9冊目:白銀の聖剣士004頁
目を開ける。ひと月くらい『寝ていた』みたい。
学校は、いつの間にか卒業式というものが終わっていたようで、千隼と流成から何度も携帯に連絡があっていた。
そういえば、学籍も中学生というものに変わるんだっけ?
また具合が悪いのかと心配するふたりに、返事をする。
ふたりに、ある言葉を送った。
ふたりとも、すぐに返事がきた。
いつも通りの精密検査の後、受付のロビーで待っていると流成と千隼が時間通りにやってきた。
どうしたのかと聞かれたが、何も答えずについてきて欲しいとお願いする。
エレベーターに乗り込み、ドアが閉まると同時に操作盤へカードキーを突き刺した。
「今からいうこと。全部ホントの事なの。聞いてくれる?」
エレベーターが7階に到着した。物凄く怖いけど、言わなきゃいけないことだから。
応接間に案内し、ふたりと向かい合うように座った。
「まず、もう話したとは思うけど、俺は寝たら息ができません。それと、あとひとつ。すごく珍しい病気。このせいで、俺は、ずっと学校休んでたの」
ふたりは静かに聞いてくれる。
「俺はね、いまこうやって話してる『起きていられる期間』と、1日中『寝てしまう期間』を、物心着く前から繰り返してるの。どれだけ起きていたくても、起きられないの。サボりたい訳じゃないの。『起きていられる』なら、そのままでいたいの。怠けてる訳じゃないの。ごめんなさい。体調が悪いわけじゃないの。『起きられない』から、お返事も出来なかった。ごめんなさい」
泣きながら、頭を下げる。涙がぽたぽたと床に落ちる。
俺の事、嫌いになっちゃったよね。だって、ずっと心配してもらいながら寝ていただけなんだもの。
突然強く抱きしめられた。
顔を上げると、千隼がにっこりと笑っていた。
「なぁんだ!物凄く体調が悪くて、今日呼ばれたのはもう長く生きられませんとかじゃないかって思ってたんだよ?良かった!優也はずっと元気だったんだね!」
すりすりと頬を擦り付けられた。くすぐったい。
少し離れて、呆れ顔で見ていた流成は「元気なら良いじゃん」そっぽを向いた。
そんな流成を見て、千隼はにやにやと笑う。
「流成の方が、バスの中で優也が少ししか生きられないなんて言われたらどうしよう、なんて言いながら震えてたじゃん!」
「バカ、言うなっての!!」
「ふたりとも、俺のこと『怠け者』とか思わないの?」
ふたりは声を揃えて言い放つ。
「「そんなこと、言う奴いたらぶっ飛ばす!」」
声を上げて、思いっきり泣いた。
このふたりと、出会えてよかったと本当に思う。
心の中で何か、ずっと絡みついていた何かが溶けて消えていくような気がした。
暫く7階を探索された。お菓子の山を見つけたふたりは好きな物を取り出しては読書室で食べていた。
父さんが貰ったお菓子をくれるのだが、食べずに置いていただけなので、気に入って貰えたなら何よりである。
ハセガワにスペアのカードキーをふたり分用意して貰ったが、千隼は受け取ってくれない。
理由は単純で、カードキーを持っていないということは遊びに来たら誰かがエレベーターを動かさなくてはならず、必然的に俺が出迎えてくれるから、らしい。
ふたりと話していると、千隼とは中学校が別になるということを知った。
千隼の家から通っていた小学校までは、それなりに距離がある。
高校ならともかく、受験校でもない学校へ登校するのはたしかに不自然ではあった。
小瓶の願いで生き返っても別の学校へ通う可能性があることは完全に頭から抜けていたが、何故同じ学校だったのだろう。
本人にそれとなく理由を尋ねたら、よく分からないと言っていたので恐らく小瓶の願いの作用だとは思う。理久が仲良くして欲しいと思っていたから、かな?
離れ離れなんて嫌だと喚く千隼に、いつでも7階に来ていいと伝えると『寝てしまう期間』も来ていいかと聞かれた。
「……『寝てる間』に、何する気?」
「触る」
「何を?」
「色々」
千隼の部屋の散らかり具合を思い出す。うーん、7階を散らかされたくはないなぁ。
「散らかさないならいいよ。俺は『寝てる』から、きちんと片付けてね。転んで怪我しちゃうから」
「わかった!」
何となく不安だけれどまあいいか。
カードキーはそのためにも受け取るようにお願いすると、しぶしぶ鞄の中にしまっていた。
ふたりは、日が沈むまで色んな話をしてくれた。
『起きたばかり』であまり身体を動かせないから、最終のバスで帰るふたりを7階から見送った。




