表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/96

74 いまはただ、前進あるのみですわ!




 会談が終わった夜に、爺やは帰ってくるはずだった。

 けれど夜が更けても朝日がのぼっても、わたしのところに戻らない。


「爺や、おいでましっ!」


 パチンっ。


 いつものように指パッチンをしても、爺やは現れてくれない。

 いくら指を鳴らしても、何度鳴らしても、どれだけ呼んでも現れない。


「……お嬢さま。やはりこの情報、伝書バトで届いたということは――」


「チヒロッ! 言わないでくださいまし……っ」


「しかしお嬢さま。このような機密情報を、リスクをおかして敵地から伝書バトで飛ばすなど、普通ではありえません。ましてやあのお方が、です」


「受け入れろ、とおっしゃるの? 爺やが、爺やが……っ」


 その先を口にできない。

 考えることすらも、したくなかった。


「『そう』である前提で動きましょう。爺や様のもたらしてくださった情報を、ムダなものにしないためにも」


「……わたくしがいつまでもこうしていては、爺やの行動自体がムダになる。わかっておりますわ」


 ……うん、わかってる。

 いまは爺やの安否を考えないようにする。

 爺やの届けてくれた情報を活かす、それだけを考えよう。


「チヒロ、陛下やお父さまたち、みんなに連絡を。旧王城の会議室に集まってもらいますわ」


「かしこまりました」


 深々と一礼した直後、チヒロの姿が風のように消える。

 爺やとちがってまだわたしでも、なんとか目視できる速度。

 けれど日に日に早くなってる気がするわ。


「……わたくしも、参りましょう」


 立ち上がり、胸を張って堂々と、肩で風を切って歩き出す。

 爺やの仕える主人として、貴族として、恥ずかしくない『わたくし』でいるために。



 〇〇〇



 旧王城の会議室、大きな円卓に陛下を中心として、ミストゥルーデ公、エイワリーナ公、マズール伯の三重鎮(じゅうちん)が並ぶ。

 同席しているわたしとチヒロ、テュケさんクラさん、エイツさんにアイシャの『わたくし軍団』が霞んじゃう迫力だわね。

 怯んでる場合じゃないけれども。


 なにせこの面々を集めたのは、このわたし。

 だからわたしが中心になって話を進めていかないと。


「皆さま方、急の呼び出しにも関わらず、お集まりいただきありがとうございますわ」


「一大事と聞いては、痛んだ腰でも軽くするしかあるまい」


「で、ソルナぺ。こりゃアレか。前に言ってたヤツか」


「『彼』が情報を、もたらしてくれたんだね?」


「えぇ。ワーキュマーにあるドクトルの研究所から、爺やが機密情報を得ましたの。『浮遊要塞』を止める方法ですわ」


 わたしの発言のあと、会議室に誰からともなくざわめきが起こる。

 無言でうなずくエイワリーナ公に、さすがとつぶやくお父さま。

 けれど、とても喜ぶ気分にはなれなかった。


「……チヒロ」


「はっ、こちらにございます」


 背後にひかえるチヒロに合図を出すと、彼女は爺やの届けてくれた紙をわたしに差し出す。

 ちいさな数枚のメモに几帳面な爺やの字で、細かく書かれた情報。

 ありがたく使わせてもらうわね。


「専門的な用語が多くて、わたくしやチヒロにはわかりかねる内容でしたの。ということでエイツさん、解読と解説をお願いできまして?」


「頼まれた。噛み砕いて解説するよ」


 チヒロから受け取ったメモをエイツさんにパス。

 そのメモを無言で読み進めていくうちに、彼の表情が何度も変わる。

 おどろきから興奮、感動、そして最後は……困惑?

 どうしたのかしら、いったい。


「……エイツさん、なにかわかりまして?」


「あ――、あぁ、わかったよ。いろいろなことが、ね。キミの言うとおり、浮遊要塞を止める方法も記されている」


「おぉっ、僥倖ぎょうこうである! エイツよ、申してみるがいい。我らにも可能なことなのであろう?」


「えぇ、陛下。可能です。可能、なのですが……」


「どうしましたの? なにか問題でもありますの?」


「問題は、あるにはあるが――。……いや、もったいぶってもしかたない。簡潔かんけつに言うと、浮遊要塞の停止方法は――」


 会議室に緊張が走ります。

 わたしも思わず生つばを飲み込んでしまいました。


「……方法は『ソルナペティの生体データ認証』。アルムシュタルクの中枢部にある端末でこれを行えば、全機能の操作を永久凍結させられる」


 ものすっごく腑に落ちないカンジで言いましたわね。

 わたしたち、まったくピンと来ていませんが。


「え、えっと、つまりどういうことでして?」


「キミがアルムシュタルクの中枢部に行って、そこにある装置に手でもかざしてやればいい。キミ自らが敵地に乗り込まなければならないが、それであの城は機能を停止する」


「待って、エイツ! あの城に乗り込む!? そんなのソルナが危険すぎるわよ!」


「……それ以前にエイツ、あの城に乗り込む手段がなければどうにもなるまい。そもそも、それが出来れば我らの戦力で攻め落とせよう」


 アイシャと陛下がエイツさんに続けざまに指摘。

 たしかにこれ、大問題だわね。

 エイツさんってば、これで言いよどんでいたのかしら。


「たしかに、それらも問題でしたか。まず陛下、少数で、かつ隠密にであれば、アルムシュタルクへの潜入は可能です」


 ……と思いきや、ちがったみたい。

 あぁそっか、みたいな反応するとは思わなかったわ。


「飛行ユニットを内蔵した小型の鳥型ゴーレムを制作しました。せいぜい五人乗り程度の小さなものですが」


「そ、そんなもの作っていらしたの!?」


 今回の遠征に持ってきていた機材の数々、それを制作するためだったのかしら。


「そしてアイシャ嬢。キミの懸念はもっともだが、他に手段がない。物理的な破壊や制圧が可能な規模ではないんだ」


「で、でも……」


「アイシャ。わたくし、覚悟ならとうに決まっておりましてよ」


「……」


 アイシャからしたら、行ってほしくないわよね。

 すっごく危ないもの。

 自分でもわかってる。


「お父さまも、止めてくれませんわよね?」


「……娘が入れ替わっていることにすら気づけなかった私に、止める権利などないさ。だが、娘を『ふたり』も失うなど絶対にご免だ」


 いつになく真剣な面持ちで、お父さまがわたしをまっすぐに見つめてきます。


「無事にもどると、かならず約束してくれ」


「約束しますわっ! では、その飛行ゴーレムとやらの準備ができ次第、お空のお城に乗り込みますわよっ!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ