恋人が敵対派閥なので分からせたい(茶番)
「たけのこなんてありえない。きのこ一択でしょ!」
「はぁ? きのこの方がありえないだろ!」
とある日、とある高校、とある昼休み、とある教室にて、高校生の男女が突然声を荒げて喧嘩を始めた。
「たけのこは変な粉が着いているしチョコレートの部分を持たなければならないから手が汚れるのよ。その点きのこはクッキーの所を持てば汚れないで食べやすいわ」
「そのクッキーしか無いところが味気無いんだよ。たけのこは何処を噛んでも同じ甘さで幸せに浸れるだろ」
「メリハリがあるから良いんじゃない。もしかしてカレーは全部混ぜる派? うわーきもい」
個人の感想です。
「なんでカレーの話になるんだよ。それとこれとは別の話だろ。もしそうなら親子丼だって全部ぐちゃぐちゃに混ぜて食べるってことになってキモいだろ」
個人の感想です。
カレー混ぜる派のクラスメイトだけは少しだけイラっとしていたが、基本的にこの二人の喧嘩については誰も反応することが無いのが日常風景だった。
「何々どうしたの? もしかして喧嘩?」
しかし今日は他のクラスから友達に会いに来た女子が居て、しかも彼女は好奇心旺盛で面白そうなことに首を突っ込みたいタイプであったがゆえ関わりに行ってしまった。
「関わっちゃダメ!」
「絶対後悔するぞ!」
そんなクラスメイトの静止を振り切ってまで恋人同士の喧嘩に関わろうとするなど正気の沙汰では無いのだが、話の内容がネットで良くある面白そうなネタで深刻そうではないと判断して特攻したのかもしれない。
「貴方達でも喧嘩するんだね。しかもそのネタがきのこたけのこってのがウケる~」
喧嘩をしている男女、政岡 純也と玉手川 萌易は校内で有名なバカップルだ。所かまわずイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャしまくりソロの方たちを毎日のように苛立たせている。
そのバカップルが喧嘩をしている珍しさもあって、別のクラスの女子千堂 渚 は強い興味を抱いたのだろう。
「もしかして他にも似たようなのあるの? ほら、お好み焼きに白ご飯とか」
あまりにも図々しく会話に割り込んで来た千堂だが、バカップルの二人は彼女の事を全く知らないにも関わらず受け入れようとしていた。
「そうなの! 聞いてよ、純也ったらお好み焼きとライス一緒に食べるんだよ。炭水化物と炭水化物ってありえないでしょ!」
個人の感想です。
「お好み焼きは炒めたキャベツにソースかけたようなもんだからご飯に合うに決まってるだろ。萌易こそ焼きそばとライス一緒に食べるとかあり得ないだろ!」
個人の感想です。
「ふふん、世の中にはそばめしというものがあるんだもんね」
「それ一緒に炒めてるからライスとは違うだろ」
千堂の介入を彼らが許したのは、喧嘩の燃料を持って来てくれたからだった。
「うわぁ、好み全然違うんだね。ラーメンライスとかでも喧嘩しそう」
「「それは普通でしょ(だろ)!?」」
「あ、はい」
とてつもなく力強い目線と勢いで迫られて流石の千堂も少し面食らってしまった。そしてそれを誤魔化すかのように他の話題を切り出した。
「そ、それじゃあうどんの出汁とかはどう? 関東風と関西風とか」
咄嗟に口に出た例だったが、どうやらこれも彼らが気に入ったテーマのようだ。
「当然関東風だ」
「当然関西風よ」
「「何をー!?」」
どうやら純也は関東風で萌易は関西風が好みのようだ。
「関東のうどんなんてしょっぱすぎるのよ。味覚障害になりそう」
個人の感想です。
「関西のうどんなんて出汁がどうとか意識高い系が推してそうで気持ち悪いんだよ」
個人の感想です。
「あははは、おっもしろーい! じゃあさ、じゃあさ、アイスは? バニラ派?チョコ派?」
何を聞いても反対の反応を示すことが面白くて千堂が調子に乗って来た。
「バニラだ!」
「チョコよ!」
「「何をー!?」」
今度は純也がバニラ派で萌易がチョコ派とのこと。やはり綺麗に意見が分かれた。
「やっぱり王道のバニラ一択だろ。チョコとか邪道だわ」
「バニラなんてつまらないもん。チョコの方が甘いのもほろ苦いのもあって色々楽しめるもん」
「はん、バニラだって商品によって味が全然違うわ。萌易が味の違い分からないだけじゃね?」
「そういうこと言う!? 純也こそチョコの芳醇な香りが分からない香りオンチなくせに!」
「「何をー!?」」
たかがアイスの好みの話だが、これまでの反発が積み重なり徐々に喧嘩の勢いが増して行く。その様子が面白く更に煽ろうとする千堂だが、調子に乗っていたせいか少しだけ痛い目を見る羽目になってしまった。
「じゃあじゃあチョコミントは?」
「「歯磨き粉はちょっと……」」
「酷い! 私好きなのに!」
てっきり片方は味方してくれるかと思ったのにマジトーンで拒絶されて普通にショックだった。
なお当然これも個人の感想です。
「ぐすん、それじゃあからあげにレモンは?」
それでもめげない千堂が新たな火種を投げ入れた。懲りないな。
「それそれ! 萌易ったらこの前ガ〇トの唐揚げに勝手にレモンかけやがったんだ!」
「何よ、唐揚げにレモンかけるの当たり前でしょ。かけてあげたのに文句言うなんて変よ!」
「常識的に考えて唐揚げはそのまま食べるものだろうが!」
「レモンかけた方がどう考えても美味しいじゃない!」
先程の件があるのでマヨネーズはどうですか、とは千堂は言えなかった。
その代わりに一つ気付いたことを聞いてみる。
「デートはサ〇ゼじゃなくてガ〇ト派なんだね」
本当はデートにサイ〇があり得るのかと聞いてみたかったが、まだ高校生なのでオシャレなお店は値段が高くて手が出しづらいため違うファミレスとの比較を聞いてみた。
「私はサ〇ゼの方が良いって言ったのに純也がガ〇トじゃなきゃダメってしつこかったんだもん!」
「萌易が毎回サ〇ゼばかり選ぶから飽きたんだよ。それにガ〇トの方ががっつり食べれるから好きだし。萌易だって山盛りポテトフライ美味そうに食ってたじゃん」
「私はサ〇ゼのサラダとデザートを食べたいの!」
「ガ〇トでがっつり食べる方が絶対に良い!」
この調子だと大人になったら萌易はおしゃれなカフェ、純也はがっつり食べられる店を選びそうでまたしても価値観が違うんだなぁと千堂は興味深く二人が喧嘩する様子を観察していた。
「じゃあ最後に、目玉焼きには?」
「ソース!」
「醤油!」
「「何をー!?」」
ああやっぱり違うのねと思いつつも、千堂は不思議に感じていた。
果たしてここまで綺麗に意見が分かれることがあるのだろうかと。
些細な好みの違いが破局につながるなど恋愛では良くある話だ。
ここまで好みが違う二人が、いつどこで見てもイチャイチャしているバカップルであり続けるなんて可能なのだろうか。
「百歩譲ってオーロラソースでしょ!」
「百歩譲って塩に決まってる!」
「そもそも純也は半熟ばかり食べてて気持ち悪いのよ!」
「固焼きなんてボソボソして食えたもんじゃねーよ!」
「味が濃縮されてて美味しいじゃない!」
「半熟のトロっとした食感が美味しいだろ!」
千堂の疑念をよそに二人の喧嘩がこれまで以上にヒートアップして来た。
流石に煽りすぎたかなと思った千堂が慌てて止めに入った。
「まぁまぁ落ち着いて。それだけ好みが違うと大変だね」
「そんなことはないぞ」
「そうでもないよ」
「え?」
だが怒っていたはずの二人は千堂の言葉をきっかけに何故か突然大人しくなり、この程度の好みの差など問題無いと言い放った。
「「だって分からせるからな(もん)」」
「分からせる?」
それはつまり自分の好みを相手に納得させるという意味なのだろうか。
だがお互いに譲れない好みがあるのならば、強引に相手に認めさせようとするのは逆効果ではないだろうかと千堂は訝しんだ。
「まずはコレだな」
「コレよね」
純也はたけのこのお菓子を、萌易はきのこのお菓子を取り出した。
「さぁ萌易、たけのこの美味しさにひれ伏すが良い」
「ふふん、負けないもんね」
そしてまず純也がたけのこのお菓子を萌易の口に放り込んだ。
「美味しい」
「だろ?」
純也に食べさせてもらったお菓子を美味しそうに頬張る萌易。
それをじっくりと味わって飲み込んだら今度は萌易の番だ。
「でもきのこだって負けてないんだから。はい」
「おう」
今度は萌易が純也の口にきのこのお菓子を放り込んだ。
「たしかにメリハリが効いててこれはこれで……」
「でしょ?」
先程とは真逆に萌易に食べさせてもらったお菓子を美味しそうに頬張る純也。
そしてまたしてもじっくりと味わって飲み込んだら次は……
「だがやっぱりたけのこの方が上だな。ほらほら、たけのこの虜になっちまえ」
「はむ」
再度純也が萌易の口にたけのこのお菓子を放り込もうとするが、今度は萌易が純也の指ごと口に咥えてしまう。
「もぐもぐ、おいし」
「だろ?」
純也は萌易が幸せそうにお菓子を食べるのを恍惚の表情で眺めながら、濡れた指を自らの口へと放り込む。
「なにこれ?」
ここに来てようやく千堂は理解した。
これは喧嘩ではなく、ただのバカップルのイチャイチャだったのだと。
敢えて敵対関係を演じることで、こうして食べさせ合うきっかけを作っていたのだ。これまでのうどんやアイスや目玉焼きについての話も、今後似たようなイチャイチャをするための話題作りのつもりで千堂の話に乗っていたのだろう。
千堂の質問に対して即答で敵対関係に別れることが出来ていたのも、相手がどちらを選ぶのかが反射的に分かる程にお互いの事を理解して好き合っていたから。
「だから関わるなって言ったでしょ」
「…………うん」
ゲロ甘のバカップルぶりを見せつけられて放心状態の千堂の元にやってきた彼女の友人が、慰めるかのように優しく肩に手を置いた。
「私まだたけのこの良さ分からな~い」
「なんだと、それならこれでどうだ!」
すでに千堂の存在を忘れて口移しでお菓子を食べさせ合いっこしかけている二人から逃げるように、千堂はその場を離れて行った。
そして興味本位でバカップルに近づいたことを猛省し、もう二度と近づかないと心に誓った。
個人の感想です。
どうでも良い話ですが作者の好みは以下の通りです。
・たけのこ派
・カレーは混ぜない
・お好み焼きに白ご飯はあり
・そばめしはOKだけど焼きそばに白ご飯はなし
・ラーメンライスはあり
・うどんは関東風(僅差)
・アイスはバニラ派
・チョコミントあり
・からあげレモンはあり(でも勝手にかけるのNG)
・サ〇ゼ派
・目玉焼きには醤油
・シチューにはパン派