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本の中の聖剣士  作者: 旦夜
1冊目:執着の魔物
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1冊目:執着の魔物 009頁

 目を開ける。

 すぐ近くに、理久の顔があった。

 まだ寝ているみたい。

 しっかりと寝た時と同じように俺は抱きしめられていて、頭は優しく手が添えられている。

 理久の体温が暖かい。理久の匂いが心地よい。

 部屋はだいぶ薄暗くなってはいるが、灯りはまだ必要なさそう。

 まだ理久の腕の中に居たいけれど、流石にやる事がある。

 名残惜しくはあるが、そっと離れようとしたその時、理久が寝言を言った。

 「いかないで…チハヤ……おにーちゃん、ひとりに…しないで………」

 考えないように、していたこと。

 理久の、願い事。

 昔出会った『人型の迷魂』の名前はチハヤといった。

 死んだ時期と原因、あと名前が分かれば現実でその事件を見つけるのは簡単だった。


 『斉藤千隼さいとう ちはや』という名前の、俺と同い歳の男の子。

 理久のフルネームは『斉藤理久さいとう りく』だ。

 時々、理久が俺に誰かを重ねている様子から何となく分かっていた。

 理久のフルネームを聞いた時から、頭の隅にはあった。考えたくなかった。認めたくなかった。

 そして今日、少しだけ賭けをした。理久の願い事を把握するために。

 理久の願い事は恐らく《斉藤千隼を生き返らせたい》だ。

 それなら今の砂の溜まり具合も納得だし、多分来年には叶う。叶ってしまう。

 胸が苦しくなる。

 理久にとって俺は、亡くなった弟の代わりなのかもしれない。

 それでも、本気で心配してくれたり、優しくしてくれるのは代わりだからではないと思っている。

 弟と重ねながらも、ちゃんと『峰岸優也』として、親友として見てくれていると思う。だから、それだけで十分なのだ。

 たとえ、二度と訪れない幸せになろうとも。

 このままもう一度寝てしまおうか、なんて思いながら理久の腕から抜け出し、白紙の本を開く。

 他に『迷魂』が居ないかクリスに確認したが、居ないらしい。

 どうやら物語は終盤のようで、僧侶アンナ含む主人公達がこの街に到着していた。それどころか問題も解決してしまっている。

 だいぶ寝ていたみたいだ。

 おかげで街全体がお祭りムード。ああ、ここを理久と一緒に歩きたい。

 起きるまで待とう。

 そして、おはようって声をかけるんだ。




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