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64 妙な感じに略されましたわ!




 マズール辺境伯。

 隣国との国境の守備をまかされた、御三家に匹敵する王国の重鎮じゅうちん


 思えばこのひと、動向がすこし妙だとお父さまが気にしておられたわね。

 来なくてもいいはずの議会に顔を出していた、って。


 堂々と入ってきたマズール伯が、勢いよくエイワリーナ公のとなりに腰を下ろす。


「よっ、と! ワリーナの、いいソファー用意してんな!」


「ワリーナと呼ぶな。妙な略称をやめろ」


「いいじゃねーか、こまけぇこたぁ気にすんな!」


 よく笑い声もでかい、なんとも豪快な方ね。

 おなじゴツイおじさんでも、エイワリーナ公とは正反対のタイプと見たわ。


「……で、ミストの。この俺を呼んだ理由たぁ、いったいなんなんだァ?」


「気を悪くしたならすまないのだが、数か月前にキミのところへ『シャディア・スキニー』が訪れた、という情報を、つい先日つかんでね。加えて免除されているはずの議会への顔出し。まるで『なにか』が起こることを知っていたのではないか、と思った次第さ」


「はっ、回りくどい言い方しやがる。はっきり言ったらどうだ? 『お前をうたがっている』ってよ」


 い、いきなり険悪なムード?

 かと思いきや、この人いまのセリフをニンマリしながら言ってのけました。

 やましいことなどなにも無い、と言わんばかりに。


「こっちとしても隠すつもりなんざねぇ。俺ぁな、そこにいるミストの小娘と同じ顔したアイツに頼まれたのさ」


「ミストの小娘ッ!?」


 そんな呼び方されるとは思いもしませんでした。


「えー、と。なんだったか? 『これから面白いことが起きる。場合によっては国が乱れて、隣国につけこまれるかもしれない。そうならないよう睨みを利かせておいてくれ』みたいな内容だったな」


「あの子がそんなことを……」


 お父さま、思うところがありそうね。

 私も改めて、アイツがただいたずらに混乱を引き起こしたいわけじゃないって感じた。

 アイツなりに世の中をよくしようって、きっと必死なんだ。


「それから『議会の日になにかが起きるかもしれないから、おヒマでしたら王都へどうぞ』。俺としちゃ、むしろこっちが気になってな。来た甲斐あって想像以上にド派手なモンを見られたぜ! ガハハハハッ!!」


 ガハハなんて笑う人、貴族にもいたのね。

 仏頂面したエイワリーナ公の背中を笑いながらバンバン叩いてて、見ていてハラハラするわ。


「なるほど。思えば貴公は陛下の覚えもめでたい、もっとも信頼されていると言っても過言ではない人物だ。裏切りを疑ったこと、ここに謝罪しよう」


「しかしマズール。なぜそのことを誰にも報告しなかった」


「したところで誰が聞くんだぁ、こんな与太話。国境にゃぁ日々いろんなデマ、ウソ、根も葉もないうわさが飛び交う。確定情報でもない限り、いちいち上に報告してたらキリがねぇんだよ」


 たしかに。

 話の裏を取ろうにも、アイツのことだし尻尾をつかまれるようなヘマはしないでしょう。


 それにしても、さすが要衝ようしょうの守りを任される重鎮。

 豪快なだけのお人かと思いきや、かなりクレバーに物事を見られる様子。


「今回、王都に来たのもただの気まぐれ。証拠をつかめていたわけじゃねぇ」


「……あのぉ」


 そっ、と手をあげてみます。

 とたんにおじさまたちの視線が一身にそそがれて、とっても緊張しつつもやっぱり気になったので。


「それでしたらマズール伯、領地をお離れになるのはまずくないですこと?」


「たしかに、この状況が隣国にも知られりゃ、これ幸いと攻めてくるかもな。だが問題ない。領地にゃ三人の弟たちを置いてきてある。全員、俺よりいくさが強いぜ?」


「うそぉ……」


 このいかにも強そうなおじさまよりも強いの?

 それどんなバケモノ?


「とくに一番下の弟。ありゃ『鬼』だ」


「セバスとどちらが強いのか、昔競わせたことがあったね」


「結果は三日三晩、飲まず食わずの撃ち合いの末にセバスの勝ちだったか。だがアイツの本領は用兵術だからな。個人戦じゃ負けたとしても、軍をひきいたらアイツの圧勝だぜ?」


 あっ、とんでもないバケモノでした。

 爺や並みの人なんていないって思っていたけど、世の中とっても広いのね……。


「つーわけでミストの小娘。その心配なら不要だぜ。だが貴族のお嬢にしちゃあ目の付け所がいい」


「ありがとうございますわ……。あ、あの、ソルナペティと申します……。小娘はちょっと……」


「お、そうか! 悪かったな、ソルナぺ!」


「そるなぺ」


 お父さま方、わたくしも妙な略され方をしましたわ。


「……コホン。マズール伯の疑いが晴れたところで、いよいよ本題に入ろう。ちょうど二週間後、『シャディア・スキニー』と陛下の会談が行われる」


「新聞にも載っておりましたわ。場所こそ伏せてありましたが。どこで行われるのです?」


「マシュートの北北西に位置する街。古都マシロギオンだ。出発は三日後だぜ」


 マシロギオン。

 古い町並みが特徴的な、王国西部有数の観光地ですわね。


「人が多い場所ですわね。極秘の会談をそんな場所でやるんですの?」


「極秘にしたいのは王国側だけさ。向こうにしてみれば、盛大にブチ上げたいところだろう。……それに、人が多い方がより『人質』も多くなる」


「人質か、まったくその通りなのが悔しいところだ。『シャディア・スキニー』になにかあれば、すぐさま天から怒りの鉄槌が降りそそぎ、数千――ヘタをすれば数万の命が一瞬で散る」


「空中要塞『アルムシュタルク』ですわね……」


 ワーキュマーの脅迫外交の要。

 わたしたち貴族や王国民みんなをいつでも蒸発させられる、コイツをなんとかしないと何も始まらない。


「……大丈夫ですわ。会談当日、わたくしの信頼する右腕が、あの要塞を落とす方法を持ち帰ってきてくれますの」


「あん? 言い切ったなソルナペ。その自信、なんか根拠あんのか?」


「『彼』がわたくしのもっとも信頼する部下のひとりであること。これ以上の根拠など必要でして?」


「……ふっ、ふははははははっ!!」


 マズール伯、めっちゃ笑ってるわね。

 とっても面白そうだけど、わたしは真剣。

 表情変えないわよ。


「ははははっ、はーっ、なるほどな。気に入ったぜ。ワリーナ倒したってぇ話、いまのいままで現実味を持っちゃいなかったが、ようやく実感を持てた。大したタマだ」


「お、お褒めにあずかり光栄ですわ……?」


 バカにされたのかと思いきや、逆になんだか気に入られたようです。

 エイワリーナ公も、こころなしかドヤっとしているような。


「その部下っての、大方マシュート領に潜入でもするんだろ。だったら情報受け取る主人も近場に居た方がいい。俺ぁ会談当日、王の警護を任されている。ソルナペも同行できるよう、王に上申してやるよ」


「ほ、本当ですの!?」


 会談への同行、こっちから願い出ようと思っていたらむこうから言ってくれた。

 もちろん断る理由なんかどこにもない。

 おねがいします、とすぐに返すと、マズール伯は立ち上がってわたしの背中をバシバシ叩いた。


「ミストの、いい娘を持ったじゃねぇか! ワリーナも、娘にいい婚約者付けたなッ! ガハハハハッ!!」


 気に入られたのは嬉しいのだけれども。

 背中バシバシ叩くのはやめていただけませんかね……。




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