83 ドクトルのテンションがやべぇですわ!
永遠の命だなんて、とんでもないことを盛大に言ってのけたドクトル。
テンションブチ上がってノリノリになってるわね。
「わたくしのおかげで理論が完成した、とはどういうことですの?」
「俺が祝福の光から複製人間を生み出す装置を作ったこと、当然知っているだろう?」
「よぉく存じておりますわ」
えぇ、もう嫌というほどよく知っているわよ。
セバスさんの『祝福の光』をもとに、あなたが造った装置によって生み出されたのが爺やだもの。
「アレで作った複製人間な、生体情報にほんのわずか、ごくごく微少な差異が見受けられたんだ。ここで二つの可能性が考えられた。1、俺の装置が不完全。2、バースクレイドル製でもおなじこと。……まぁ、手元にお嬢たち二人のデータならあった。当時の状態でなら、完全に一致していたよ」
どういうわけでアイツの手元にわたしのデータがあるのかしら。
ちょっと気味が悪いわね……。
「これで2の可能性が潰れたかといえばそうでもない。時間の経過によって変質することだって考えられる。現にお嬢たちふたり、性格が全然ちがうからな。生まれ育った環境ゆえか、それとも生体情報の変化によるものか、証明する必要があった。そこでお嬢に協力してもらって調べたら、当時のデータと差異が見られたんだ。2の仮説が証明されたかに見えた。だからこそ、お嬢の生体データをアルムシュタルクの絶対的なセーフティーロックとして使ったんだ。……ンがっ、と・こ・ろ・がッ!!」
こ、怖い……。
ペラペラしゃべっていたかと思ったら、急に目ン玉ひん剥いて怖い……!
「もうひとりのお嬢がロックを解除したことで、仮説がぜんぶひっくり返されたんだぜェ!!? 時間経過で変化していた生体情報まで、そっくりそのまま同じだったということッ!! これは驚きだ! バースクレイドル製の複製人間は、元となった人間の完全なるコピーだったんだッ!!!」
「ちょ、ちょっとお待ちくださいましっ! あなた、わたくしたちのこと、ずっと見ていて知っていましたのっ!?」
「いやいや、この部屋に侵入者が入ったら俺のところに通知が来るようにしていた。それだけさァ」
「そうなんですのね……」
「なにせこのフロア、とっても大事な場所なんでねェ。ヒヒっ」
意味ありげに笑うわね、アイツ。
浮遊城の中枢部、って以外にもなにかあるっていうの?
「バースクレイドルによって誕生した人間が完全なる複製体となると、話が変わってくる。この俺の開発した『とある失敗作』が、俺の目的を叶えるための最大最高の発明となったんだ。その名も『人格転写装置』。どういうものか気になるだろォ?」
「いえ、別に……」
「そう言うな。いまから見せてやるよ。最終実験、実証スタートだ」
ドクトルが手元でなにかを操作するような仕草を見せた。
すると、沈黙していたはずの中枢フロアが不気味な鳴動をはじめる。
「な、なに……!? なんですの!?」
「皆さま、警戒を! 一か所にあつまってお嬢さまの周囲を固めましょう!」
「はいですわっ!」
「ですのっ!」
チヒロの号令で、テュケさんクラさんがすぐさま動いた。
三人でわたしともうひとりのわたしを囲んで、全方位を警戒しつつ武器をかまえる。
「ヒヒっ、ムダムダぁ」
ホールの右端、左端のカベから、ものすごくでっかくて白いお椀みたいなモノがせり出してくる。
なんなのよ、アレは……。
「あまりにも高度な装置ゆえに、仕掛けが大がかりになり過ぎてねぇ。エネルギーの増幅アンテナもほら、この巨大さだァ」
どうやら増幅アンテナ、というらしいわね。
そのアンテナの中心部に、バチバチと電流みたいなものが流れる。
直後、いきなり頭が割れそうなくらいに痛みはじめた。
「う――ッ、ぐ、ああ゛あぁぁぁあぁ゛ぁああ゛ぁぁぁッ!!!!」
「お嬢さまッ!?」
「いかがされましたのっ、ソルナ様!!」
「し、しっかりしてくださいましっ!!」
みんなの声に返事をかえすことが出来ず、頭をかかえてその場にうずくまる。
さらにわたしのすぐそばで、アイツも。
「う……っ、あぁぁ゛ああ゛ぁッ!? あ、ああっぁあ゛あぁぁ゛ぁぁ!!!!」
意識を取り戻すと同時、頭をかかえて絶叫しはじめる。
なにが起こってるの、なんて考える……、余裕すら……、ない、かも……っ!
「ド……ッ、クトルぅぅぅッ! こ、れはっ、いった、い……っ、あぐぅぅ゛ぅっ!!」
「悪いな、お嬢。最悪の寝覚めを提供しちまった。だがこいつぁお嬢にとっちゃ、悪い話でもない。いまから正真正銘のソルナペティになれるんだぜェ?」
「どういう、っああぁ゛ぁぁぁ゛ぁ!!」
わ、わたしより、も……っ、苦痛が、軽いのかしら……っ。
アイツ、わたしとちがって、話すくらいなら、できるみたい、……っ!
「あらためて紹介しよう。コイツぁ人格転写装置。対象となる人間に、コピー元の人格をそっくりそのまま移動することが出来るのさァ。人格を上書きされた方は消滅し、移動した方は意識もそのまま肉体を乗っ取ることが出来る。元の肉体は抜け殻となるがね。永遠の命の、コイツが『答え』だ」
「なんというモノを……!」
「ソルナ様にいま、ソレを使っているというんですの!?」
「人体複製装置の研究の副産物さ。しかし重大な欠陥があった。コピー元とコピー先が、そっくりそのまま生体情報の同じ肉体でなきゃ成功しないんだ。セバスを使った実験でこの欠陥が判明し、そのまま放置していたんだが、お嬢たちのおかげで実証実験を始められる! これでっ、これで俺の不死の夢が完成するんだァァァァ――ッひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!」
激痛で、視界がぼんやりしてきた……っ。
ドクトルの高笑いが……、すっごい耳障り、だわ……っ。
「ひゃはははははっ、ひゃははっ、……ふぅ。オリジナルからコピーに人格を転写するのが本来の使い方だが、逆も可だ。お嬢の人格がオリジナルに移動し、上書きされたとき、この装置は完成を見る。しばらく時間がかかりそうだし、成功するまで大人しく引っ込んでおくとするさ。そいじゃ、ごきげんよう」
ドクトルのっ、姿が、消えた……っ。
幻影、みたいなモンだって、言ってたものね……!
「……お二方、ここでお嬢さま方の警護をお願いいたします」
「え、も、もちろんですの!」
「けれどチヒロさん、どうするおつもりですぅ?」
「ドクトルのいる場所まで行き、装置の稼働を止めさせます。もうひとりのお嬢さま、ドクトルの居場所を今すぐ吐きなさい!」
「怒鳴らなくても……っ、しゃべりますわよ……! 本城のっ、3階、南側のフロアにある研究室、ですわ……っ!」
「……ご協力感謝いたします。では行ってまいります」