1冊目:執着の魔物 003頁
街中に変なもの、例えば違和感のある置物だとか異様に伸びた植物とか、そういったものが無いか観察しながら散策する。
時には街の人にも訊ねるが欲しい情報はなかなか手に入らない。
「疲れた……ユウヤ、飯にしねぇ?腹時計的には昼食通り過ぎてんだけど」
確かにお腹すいたかも。
こっちの世界で食べても現実世界には影響がないから気分的なものになる。でも、それはそれで大切。
「そこでなんだけど『ビレー』の記憶を確認するとさ、すっげえ安くて美味い店あるみたいなんだよな」
「じゃあ、そのお店できまりかな」
早速ビレーの記憶を頼りに案内してもらい、店に向かう。
たどり着いたのは新し過ぎず古すぎず、よく手入れされ、落ち着いた雰囲気を出す可愛らしいお店。
全体がつる植物で覆われているあたり、オシャレである。
「ここのハンバーグをパンで挟んだものが美味いみたいなんだ」
「それってハンバーガーじゃなくて?」
「いや、どっちかっていうとカツサンド的なビジュアル」
注文して出てきたものは、確かにカツサンド的な見た目の概念的にはハンバーガーといった代物だった。
味は何故かビーフシチューだったけど。
ビレーの器を借りた理久は、大変気に入ったようで追加注文していたが、大きさもそこそこあったし俺はひとつで充分だった。
恐らく『器の持つ好み』に影響されているのではないだろうか?そうだと思いたい。
店員さんがサービスだと言いながら、俺にデザートを用意してくれた。
見かけは湯気が出ており、見た目も熱そうなのだが、ひんやりとして美味しいアイスクリームのような、不思議な食べ物だった。
食べ終わり店から出る直前、酷い眠気に襲われた。
「ユウヤ、眠かったら言えよ?」
「まだ、大丈夫……」
平気だと口にしながら尋常ではない眠気に襲われていることも事実である。
元々寝ようとしていたから限界が来たのかもしれない。
「ごめん、やっぱり無理かも……」
ビレーに少しだけ体を預ける。すごく、眠い……
店員さんが見かねて「よかったら弟さん、休憩されますか?」声をかけてくれた。
頭が回らない。半分くらい手放した意識の中でビレーが断っている声を聴いた。
とても優しそうな店員さんは俺の様子を見て何度も店の2階で休む事を提案してくれた。
しかしビレーは断り続け、立てなくなった俺を背負って『ビレーの家』へ戻った。
俺は殆どを夢現の状態で眺めていた。
どれくらい時間が経ったのだろう。
窓の外は真っ暗になっている。俺、何やってるんだろう。
自己嫌悪に苛まれ、ベッドの橋で小さくなった。
どんなに聖剣で身体能力を強化したところで俺自身の身体は病気でずっと寝ている10歳だ。
体力や身体の丈夫さといったものは同年齢の男子小学生と比べれば非常に劣る。
「理久の邪魔になっちゃった………」
涙が流れてきた。悔しい。とても悔しい。
泣き疲れて涙も止まった頃、ビレーが帰宅した。
そして口頭一番、謝罪されたことに驚いた。
「えっと……どういうこと?」
説明が欲しい。謝るのは俺の方なのだ。
「あの店『カモメ亭』っていうらしいんだけど、分かるか?」
「主人公が倒した、子どもを狙うシリアルキラーの店……あ、俺もしかしてなにか盛られてた?」
「そう。『ビレー』は名前を覚えてなかったから、気づかなかったんだ……ユウヤの様子がおかしかったから能力を使ったら……ほんとにすまない」
「ううん。助けてくれてありがとう」
頭を下げる『理久』に抱きついた。
ああ。やっぱり理久のこと、大好きだ。
「本当に良かった、ユウヤが目を覚まさないんじゃないかって……」
「そんなことないよ、絶対起きるって」
まったく、心配性なんだから。
「身体は変なところは無いか?」
「うん、少しだるいくらいであとは何も」
抱きしめられながら頭を撫でられる。ああ、幸せ~。
暫く幸せな時間を堪能しながら、あれが『カモメ亭』ならば思いついたことを伝える。
「でもおかげで『迷魂』の場所、わかったかもしれないよ。『カモメ亭』ってさ、植物に覆われてなかったと思うんだよね」
「えっ、じゃあ、つまり、『迷魂』は…」
「あの店にある可能性は高い。幸い俺を狙ってきたわけだから、次は俺が囮になって……」
「それは駄目。寝てる間に何されるか分からないだろ」
絶対反対されると思った。
「ちゃんと対策すれば俺に毒とか薬は効かないの知ってるよな…?」
「けど、もしもの事があったら……」
「じゃあ睡眠耐性のポーションを飲んだ後眠くなった振りをするから、そうしたら一緒に二階で休む口実で店の奥に入る。だから、すぐ行動できるよ」
ビレーがきょとんとしている。実際の見た目は『理久』がきょとんとしているから、ちょっと可愛い。
「睡眠耐性のポーション?」
「ここ、一応ファンタジーの世界なんだから、それくらいあるよ」
「そ、そうなんだ………」
本当に『理久』が契約して間もない頃に出会えて良かったと思う。
ひとりだけで『迷魂狩り』をしたら、きっとすぐに瓶が割れて契約破棄になっていたんじゃないかな。
さて、先輩として良い所をみせましょうか。
シナリオの現在地を確認するため白紙の本を取り出す。文字かが浮かび上がってきた。
主人公たちはカモメ亭になにかあると思いつつ、手が出せない状態であるようだ。
シナリオに『迷魂』が触れると『言霊』が一気に喰われてしまう。
そして『迷魂』は『言霊』を食べ尽くすと扉を通して現実世界へ出てゆく。
出ていった『迷魂』は超絶的な自然災害として形を変えたり、人間に取り憑いて遊び始めてしまう。
シナリオが目前まで迫っている。時間が無い。
『ビレーの器を借りた理久』が本を覗き込みながら「この後って確か、僧侶アンナのことが大好きな男の子が囮になって、カモメ亭の調査を手伝うんだよな?」この後の話をする。
「うん。そこで証拠になるものを見つける。証拠探しとかち合わないように『迷魂』を探すしかないけど」
本の場面転移が始まる。
日付が変わったら、すぐに睡眠耐性のポーションを買ってカモメ亭に行かなければ。