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78 お空のお城に潜入ですわ!




 飛行ゴーレム、ビックリするほど静かに飛んでいるわね。

 みたところ火が出ていたり、風を吹かしていたりする様子もないし。


「ねぇチヒロ、これどうやって飛んでいますの?」


「わたくしも気になっていましたわぁ」


「ですのですのっ」


 わたし以外にも興味津々な令嬢が二名。

 機体を安定飛行させながら、チヒロはまるで開発者かのように答えます。


「半重力制御ユニットで浮かんでおります」


「……ほう」


「あそこに浮かぶ浮遊城アルムシュタルク。その技術の原形を応用したようですね」


「なるほど……」


 さっぱりです。

 チヒロがなにを言っているのかさっぱりです。

 わたしもテュケさんクラさんも、三人で首を上半身ごと左にかたむけます。


 チヒロはわかっているのかしら。

 エイツさんから聞いたこと、そのまま言ってるだけじゃないかしら。

 わかっていたなら優秀なんてモンじゃないわよ、ホント。


「お嬢さま方、重心がブレてしまいますので」


「し、失礼いたしましたわっ! ほら、あなたたちも!」


「はいですわぁ!」


「背筋ピーン、ですのっ」


 ……なんてやり取りをしているあいだに、旧都の上空を通過。

 平原地帯の上に出ます。

 アルムシュタルクまで、あとすこし。


「……どんどん近づいてきますわね」


「こうしてみると巨大ですわぁ……」


「王城には負けますが、旧王城より大きいですの」


 あの中にいったいどれだけの戦力がいるのか、想像するだけでもゾッとするわね。

 アイツの腹心であり、爺や並みに強いセバスさんがいるはず。

 ソレとおなじ強さのセカンドとフォースだっているわよね、きっと。


 ……あー、いまゾッを通り越してゾクッとした。

 見つかったら一巻の終わりだわ。


「こ、こほん。皆さま方、潜入後の行動をいまから打ち合わせしておきましょう」


「賛成ですのっ」


「まずはやはり中枢部へ?」


「……いえ、ここはもうひとりのお嬢さまの確保にまいりましょう」


「その理由とは」


「中枢部にて機能を凍結させたあと、騒ぎが起きるかもしれません。エイツ様によれば、砲撃や移動などが誰にも行えなくなるだけで墜落の危険性はない、とのことですが、騒ぎが起きればそれだけ見つかりやすくなり、もうひとりのお嬢さまを連れ出すことも困難となるでしょう」


「なるほど。面倒なことから片付けるべき、と。さすがチヒロさんですわぁ」


「あっちのソルナ様、とっても面倒なお方ですものねっ。ぜひともそういたしましょう!」


 なにげに辛辣だわね、テュケさんってば。

 ほんわかした顔でアイツのことをこき下ろしたわよ。

 まぁ、そこはいったん置いといて。


「チヒロの意見、一理ありますわ。その方針でまいりましょう。……いざ見つかったとき、人質にもできますし」


「え」


「ソルナ様……?」


「名案にございます、さすがお嬢さま」


「……冗談ですわ」


 だからテュケさんクラさん、そんな目でわたしを見ないで。

 あとチヒロ、本気で同意しないでね?

 これでもお父さまからアイツのこと頼まれてるんだから、危険な目にあわすつもりなんてないのよ。


「と、ともかく、もう浮遊城も近いですわよっ! チヒロ、着陸の準備は出来ていまして?」


「おまかせあれ」


 いつの間にか目の前に迫った巨大な浮遊城。

 上から見るのは初めてだわね。


 中央に巨大な本城があって、その周囲を四つの塔と城壁が囲ってる。

 塔と本城が中庭に通った屋根付きの連絡通路でつながっているわね。


 城壁にはところ狭しと砲台が取り付けてあるわ。

 見つかったら一瞬で撃ち落とされそう。


 チヒロが操る飛行ゴーレムは、城壁の上を音もなく飛び越えて本城の近くへ。

 連絡通路から本城に入る入り口のちかくに、静かに着陸させた。


「お嬢さま方、到着にございます」


「ご苦労、チヒロ。……さぁ皆さま、ここから絶対に見つかっちゃいけないかくれんぼの始まりですわよ」


 少し声のトーンを落として、みんなの顔を見回す。

 全員引き締まった表情で、無言のままうなずいた。


 機体をおおうステルス機構はそのままに、静かに降りて草地の上へ。

 見張りの兵士とか、見たところいないようね。

 普通じゃ考えられない警備のうすさ、この城が空に浮かんでいるからこそかしら。


 それでもこんな場所、ぼんやりしてたら目立ってしかたない。

 素早く渡り廊下から城内に入って、それぞれ物陰に身を隠した。


(……この城の内装、王国の城とすこしちがうわね)


 内部を見てまず思ったのがコレ。

 床はたぶん大理石とかそんなカンジの素材で出来た、よくみがかれた石造り。

 だけど絨毯が敷いてない。


 貴族屋敷や王宮に、これ見よがしに置いてあるような騎士鎧も見当たらない。

 アイツのでっかい絵が飾られているかと思いきや、それも無し。


「……貴族趣味を徹底的に排除していますわね、アイツってば」


「本当に貴族が嫌いなのだとわかりますわぁ」


「チヒロ、アイツの部屋は?」


「あの階段をのぼった先、本城五階の南側にございます」


「よぉし、そこまで見つからないように進みますわよ……!」



 〇〇〇



 セバスが死んだ。

 なぜ死んだの?

 どうしてセカンドやフォース、アイツにつけてたサードまで死んでるの?


 あのとき、急に出ていったセバス。

 いったいなにに気づいたというの?


 自室のベッドにうつぶせになって考える。

 けれど考えがまとまらない。

 ただただ後悔と喪失感で、頭と胸のなかがぐちゃぐちゃになる。


 疑う余地もなく、セバスは忠臣だった。

 わたくしを第一に考え、わたくしを立て、わたくしのために動く、ふたりと得難い家臣。


 なのに、その忠義の理由を知って遠ざけた。

 感情のままに遠ざけて、話をしようともしなかった。

 ……最後に見せた笑顔の理由を、わたくしが知るすべは二度とない。


 どうしてこうなったの?

 どうして……。


「セバス……。セバス、来なさい……」


 パチンっ。


 指を弾く。

 こうすればいつでも、わたくしのもとに駆け付けた。

 目にも止まらぬ速さで現れて、わたくしの前にこうべを垂れた。


「来なさいよ……! このわたくしが呼んでいるのよ……っ」


 パチンっ。


 指を弾く。

 けれど誰も現われない。

 わたくしの呼びかけに応じて駆けつけるはずの従者は、もう二度と。


「どうして来ないのよ……! どうして死んだの……、どうして……っ」


 パチンっ。


 ムダだとわかっていても、もう一度。

 指を弾いたそのときだった。


 キィ……っ。


 トビラが静かに開く音がした。


「セバス……っ!?」


 どうかしていると思う。

 けれど本当に思ったの。

 本当に、セバスが帰ってきたと思ったの。


 けれどベッドを飛び起きて、入り口に視線をむけたとき、わたくしの目に入ってきたのはこの世でもっとも見たくない顔。

 この世で一番嫌いな顔。


「あなた、は……っ」


「お迎えにあがりましたわよ、ソルナペティさん。このわたくしが、じきじきにッ」


 鏡のようにそっくりな、もうひとりのわたくし。

 ソルナペティ=フォン=ミストゥルーデ。




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