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本の中の聖剣士  作者: 旦夜
3冊目:現実世界の契約者
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3冊目:現実世界の契約者 012頁

 荷物を車に運んで優也が遊んでいた砂山に戻る。

 親父さんは残っていた荷物に背を預け、ぐったりしている優也と端末を交互に確認しながら険しい顔をしていた。

 「どうしたんですか?」

 「優也を…短時間でも…ひとりにすべきじゃなかった……」

 どうやら短い受け答えをする程度の意識はあるが、起き上がる事が出来ないらしい。

 呼吸は問題なくしているし、端末も異常な数値は出ていないのだとか。

「初めてこんなにしっかりと外出したから、疲れたのかもしれない。父親失格だな…」

 親父さんが優也の頭を撫でる。

 撫でられながら優也は「そんなこと、ないよ…」微笑んだ。

 よく見ると、なんだか身体から『迷魂が入った本』と同じモヤが出ているような気がする。

 拓矢さんが優也を抱えあげ、車へと運ぶ。

 とりあえず別荘で様子を見るらしい。

 俺も残りの荷物を抱え、車へ向かおうとした、その時だった。

 海の家の店員さんだったかな?恐らく高生と思われる女の子に声をかけられた。

 どうやらバイトの時間は終わったらしく、完全に遊びモードの水着姿である。

 「あんた『聖剣士』様があんな事になってるのに、なんで冷静なの?」

 優也の二つ名を知っているということは『契約者』なのだろう。

 「あの、どういうことですか……?」

 彼女は驚き半分、呆れ半分で小瓶を召喚する。

 「あたしは華恋。あんたと同じ『契約者』だけど敵意はない。あんた、時間が無いんでしょ。ほらスマホ出しなさいよ」

 連絡用アプリの友達登録画面を突きつけられる。

 怒りという感情はあるが、敵意は無さそうなので俺の連絡先を教える。

 「とりあえず『聖剣士』様の状況、教えてあげるからちゃんと読みなさいよ?」

 「わ、分かりました……」

 彼女はそっぽを向きながらスマホを触り始めた。

 俺は荷物を再度持って車へ向かった。



 華恋さんからのメッセージを別荘についてから確認した。

 理解が出来なかった。いや、したくなかった。


 現実世界へと抜け出した『迷魂』が人間に取り憑いた場合『契約者の能力』で干渉すれば引き剥がして回収することができるらしい。

 しかし、取り憑かれた者が『契約者』であった場合は別で本人の能力が『迷魂への干渉』を妨害するせいで回収が出来ない。

 人間に取り憑いた『迷魂』は魂を喰らうということは知っていたが、詳しくは知らなかった。

 以前『守護者』がペア相手を殺されたと言っていたが、まさかそういうことだとは。

 取り憑かれてしまえば最後、『契約者』は瓶を喰われ契約破棄で殺されてしまう。

 元々『契約者』は一般人より上質な魂であり、瓶はそれを圧縮し『テラー』が形を与えたもの。

 瓶を喰らう速度はその人の瓶の大きさによって異なるが、瓶と『契約者』の魂を残らず喰い尽くせば、ようやく他の人間へと移動する。

 一般人を喰っている最中でも『契約者』を見かければ真っ先に飛んでくるほど『迷魂』から見て美味しそうに見えているのでは無いかということと、恐らく次は俺に移動するから離れておくべきだと教えてくれた。

 どうすれば優也を助けられるか聞くと、優也とは誰なのかと聞かれてしまう。彼女は優也が『聖剣士』であることには気づいたが、優也としては知らなかったらしい。

 返事に困っていると、彼女は察してくれたのか誰にも言わないから大丈夫という優しい言葉と共に残酷な言葉を告げた。

 少しずつ瓶を喰われて行く相手を看取る以外にできることはないし、瓶を喰われている間『契約者』は能力や瓶が使えなくなるらしい。

 あれ?俺、優也が倒れてからも普段は持てないくらい重いものを持てた気がするんだけど?


 あることを思いついた。優也が寝ている部屋に向かう。

 ベッドの横には羽瀬川さんが立っていた。

 俺に気づくと悲しそうに微笑む。

 何となく違和感がある。

 親父さんも拓矢さんも、疲れたが出たのだろうと言っていて、心配はしていたが、悲しんではいなかった。

 それなのに、羽瀬川さんだけが酷く悲しそうにしている。

 「羽瀬川さん。貴方は『契約者』なのか?」

 羽瀬川さんは首を傾げた。

 「……何の?」

 あれ?ここ結構重要な場面で、実はそうでした!みたいな流れになるところでは?

 「忘れてください………優也の体調はどうですか?」

 「あまり良くないかもね。少し優也君を見ていてくれるかい?」

 「分かりました」


 部屋は優也と俺のふたりだけになる。

 正確には俺と、優也と『テラー』達。

 予想が正しければ、優也の『契約者としての能力』は特殊なものなのではないだろうか。

 クリスに確認した。本来『契約者としての能力』と『契約者』は切り離せるものでは無い。

 しかし、剣そのものは勿論優也が創り出したものだが、本人はただ聖剣の所有者というだけで能力自体は剣に付随する。

 そして優也の『契約者としての能力』は聖剣を作り出すことではない。あくまで聖剣を扱えるというだけ。

 つまり『剣の能力が切れた状態なら』優也は一般人と変わらないのではないだろうか。

 本人の能力が邪魔をして『契約者に取り憑いた迷魂』に干渉できないなら、本人の能力を遠ざけてしまえばいい。

 テーブルにペンダントを置いて、優也の体を触る。

 俺の現実世界での能力は触れている者と自分への意識を感じ取るもの。

 観るだけの能力としては珍しく、他者に干渉できる能力。

 多分それは千隼に対して悪意を抱いていた人間を見ることができていたらという後悔も混ざっているから。

 千隼がくれた力だと思う。

 少しだけ目を開け、優也が俺を見た。

 声は聞こえないが口が動いた。多分逃げてと言っているのだろう。

 息をするだけでも苦しそうなのに、自分が喰われた後に俺が喰われることを心配している。

 「大丈夫。俺が何とかするから」

 優也に絡みつく意識を観る。

 次の瞬間、優也から出ていたモヤのようなものが砂になって消えてゆく。砂は俺と優也の体に吸い込まれていった。多分瓶に吸われたのだろう。

 優也が体を起こした。俺の予想、当たっていたみたいだ。良かった。

 状況が飲み込めないといった様子で、優也が見てくる。

 「もう、大丈夫か?」

 頭を撫でようとして払い除けられた。

 「なんで、逃げてくれなかったの?」

 「えっ?」

 「俺が、俺が喰い尽くされたら1番近くに居る理久が襲われる可能性だってあったんだよ?どうして危ないことするの?どうして、逃げてくれなかったの?」

 優也が半分泣きながら俺の胸ぐらを掴む。

 「何回やり直しても、理久が取り憑かれるの、変わらなかった!毎回必ず筋書きは同じ!今回で残りが足りなかった!!もう繰り返せないと思った!だから、だから…俺が代わりになろうと思ったのに!!なんで、なんで逃げてくれなかったの!」

 「お前が危ねぇ状態になってるってのは、今日知り合った別の『契約者』が教えてくれた。そいつからも逃げろとは言われたよ。でも、俺がお前を見捨てる?ふざけんな。初めて会った時も言ったろ。俺はお前を見捨てないって」

 優也の腕から力が抜ける。

 「どうして…?」

 「それもまた言わせんの?お前の事が好きだから。そして、心配だからだよ」

 「理久は知ってるよね。俺は『聖剣士』って名前があるくらいに、ずっとずっと…」

 「だから何?俺にとっては、危なっかしいことばっかやる親友、そんだけなんだけど」

 優也が俯いて「理久の馬鹿……」力の全くこもっていない拳で俺を殴った。

 「バカで結構。実際お前の方が頭はいいしな」

 優也の頭を撫でる。今度は大人しく撫でられてくれた。

 暫く撫でていると、羽瀬川さんが戻ってきた。何やら酷く驚いているようには見えたが、親父さんと拓矢さんに報せてくると再度部屋を出てゆく。二人ともずっと上の空だったらしい。早く元気な姿を見せてやるべきだとは思う。


 テーブルの上のペンダントを手に取り、優也の首へ返した。うん、やっぱり優也が持っていた方がいい。

 優也は暫くペンダントをいじり回したあと「ねえ理久、どうやって俺に『取り憑いた迷魂』を回収したの?」不可能を可能にしたのだから、聞かれても不思議では無い事を聞いてきた。

 「んー、なんていうか。お前が取り憑かれたあとも俺、剣の能力使えてたんだよな。ちょっと力が強くなる程度だったけど。だから……」

 全て話すと「そっか、俺自身は『契約者としての能力』って、持ってないんだ……」少し寂しそうな顔をしたあと「でも、だから理久を救えたんだね」幸せそうに微笑んだ。

 華恋さんに連絡を入れると、状況を説明しろと言われてしまう。

 困っていると、優也がバーベキューに呼べばいいと提案してくれた。

 優也が元気になった姿を見て、親父さんと拓矢さんはそれぞれ優也が音を上げて逃げるまで抱きしめたり頭を撫でたりを繰り返していた。

 本当に可愛がられているのだなと思う。

 華恋さんは最初、呼び出されることに不満そうだったが、バーベキューのお誘いもついていることを伝えると先に言えと怒られた。








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