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本の中の聖剣士  作者: 旦夜
9冊目:白銀の聖剣士
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9冊目:白銀の聖剣士003頁

 7階に戻れるようになっても誘拐されて大怪我をしていたので精神面のケアがどう、という話はあった。

 とりあえず大丈夫だと伝えて、点滴は毎日行われたが輸血は1週間に1回まで減り、体の中身も少しずつ回復しているということで何とか学校に行かせてもらえることになった。

 流成や千隼に声をかけると物凄く心配されたが、いつも通りの日常を過ごす。

 また、いつも通り『眠る期間』までのひとときを過ごす。



 とある金曜日。

 話の流れで、流成と一緒に千隼の家で遊ぶことになった。

 見覚えのある玄関をくぐる。ふわりと懐かしい匂いがした。

 通された千隼の部屋はゲームや漫画が散乱していたので、簡単に片付けて出来た空間に座る。

 千隼の部屋は物が多いようだ。

 千隼と流成が対戦ゲームで白熱するのを眺めていた時だった。

 ドアをノックする音とほぼ同時、部屋にひとり、人間が入ってきた。

 「千隼、友達を連れてくるなら急にじゃなくて、前日に………」

 千隼の家で遊ぶということは、理久の家で遊ぶと言っても間違いは無い。

 忘れていた訳では無いが、頭から抜けていた。千隼はいつの間にか『理久の弟』から『俺の友達』になっていた。


 理久と、目が合った。

 

 『願いを叶えた契約者』への挨拶は分かっているのに。初めましてと言いたくない。

 ああ、なんて声をかければいいのだろう。いつもなら上手く演じられるのに。

 俺が言葉に詰まっていると流成が突然立ち上がり「えっ、千隼の兄さんってこの人?超かっけぇじゃん!お兄さん名前は?」声をかけていた。

 「り、理久、だけど……」

 「理久兄さん!!ちょーかっけえ!!強そう!!」

 目を輝かせる流成に冷ややかな態度の千隼は、俺の隣に座ると「お兄ちゃん、僕に腕相撲で負けるくらいは弱いよ。僕の方が強いから……優也は、僕の方がいいよね?」俺の体を抱き寄せてきた。

 千隼の中の強さの基準って腕相撲なの?

 「ごめん、よく分からない」

 「僕の方が優也を守れるってことだよっ!」

 さらに抱き寄せられる。大人しく抱かれてはいるが、出来たら離して欲しい。

 何故抱きしめるのかと聞く。理久に俺が取られると思ったらしい。

 困惑していると、くすぐったい所を触られた。

 「ち、千隼、お尻に手が当たってるよ」

 「触ってるんだよ?」

 「……なんで?」

 なんか今日の千隼、変……でもないや。普通だこれ。

 流成が間に入ってきた。思いっきり引き剥がされる。

 「千隼!優也にまたセクハラしやがって!」

 「でも優也、嫌がってないよ?」

 ちらりと千隼が俺を見た。

 確かに嫌だとは思わないけれど、それは千隼の魂として使われている理久の魂との相性が良すぎてしまうからで。

 理久は苦笑しながら俺たちを見たあと、部屋から立ち去った。

 後ほど、お菓子とジュースを持ってきてくれた。


 7階に帰ると、何度か転びかけた。

 もう、時間らしい。

 理久に会えたこと、すごく嬉しかった。けれど、悲しくなった。

 理久の中に、俺は居ない。

 また俺は『寝て』しまって、起きたら季節が変わっているのかな。


 理久とお喋りしたい。

 理久に抱きつきたい。

 理久の料理が食べたい。

 理久と一緒に本を読みたい。

 でも、そんなお願い、叶わない。


 何とか、ぎりぎりでベッドに横になった。

 酸素マスクを手に取って、機械の電源を入れる。

 顔に固定して、目を瞑った。

 幸せの余韻が残るうちに、おやすみなさい。

 いい夢が見れますように。




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