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96 輝かしい未来への前進ですわ!




「お嬢さま。準備がととのいました」


 チヒロの声に、閉じていたまぶたを上げる。

 目にうつるのは、鏡の前に腰かけた金髪の女性。


 髪を後ろ頭に結ってまとめて、顔にはうっすらとお化粧。

 体をつつむ丈のながい純白のウエディングドレスに、二の腕までを覆ったホワイトグローブ。

 はて、この人は誰……?


 ……あぁ、わたしか。

 自分で言うのも難だけど、あまりにもキレイすぎて一瞬自分だと思えなかったわ。


「このような出来栄えでいかがでしょう」


「完璧ですわ。やはりチヒロに準備をたのんで正解でしたわね」


 いやはや、ここまで化けるものなのね。

 ……普段の自分の顔を良くないと思っているわけではありません、念のため。


「あとはアイシャの準備を待つばかり、ですわね。そうしたらいよいよ――」


 いよいよ、わたしとアイシャの結婚式が行われる。

 今日この日、王城の大礼拝堂で、永遠の愛を誓いあうのね。

 なんだか夢のようだわ。


「アイシャベーテさまのご様子、確認してまいりましょうか」


「いえ、結構。式場でじっさいに顔を合わせて惚れ直したいのですわ」


 その方が破壊力が増すでしょうし。

 なにせ自分にすら見惚れそうになるくらいなんだもの。

 アイシャのウエディングドレス姿、とっても楽しみだわ。


「では、お嬢さま。アイシャベーテさまに先んじて会場前で待機いたしましょう」


「えぇ、そうですわね。あちらの方が先では格好がつきませんわ」


 なにせこの式、ミストゥルーデ家の主催なのよね。

 当初の予定どおり、アイシャがミストゥルーデ家に嫁ぐ形に決まったから。


 以前にお義父さまから、エイワリーナ家に入る形にしないかと提案されたことがあった。

 それを断ったのがアイシャ。

 わたしがエイワリーナ家に嫁ぐ形になった場合、わたしのやりたいことをするときに身動きがとりにくくなる、っていうのが理由だった。


『言ったでしょ、その……、あなたを支える妻になるって。コレはその第一歩』


 なんて言われたらもう、ね。

 本当によくできた奥さんです。


「お嬢さま、顔がだらしなくなられております」


「あ――。こ、こほんっ」


 いけないいけない、アイシャのことを思っただけでデレデレしちゃってたみたい。

 改めて表情を引き締めて、と。


「チヒロ、参りますわよッ」


「はっ」



 礼拝堂にはすでに、たくさんの貴族のみなさんがあつまっていた。

 よく知っている人、見覚えのある人、果ては初めて見る顔まで、何百人もいるんじゃないかしら。


 礼拝堂の広さも、王都にある礼拝堂のだいたい2、3倍くらい?

 はしっこの入場口の影からコソコソのぞいて、ほんの少しだけ圧倒されてしまった。


「――お嬢さま。あちらの準備もととのった様子です」


 チヒロが反対側の入場口を指さした。

 礼拝堂がおっきいせいで小さくしか見えないけど、たしかにウエディングドレスに身をつつんだ女の子と、それからメイドさんの姿。


「お嬢さまからご入場を。あとはご教授したとおりに」


「わ、わかりましたわ。わたくし、行ってまいります……!」


 緊張がないわけじゃない。

 けどここは、アイツを見習って堂々と貴族らしく、肩で風切っていきましょう。


 わたしが姿を見せたとたん、礼拝堂が盛大な拍手につつまれる。

 少しおくれてアイシャも歩き出し、礼拝堂の中央をとおるレッドカーペットの上でむかい合った。


 その瞬間、時間が止まったような気がした。

 拍手の音も歓声もなにも聞こえないほどに、アイシャに見惚れてしまった。


「………………」


「……? ソルナ?」


「あ、し、失礼。あまりにアイシャがキレイだったもので」


「ば、ばかっ。……ソルナもキレイだっての」


 それダメ、愛おしさが振り切れちゃう。

 式の真っ最中じゃなかったら抱きしめちゃってたところだわ。


 それからわたしたちはふたりでバージンロードを歩いて、祭壇の前で指輪の交換をして。

 そんな形式的な儀式の最中も、わたしはずっとアイシャしか見えていませんでした。


 儀式が終わったあと、お父さまとエイワリーナ公がわたしたちの両サイドに。

 貴族同士、ましてや公爵家同士の婚礼である以上、政治的な意味合いも強いものね。


 お二人の、両家の結びつきと繁栄を語るスピーチがはじまった、そのとき。

 わたしが出てきた側の入場口から、見知った顔が見えた。


 ほんの一瞬だけ顔をのぞかせて、目があって、それっきり。

 なにも言わずに、また物陰に引っ込んで去っていった、よく見知った顔。

 毎日鏡で見続けている、あの顔。


「……ふふっ」


「ソルナ? どうかした?」


「……いえ。なんでもありませんわ。――なんだかんだで、来てはくれたのね」


 お祝いの言葉もなにもなし。

 けれどアイツらしいと言えばらしい、か。


 ……うん、来てくれてありがとう。

 わたしの片割れ。



 〇〇〇



「よかったのかい? ほんの一瞬顔を見るだけなんて」


「このわたくしがあの場に出ていってごらんなさい。大騒ぎになるに決まっているでしょう」


「あまりにも美しすぎて、かな?」


「そのクサいセリフ、相変わらず鼻につくわね。今さらノコノコ会いにきたのも気にくわないわ」


「僕が死んで悲しかったかな。だとしたら雲隠れしていた甲斐があった」


「……はぁ。冷静に考えればわかったはずなのに。あそこより上の三階に、ドクトルの端末があったんだもの。ピンピンしてるあなたなら簡単にあそこまで行けるって。責任逃れでコソコソ逃げ隠れる姿、貴族の風上にも置けないわね」


「誇りと責任に殉じる貴族なんて、キミのもっとも嫌いなものだろう」


「えぇそうね。けれどそんなあなたも嫌いだわ」


「またフラれてしまったか。けれど何度フラれても、どこに行こうとも、キミについていこう。キミの未来を見届けるために」


「……しかたないわね。見届ける権利だけはあげるわ。このわたくしの、輝かしい未来への前進を」



 〇〇〇



 礼拝堂でのおごそかな式が終わって、舞台はおなじく王城のパーティーホールにうつった。

 アカデミーのダンスホールの数倍の広さの会場に、たくさんのテーブルが用意されて、その上にたくさんの料理やお酒が所せましと並ぶ。


 さっきまでの雰囲気とはちがって、なごやかな社交会って雰囲気だわ。

 わたしとアイシャが座る席にはわたくし家臣団のメンバーや、お父さまたち家族が集結。


「ソルナちゃん゛きれいだね゛――っ!! おーんおんおん!! おめでとうッ、おめでとうぅぅぅ゛!!」


 貴族の皆さんがいるにも関わらず、お父さまがダメなカンジになっているけれど、お酒のせいってことにしておこう。


「ソルナさまっ、とってもおキレイですわぁ」


「素敵な結婚式。あこがれますのっ。……でも、あの方はやはり来ませんでしたのね」


「ですわぁ……」


「……いいえ。ちゃんと来ていましたわ」


「ホ、ホントですのっ!?」


「ほんの一瞬、顔を出しただけでしたけどね」


「ふふっ、あの方らしいですわ」


「……なんの話?」


 おっと、置いてけぼりにされたアイシャの機嫌が……。


「えっと、後で話しますわ。ちょっといまの状態のお父さまには刺激が強すぎますので……」


 ショック死しかねない、わりとマジで。



 その後、醜態をさらし続けたお父さまがお母さまに連行されていき、家臣団メンバーもそれぞれに散らばっていった。

 テーブルに残されたのはわたしとアイシャだけ。


 ……姿の見えないチヒロもきっと、どこかからわたしを警護しているのでしょう。

 かつての爺やのように。


「アイシャ、誰かと話しにいきませんの?」


「ここがいい。……あなたのそばがいいの。ソルナの方こそ、ずーっとここにいるわね」


「アイシャが動かないから。今日は離れたくありませんもの」


「……そう、なんだ」


 ほんのり嬉しそうに笑うアイシャ。

 それからわたしの顔をチラリと見て、何度か迷う仕草をしたあと。


「……んっ!!」


「!!?」


 なんとアイシャの方からキスをしてきた。


「……いまの、誓いのキスだから」


 貴族の結婚の儀式って、永遠の愛を誓うキスはしないのよね。

 愛のない婚姻がほとんどだから。

 つまりこのキスの意味するところは、わたしを永遠に愛します……?


「この先ずっと、あなたを支えてあげるんだから。イヤって言っても離れないからね」


「離れませんわ。ずっといっしょにいますわよ」


 アイツの言葉を借りてから、今度はわたしの方から誓いのキス。

 永遠の愛を誓い合ったわたくしたちの前進は、輝かしい未来へと続いているに違いありませんわ!




最後までお読みくださってありがとうございます!

いつもののんBとは違うジャンルでやってみましたが、楽しんでいただけたなら幸いです。


1、2週ほど準備期間をいただいたあと、ハイファンでいつもの感じの新連載を始めようと思っておりますので、そちらの方もよろしくしてくだされば嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
[良い点] わあ、彼は生きていたんだ、これには驚いた お疲れ様でした 最初から最後まで本当に楽しかったです [一言] あなたの新しい物語を必ず読みます、今日まで私のお気に入りはドラゴンスレイヤーです
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