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75 わたくしたちで乗り込みますわ!




 浮遊城に自ら乗り込む宣言をしたわたしに、陛下もためらいつつ了承を出した。

 これで潜入作戦承認ね。


「となると次の問題は、わたくし以外に誰を連れていくか、ですわ。飛行ゴーレム、定員五名でしたわね」


「一般的な成人男性の体重五名分、だね。それ以上の重量を乗せた場合、飛んでくれる保証はできない」


「強化外装の分も考えると、余裕なさそうですわね……」


 フルプレートアーマーをベースにしてるから、すっごく重たいのよね。

 女の子の軽めの体重を帳消しにしそうなくらいには重たい。


「まず一人目はもちろんチヒロですわっ」


「どこまでもお供いたします、お嬢さま」


 わたしの頼もしい片腕、チヒロ。

 強化外装を装備すれば、爺やにすら引けを取らないわ。

 これ以上ないほど頼れる戦力になるはず。


 もうひとりの片腕、爺やも指名したいところなのだけれど、彼は戻らない。

 もちろん生還を信じている。

 一方で覚悟もしている。

 どちらにせよ、いつ戻るかすらわからない爺やを頭数に数えるわけにはいかないわよね。


「二人目と三人目はテュケさんクラさん、お願いいたします!」


「もちろんですわぁ!」


「置いていったらお恨みしましたのっ!」


 テュケさんクラさんも、わたしの頼もしい親衛隊。

 もうひとりのソルナペティが関わってるぶん、やる気も段違いね。


「……残るひとりだが、私が行こう」


「お父さまっ!?」


 と、おどろきの叫びをあげたのはわたしじゃありません。

 目を丸くしておどろくアイシャです。

 つまり手をあげたの、エイワリーナ公です。


「私の腕前に対し、不安などあるまい。なにせ剣を交えた仲だ」


「おいおいワリーナ、そりゃないぜ! ソルナペ、俺を連れてけ!」


 マズール伯も立候補してくださったわね。

 おふたりとも、とっても頼もしい武人さん。

 いっしょに来てくれればこれ以上ないほど心強いのだけれど……。


「もうしわけございませんわ。五人目ならば決まっておりますの」


「む、そうか……」


「あぁ? 誰だそりゃ。まさかそこの、ワリーナの娘っ子とか言い出すんじゃないよな?」


「え、私!?」


「ちがいますわよ。アイシャまで危険な目にあわせられません。乗せるのは『ソルナペティ=フォン=ミストゥルーデ』ですわ」


「――あ、もしかして、もうひとりの……」


 そう、行きにだけ飛行ゴーレムを飛ばすわけじゃない。

 帰るときも五人乗りのゴーレムで飛んでいかなきゃいけないんだ。


「浮遊城を止めたなら、当然ワーキュマーに攻め込むのですよね。そうなったとき、もうひとりのわたくしがどうなるか保証は誰にもできませんわ」


「あぁ、その通り。戦時の混乱ってなぁ相当なモンだからな。命を落とす可能性だってあるぜ」


 マシュート伯の実感のこもったお墨付きをもらいました。


「お父さま、おっしゃっていらっしゃいましたわよね。『娘』を失いたくない、と。だからわたくし、そうならないためにアイツを連れて戻りますわ。お父さまと、なにも知らないまま王都にいらっしゃるお母さまのために」


「ソルナちゃん……。すまない、頼めるかな……?」


「えぇ! 誰一人欠けずに、かつ『もうひとりのわたくし』も連れて、必ず帰りますわ。安心して待っていてくださいましっ」


 これでメンバー決定ね。

 さて、あとは準備――といきたいところなのだけど、気になることがひとつだけ。


「エイツさん、最後に聞かせてくださいません? 先ほど、なにかを気にしていらっしゃいましたわよね」


「その件か。妙だとは思わないかい? ワーキュマーの戦略の要である浮遊城のシステム。その全権を左右するカギがソルナペティ=フォン=ミストゥルーデの存在だという事実」


「むこうのトップのソルナペティが、その権利を持っているというだけの話ですわ。なにも不思議じゃないのでは?」


「そう、普通ならば、ごくごく自然なセキュリティだ。だかキミたちは普通じゃない。ソルナペティの生体データ認証を突破できる人間がもうひとりいることを、ソルナペティ本人はともかく、設計者のドクトルは知っていたのではないだろうか」


「……知ってて、わざと『そういう設定』にしたのかも、と。そうおっしゃりたいのですわね」


 たしかに、そう考えると妙な話ね。

 ドクトルの開発した『祝福の光』で人体を造り出す技術によって、爺やが生まれたのだもの。

 だったらドクトルはわたしたちのことを知っていた可能性が高い。


「考えすぎかもしれない。しかし、もしも意図的に作られたセキュリティの穴だとしたら……」


「考えすぎ、ではないだろうな」


 陛下が重々しく口を開かれた。


「あの男、ドクトル――マシャード・ホルダームとはそういう男だ」


「ホルダーム……!」


 エイツさん、どうしたのかしら。

 ドクトルの本名を聞いたとたんに顔色を変えたわ。


 彼は会談の場にいなかったから、ドクトルの本名をいま初めて耳にしたはず。

 あの名前になにかあるのかしら。


「マシャードを王宮から追放するきっかけとなった『人体錬成技術』の発案。タイミング的にも、ソルナペティ嬢の一件を見て、あるいは知って考えついたに違いない。『ソルナペティ』という人間がこの世にふたりいることを知っていて、この設計にした以上、そこにはなにか必ず意味があるはずだ」


「エイツさん、なんか怪しいカンジの記述って資料に書いてあったりしませんの?」


「いいや、まったくどこにも。それに、これを罠だとするならば、それも不自然かつ遠回りが過ぎる」


 いったいどういうことなのでしょう。

 不自然なのに、ともすればわたしを誘い込むための罠にも見えるのに、そんなことをする意味がない。

 罠だとしても回りくどすぎる。


 これまでわたしをどうこうしようとか、さらってやろうとか、そういう動きもなかったし。


「はぁ……、もうさっぱりわかりませんわ。ドクトルという男の考えていること、さっぱりでしてよ……」


「……僕にはなんとなく、わかる気がする」


 エイツさん、ふところから古ぼけた本を取り出しました。

 何度も読み返されたらしく、表紙の色がうすれてボロボロだわ。


「ドクトルを突き動かすもの、きっと『好奇心』だ」


「エイツさん、その本は?」


「僕の発明の数々の、発想のルーツとなった本さ。店に質で流れてきたものを、僕自身が買い取った」


 懐かしむようにパラパラとページをめくりながら、エイツさんは語ります。


「自立型ゴーレムの試作案、浮遊機構の草案そうあん。魔法化学の大量の術式に、自然法則への自論。どれもこれも僕の好奇心を刺激してやまなかった。これを書いた人物の、尽きない好奇心が読み返すたびに伝わってきた」


 本をめくる手がとまり、最後のあとがきに目を通す。

 そうしてうなずくと、エイツさんはパタンと本を閉じました。


「この本の最後のページに記された著者の名前。『マシャード・ホルダーム』さ」


「なんと……!」


「ドクトルの本名ですわ……!」


 つまりドクトルって、エイツさんの師匠みたいなモノってこと?

 ドクトル本人のまったく知らないところで、だけど。

 とてつもない発明の数々と、それらがどこかドクトルと似通っていたことに、今さらながら納得がいったわ。


「彼の行動原理とは、おそらく自分の好奇心を満たすこと。罠ではないだろうが、『なにか』が起きるかもしれない。どうか気をつけてくれ」


「……それでも、爺やのもたらしてくれた情報ですわ。可能性に怯えず踏み込んでやりますことよッ!!」




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