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68 ド派手な宣伝映像ですわ!




 きっといまこの瞬間、旧都の住民ほぼ全員が同じものを見上げていると思う。

 空にうかんだおっきな城と、大写しになったアイツの高笑いの顔を。


『旧都マシロギオンにお住まいの皆様がたッ! 静かでみやびなお昼をお邪魔してしまったこと、まずはお詫びさせてもらうわッ!』


 顔だけじゃなく、声もきっとこの街全部に届いてるわよね。

 アイツいったいなんのつもりで……。


『皆さまはワーキュマー共和国ってご存じかしら。王国がごまかしてしまって、実態がうまく伝わっていないのではないかしら。そんな皆さまのためにこのわたしが、まずはご説明させていただくわッ』


 両手をバッと広げるアイツの背後に、議会でも見たワーキュマーの国旗がひるがえる。

 わたしのいる中庭はもう騒然。

 早くやめさせろ、とか、騎士たちはなにをしてる、とか、知らないおじさんたちが怒鳴り散らかしてます。


『ワーキュマー共和国とはっ、王制を廃し、国民ひとりひとりが国を動かす権利を持った国! 才能や努力次第でトップにだって立てる国! 我こそは、という方はぜひとも移住をおススメするわ!』


「あ、あわわわ、ホントにソルナ様ですのっ」


「ホントのホントにあの方なのですわねぇ……」


 テュケさんクラさん、話に聞いていても実際に自分の目で見ると多少はショックよね。

 お父さまも眉間にしわを寄せて見上げてる。


「ねぇソルナ。アイツの狙いって何? 自分の国の宣伝かしら」


「それもあると思いますわ。けれど、きっと本当の狙いはアイツの大っ嫌いな王国の権威を落とすこと……だと思いますの」


「権威を……」


 あの空中要塞を見せびらかすような登場の仕方。

 眼下の街にむけられる、底部についた巨大な砲門があたえる民衆への圧迫感は並みじゃない。

 王国の戦力で立ち向かえるわけがないんじゃないか、って思わせたいのではないかしら。


『あぁ、それともうひとつ。皆さまが気になっていることでしょう、この城についた巨大な主砲。ひとたび火を噴けば、ここら一帯が丸ごと消し飛ぶ威力なのですが、もちろん意味もなく撃つつもりなどありませんのでご心配なく。それではごきげんよう』


 『ビジョン』が消えて音もとまった。

 アイツのド派手な登場シーン、ようやく終了したみたい。


「……あなたの想像どおりだったみたいね。主砲の使用を少しでもほのめかせば、民衆に不安が広がる」


「えぇ、そのとおりですわ、アイシャ。あの威容をさらせば『王国軍にはどうにもできないのでは』と思わせるにも充分。じっさい、現状なにもできないわけですし」


「たとえ小さな波紋でも、いくつも重なれば水面は大きく波立つわ。王国よりもワーキュマーの方に移住しよう、と考える者だって出始めることでしょう」


 まったく、とんでもないパフォーマンスをしてくれたわね。

 浮遊城は少しずつ高度を下げ、議会場の上空へと移動して完全に動きを止める。

 そして底部から青い光が地面へとのび、光のラインのなかを四人の人影がくだってきて、地面に降り立った。


 強烈な光でシルエットになっているけど、そのうちの一人が誰か手に取るようにわかる。

 『自分自身』、みたいなものだもの。


「……あらためまして、ごきげんよう。クレイド王国の皆さま方」


 優雅な口調でのあいさつとともに、光のなかからわたしそっくりのアイツが進み出た。

 あとに続く正装をした三人の男。


 ひとりは見慣れた顔。

 爺やのオリジナルであるアイツの腹心、セバス。


 ひとりは片眼鏡をかけた白髪の男。

 エイツさんすら足元にも及ばないような発明の数々を作り出した科学者、ドクトル。

 ――本名じゃないらしいけど。


 そしてもうひとり。

 よぉく見知った顔だわね。

 会うのはとってもひさしぶり。

 ホントにそっち側なのね、クシュリナさん。


「クシュリナード……!」


 アイシャの表情が、わずかに動揺の色を見せた。

 たとえ頭でわかっていても、自分の目で見るとショックは大きい。

 さっきのテュケさんクラさんと同じよね。


「そちら、国王陛下はまだいらっしゃらないのかしら。国に招いた他国の客人を待たせるだなんて、失礼じゃない?」


「私ならここにおるよ」


 旧議会場の入り口から、国王陛下が姿をお見せになられたわ。

 マズール辺境伯もいっしょにいる。

 なんと、どうやら誰よりも早く来ていたみたい。


「シャディア・スキニーといったね。我が領内までご足労いただき、感謝する」


「ご丁寧にどうも。本日はよろしくお願いいたしますわ」


 握手を交わすふたりだけど、おたがいに目が笑っていないわね。

 そりゃそうだわよ、なごやかなんてほど遠い。

 なにせこっちはむこうを潰す気満々なわけだし。


「……」


 あら、どうしたのかしら。

 握手を終えた陛下が『ドクトル』になにか言いたげな視線をむけた。

 けれど言葉を交わさずに、旧議会場の建物のなかへと戻っていかれたわ。


「私たちも行きましょう」


「ははっ」


 セバスさんのいいお返事とともに、ワーキュマーご一行も議会場内へ。

 わたしやアイシャ、テュケさんクラさんには目もくれず、ってわけですか。


 上等だわよ。

 会談にはわたしも参加するんだから。

 イヤでもわたしたちを眼中に入れてやる。



 軽い昼食をとり終わって、もうすぐ正午。

 いよいよこの時がやってきた。


「ソルナちゃん、準備はいいね」


「もちろんですわ、お父さま! テュケさんクラさんも、準備と覚悟はよろしくて?」


「ムンムンですのっ!」


「満々ですわぁ!」


 ミストゥルーデ陣営、準備万端です。

 お父さまの護衛をつとめるベテラン騎士さん二人もさすがの風格。


 エイワリーナ陣営からの参加者はエイワリーナ公とアイシャ。

 護衛に騎士さん三人、か。

 ……なんかあの騎士さんたち見覚えあるな。

 五本槍のメンバーじゃないかしら。


 そして陛下と護衛につくマズール辺境伯。

 この面々で、いざ会談の場へ。



 旧議会場の中心にある『大広間』。

 中心にすえられたとっても大きなテーブルの反対側に、アイツが不敵な笑みを浮かべて座っていた。


 その正面に陛下が座り、背後にマズール伯が立つ。

 陛下の左右に腰を下ろす、お父さまとお義父さま。

 マシュート公亡き今、王国の最高権力者がこの三人と陛下なのよね。


 それぞれの父親のさらにとなりにわたしとアイシャが腰を下ろす。

 添え物みたいなカンジだけれど、添え物になるつもりはないわよ。


「ワークレイド陛下。今日この日、この席についていただけたことに、まずは感謝を述べさせていただくわ」


「うむ。では始めようか。クレイド王国とそなたの『ワーキュマー共和国』。その行く末を左右するだろう会談を」




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