表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/96

88 タイムリミットが迫りますわ!




 もうひとりのわたしの言うところによると、浮遊城の乗組員は総員213名。

 ドクトルが死んだことでひとり減って、もうひとりのわたしも抜くと211人がゲートをくぐれば全員避難完了なわけね。

 ゲートの上に転送者のカウントが表示されてくれているおかげで、取り残される人が出る心配はなさそうだわ。


 城中から集まってきた兵士やコック、住み込みで働いているっぽい老若男女たちが、一列にならんでゲートに進んでいく。

 これ、わたしとアイツでゲートを開いているわけだから、ふたりで協力し合っているのよね。


 嬉しいような不思議なような、一言じゃ言い表せない気分だわ。

 なんだかくすぐったいカンジ。


「……そこ、なにボサっとしているの。指を離したら大変なことになるって言いましたわよね。気を抜かないでくれる?」


「わ、わかっていますわよ……!」


 正論なんだけども、やっぱ気に入らないな、コイツ。

 言い方かしら?


 テュケさんクラさんの誘導もあって順調に避難が進んでいく。

 そうして爆発まで残り5分を切ったところで、進んだカウントが210人。

 あとひとり、ゲートをくぐれば避難が終わるわけなのだけれど……。


「ちょ、ちょっと! もう誰も並んでいませんわよ!?」


「いまのが最後のおひとりみたいでしたわぁ……」


「ま、まだだれか、城内のどこかにいるってことですの?」


「はぁ、騒がしいわね」


 いやさわぐでしょ。

 なにため息なんてついてるのよ。

 ……なんて思ってたら、なんとゲートがいきなり消滅してしまった。


「なんで消えましたの!?」


「……潮時ってことね」


 アイツ、台座から端末を引っこ抜いちゃった。

 どういうつもり?

 アイツがゲートを止めたってこと!?


「待って! あとひとり取り残されてるかもしれないのに! アンタ見捨てるつもりなの!?」


「そんなこと一言も言っていないけれど」


「だったらなんで……」


「あなたと言い争ってる時間も惜しいわ」


「この……! ……もういい。アンタがそういうつもりなら。テュケさんクラさん、探しにいきますわよ!!」


「え、は、はいですのっ」


「お供いたしますわ……!」


「お待ちなさい。探すアテでもあるというの?」


「あるわけねーですわよそんなモン! それでもこうして待っているよりは――」


「ついてきなさい、こっちよ」


 なんとアイツ、わたしたちを先導して走り始めた。

 まさか最初から、自分でむかえに行くつもりだったってこと……?


「足を骨折している女中がひとりいるの。9歳の少女よ。ゲートを通ったところを見ていないから間違いない。どこかで転んでいるかもしれないから、彼女の部屋まで進んでみるわ」


「……アンタ。結構いいヤツだったりします?」


「ケンカ売ってるのかしらね」



 〇〇〇



 地下7階から出発して、もうすぐ4分。

 現在位置は本城の2階。

 あちこちに表示されてる爆発までのリミットは、もう30秒を切っていた。


「あったわ。彼女の部屋よ」


 アイツが指し示した部屋のトビラを勢いよく開け放つ。

 室内には――いたわ。

 床に倒れたまま起きられずにいる女の子。

 松葉杖が部屋の端に転がってしまっているわね。


「シャ、シャディアさま! ……がおふたり?」


「もう大丈夫よ、レミィ。それからアイツはわたしじゃないから」


「は、はい……!」


 アイツが女の子を抱き上げて、これで救助完了ね。

 あとは本当に脱出するだけ。


「さ、行きますわよ! チヒロの待つ飛行ゴーレムまで、全速力ですわ!」


 飛行ゴーレムの定員は5人。

 だけど9歳の女の子ひとり分の体重が増えるくらいなら、なんとかなるはず。


「で、ですがソルナ様っ! もうタイマーが……!」


 部屋を飛び出したその瞬間。

 テュケさんの悲鳴混じりの声と同時にタイマーがゼロになった。


 ――ッゴォォォォォォォォォォ……ッ!!


 はるか下の方から聞こえる大爆発の音。

 同時に足元がグラグラと、立っているのがやっとなくらいに揺れる。


「ま、まずいですわ! 時間切れ……!」


 きっとアルムシュタルクの中枢部と底部の砲身が、ドクトルの爆弾で吹っ飛んだんだわ。

 地下7階にいたままだったら死んでたかも……。


「これだけ大きな城が崩壊するまでには、まだまだ時間に余裕があるはず! 無駄口叩かず走りなさい!」


「わかってますわよ……!」


 子どもひとりを抱きながら走るアイツの速度に合わせ、2階フロアを駆け抜けるわたしたち。

 テュケさんクラさんのおふたりが先導し、わたしとアイツがならんで走る形ね。


 爆発の影響でカベや床がヒビ割れて、天井からパラパラと破片が落ちてきている。

 いつ崩壊してもおかしくない雰囲気だわ……!


 ピシっ、ピシっ……!


 そのとき、頭の上からすっごくイヤな音が聞こえた。

 見上げた瞬間、案の定。


 わたしたち全員を押しつぶすくらいの大きさの破片が、天井から落ちてきた。

 そりゃもう天井そのものと言ってもいいくらいの大きさの。


「……っ、ソルナ様ッ!!」


「こんのっ、ですわぁ!!」


 ドガァァッ!!


 思わず身をかがめたわたしとアイツの頭上で、巨大な破片が粉々に砕け散る。

 テュケさんクラさんのおふたりが、思いっきりブン殴って粉砕してくれたのね……!


「お怪我はありませんかっ?」


「あぶないところでしたの……!」


「あ、ありがとう。助かりましたわっ」


 わたしに手を差し伸べる、とっても頼もしいおふたり。

 いっしょにいてくれてなかったら、アイツと女の子といっしょに仲良くぺちゃんこだったわ。


「もうひとりのソルナ様も、お立ちになって!」


「急いでいっしょに脱出しますの!」


「え、えぇ……」


 驚き半分の表情で、テュケさんの手を取るアイツ。

 女の子にもケガはなさそうね。


「……あなたたち。本当に強くなったのね。私の想像よりもずっと。オオカミ相手にすくみ上っていた頃が、ウソのようだわ」


「ソ、ソルナ様が……っ!?」


「わたくしたちを、お褒めになってくださいましたわぁ!?」


「驚いてる場合!? ほら、急ぐわよ!!」


「は、はいですのっ」


感慨かんがいにふけるヒマもございませんものねっ!!」


 そう、こうしているあいだにもどんどん崩壊が進んでいる。

 チヒロが待ってる中庭だっていつまで無事かわからないもの。

 あそこまで崩れちゃったら、脱出する手段が失われてしまう。


 ふたたび走り出すわたしたち。

 一階に降りるための階段までたどり着き、全速力で駆け降りる。


 けれどそこでまた、聞きたくない音を聞いてしまった。

 しかも今度は足元から。


 ピシっ……!


「……ッ! まず――」


 声を出す間もなく、階段が崩壊する。

 先を進んでいたテュケさんクラさんは難を逃れたみたいだけど、わたしとそのとなりを走っていたアイツは、階段の崩落とともに抜けてしまった一階の床ごと、さらに下へと落ちていった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ