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本の中の聖剣士  作者: 旦夜
8冊目:守りたいもの
84/105

8冊目 別冊

 津川想真は、ひと目見た時から峰岸優也を標的にしていた。しかし周りには常に斉藤千隼や名守流成が居て、何も出来なかった。

 とある大企業の社長の息子として産まれ、溺愛され、なんでも願ったことは叶う。それが津川想真という人間の人生だった。

 昔からなんでも手に入り、誰も逆らってこなかった想真にとって峰岸優也を従えることの出来ない状況は不服でしかなかった。

 優也はどこかの御曹司のようなものだと聞いていたが、千隼の嫌がらせを見て親は何もしない、相手にされていないのではないかと思ってしまった。

 優也に対して加虐的な衝動に駆られながら日々を過ごしていた。


 ある時、想真はなんでも願いの叶う小瓶を手に入れる。


 優也のことを根は大人しく内気な少年に感じた想真は、夏休み明けの初日に行動を起こす。

 まず、体が弱いという話。保健室に行こうとするところを止めてみた。酷く辛そうにしていた事で、想真の加虐心は一気に膨れ上がる。

 保健室に行こうと廊下を歩いていた優也を無理矢理近くの男子トイレへと引きずり込み、そこで裸の写真でも撮って脅そうと考えた。

 結果、それより良い物を見つけた。

 服の下に身につけていた剣の形をしたペンダントを奪い取ると、優也にとって大切なものだったらしく返して欲しいと懇願された。

 被虐的な態度を取る優也に、想真の暴行は過激になってゆく。

 なんでも願いの叶う小瓶で、優也に対しての暴行は誰も気づかない。

 小瓶にかけた願い事はごくごく平凡なものではあったが、貯められる砂の量は優也を傷付けるには十分足りた。

 想真は優也の身体があまり強くないことを知っていたが、何も気にせず暴力をふるった。


 峰岸優也という素敵な玩具を手に入れた想真は、今日もまた優也に危害を加えようとしていた。

 どう優也で遊ぶかを考えながら保健室へ向かう想真に、声をかける人間がいた。

 斉藤千隼である。

 「津川…なんか……変なことやってる?」

 事前に《峰岸優也がどれ程傷付いても誰も認識できないようにする》といった主旨の願いをしていたが、一部の人間は個別に願いをする必要があった。

 慌てて想真は小瓶を取り出し、名守流成に行ったように《峰岸優也そのものを認識できなくする》願いを口にした。

 しかし、願いが叶った時に起きる砂の発光はなく代わりに瓶にヒビが入る。

 「流成にもそれ、使ってたね。やっぱりそれが原因かぁ」

 「なんで、なんで願いが叶わないんだ!教室じゃ斉藤だって峰岸のこと無視してただろ!」

慌てる想真に、千隼は笑顔を向ける。

 「うん。流成が目の前でおかしくなったから、周りに合わせた方がいいかなって」

 想真は一瞬、訳が分からないといった顔をした。

 「えっ、でも……斉藤は峰岸のこと好きなんだろ?好きな人間が殴られてんのに見て見ぬふりしてたのか?」

 「そうだよ。原因が分からなかったけど、流成みたいにすぐに動いたら僕も同じ目に遭うかもしれないでしょ?そうしたら誰が優也を助けるの?」

 「じゃあ、なんで今止めた?」

 「うーん。僕には津川のやってることは僕には通用しないって教えて貰ったから、かな?もう優也の身体も限界だと思うし、ちょっと可哀想な姿の優也も沢山見れて僕は満足だし」

 「く、狂ってやがる………」

 「そう?……僕、なんでか優也の『お兄ちゃん』だった気がするの。だから優也を何としても守りたかっただけだよ」

 「は?意味わかんねーし!!じゃ、なんでプールに突き落としたりしたんだよ!斉藤も同じじゃん!」

 「あれは事故というか、優也のおドジだったんだけど」

 「知るかよ!その前だって色々やってただろ!!」

 「それは『好きな人に対する愛情表現』かな?怪我させるのは嫌だから、怪我しないくらいに。でもなんか違う気がして男同士の恋愛の参考になりそうな本を沢山読んで勉強したから、もうしない」

 「なんだよ、気味が悪いんだよ!!」

 斉藤千隼の顔色が変わった。

 「……話が逸れたね。僕は津川のこと許すつもりないよ。すごく興奮はしたけど……あんなに辛そうな優也の顔見せられて、許すわけないじゃん?やっぱり優也は笑顔じゃなきゃ」

 「くそ!!!なんでも願いが叶うんじゃ無かったのか!!答えろよ『テラー』!!こいつ、何なんだよ!!」

 空中に向かって叫ぶ想真に、千隼は1歩ずつ近寄る。

 想真の千隼を見る目が変わった。

 「え、じゃ、斉藤って……一度…」

 「……優也から盗ったもの、渡してくれる?」

 「わ、悪かった!!ほらこれだろ!!」

 「本物だよね」

 「当然だろ。ほら!!」

 雑に放り投げられたペンダントを上手く受け取った千隼は、少しだけ微笑んだ。

 その隙を見て、想真は再度瓶の栓を開けた。

 「《斉藤千隼、死ね!!》」

 砂は光らなかった。

 瓶のヒビは大きくなり、粉々に砕け散った。

 呆然とした顔の想真と、笑顔の千隼の周囲に輝く砂が舞う。

 想真は何も無い場所を向いて、何かと会話し始めた。千隼には会話相手の声も姿も認識できない。

 「は、契約破棄?どういうことだよ!」

 「嫌だ!やめろ!離せ!!」

 「どういうことだよ!瓶が割れたペナルティ?キンソクジコー?そんなもん知らねぇよ!!!聞いてねぇ!!」

 最後に叫び声を上げながら、想真の姿はぐるぐると宙に巻取られるかのように収縮し、光の玉へと変わった。

 千隼はその様子を半分驚きながら眺めていたが、想真が話していた空間をみて首を傾げた。

 「何も居ないよね?……クリスには見えるの?……そう。まあいいや」


 現在の斉藤千隼の魂には、斉藤理久の魂が一部使われている。

 津川想真は『契約者が他の契約者へ影響を与える願い』を叶えようとする場合、一部例外を除いて『影響を与える側の契約者よりも大きい瓶でなくてはいけない』という決まりを知らなかった。

 人間をひとり生き返らせるという願いは、瓶の見た目の大きさ同じであっても、実際はほぼ最大級ともいえる大きさになり、更には契約できる魂の質を持つ『契約者』も少ない。

 斉藤千隼に使われた斉藤理久の魂が、禁則事項に該当すると判断されたことは斉藤千隼も知りえないこと。


 禁則事項に抵触し瓶を割ってしまった者への処罰についても知る由はなく、千隼は足速に愛する者の元へと向かうのだった。

 





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