莱(ほうらい)大学附属病院の食堂でも会ったことない?」

 「あはは、バレてた」

 「あの時はありがとう。そっか、千隼の友達だから親切に……」

 「千隼はね、親友なの。よく遊ぶんだ」

 また、ちくりと胸が痛い。

 本当は、理久とも親友なんだよ。忘れてしまったかもしれないけど。

 理久はじっと俺を見たあと「……なんでそんなに悲しそうなんだ?」心配そうに眉間にしわを寄せた。

 「ど、どういうこと?」

 「俺はさ、なんでか他人の感情っていうか、意識が見えるんだ。君は嬉しいって気持ちと悲しいって気持ちをずっと抱えながら話をしてくれてるよな」

 ……掛けは俺の負けみたい。まさか、常時発動しているとは。

 どう答えていいか分からない。

 けれど、嘘をついてもすぐバレる。

 それならいっそのこと、本当のことを言ってしまおう。

 「あのね、『契約者』は小瓶にかけた願いを叶えると、願いの代償に記憶を失うの。願いを叶えた本人は覚えてなくても『他の契約者』には記憶が残る。理久はね、俺にとって恩人なの」

 理久は悲しそうな顔をした。

 「……やっぱり、俺は『契約者』だったことがあるんだな」

 「理久のいう『他人の意識が見える力』は『契約者としての能力』だよ。すごく、使い方が上手かったの。かっこよかった」

 「そう、なんだ……」

 「理久が千隼を紹介してくれた。けど、瓶の願いが叶って、世界がちょっと変わったの。それでもまた会えて、すごく嬉しい」

 「そっか。ごめんな、忘れてて……」

 「大丈夫だよ。また会えて嬉しいから」

 白紙の本を確認する。残り時間はあまりなさそうだ。

 「理久。そろそろ、この世界は終わるみたいだよ。また会えるといいね。悪い人に騙されちゃ、だめだからね」

 ゆっくりと終わりの輝きをまとい始めた白紙の本を閉じる。ものすごく幸せな時間だった。

 またいつ会えるかな、なんて思っていたら、理久から思いがけない提案をされる。

 「……なあ、きみがもし良ければなんだけど、この世界じゃなくて、現実の世界でも会えないか?」

 「それは、構わない…けど……」

 「よし、じゃー、決まり!いつがいい?……あっ、千隼を通して連絡するからな!」

 「あっ、えっと……」

 俺はまだ『寝てしまう期間』の最中。その約束は果たせるか分からないことをどう伝えよう。

 千隼が伝えてくれるかな…?

 また会おうと手を振る理久の姿が、少しずつ薄れて消えていった。




 目を開ける。あれから何日経ったのかな。酷くだるいや。

 体を起こし、ゆっくりと部屋を見渡す。ここはどこだろう。

 俺の部屋では無い、知らない部屋。部屋というより、物置に近い?

 ペンダントがあることを確認し、少しだけ安堵する。

 床に敷かれた薄い布団と、機械と、小さな段ボールでほとんどが埋まってしまっているこの部屋は、とても埃っぽいうえに暗い。

 酸素をくれていた機械の電源を切る。

 電源を切ったらランプの光源が無くなり、更に部屋は暗くなる。

 部屋の照明のつけ方が分からない。扉の位置は隙間から漏れ出す光で分かるから、とりあえず扉まで行こう。

 ゆっくり歩いて扉に手を伸ばし、ドアノブがないことに気がついた。

 まるで物置のような場所だと思ったけれど、まさか本当に物置なの?

 『寝ている間』に誘拐されたのか?よく分からない。

 部屋から勝手に出ることは得策ではないと判断し、布団に戻る。

 どれくらい時間が経ったか分からないが、ある時扉が開いて照明がついた。

 眩しくて、ほとんど目を開けられない。

 俺は、暗いところから突然明るい所へ出た時にかかる、光に慣れる時間が他の人より長く必要なのだけど、そんなことは当然ながら考慮して貰えない。

 部屋に入ってきた人間はまだ何も見えない俺の体を触ってくると同時に布団に押し倒し「おはよう、優也」頬を触ってきた。

 声から、男性のような気がする。

 何とか少しだけ目を開けて、顔を見る。知らない人だ。

 「……だれ?」

 俺の問いに、男性は酷く不機嫌になる。

 「父親の顔を!!何度忘れるんだ!!」

 自称父親は俺の首に手をあてると、絞めてきた。

 抵抗すれば殴られて、更に首が絞まる。

 何度か意識が無くなりそうになりながら泣いて謝ると、なんとか許して貰えた。

 どうやら男性は食事を運んできてくれたらしく、袋に入ったバターロールを1週間分の食事だといって渡された。

 拳ほどの大きさのバターロールが5個入ったものが1袋。震えながら受け取ると、男性は部屋から出ていった。鍵のかかる音がする。

 俺の記憶にある父さんと、先程の男性は似ても似つかない。

 何が起きているのか、分からない。

 パンと一緒に持ち込まれたペットボトルの水を少し飲んで、横になった。

 お腹も沢山殴られて、少し気分が悪い。横になって休もう。

 マスクをつけて、目を瞑った。







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