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05 クッソ腹立つ妹ですわ!




 クレイド王国の王族、ワークレイド王家。

 その初代の子どもたち三人を祖とする分家が、私たち御三家だ。


 貴族院の中核として、王に意見し国政の方針をまとめるだけでなく、いざ王家の血が途絶えそうなとき、新たな王を三つの家の中から選出する。

 全ての貴族の頂点に立つ、誉れ高き家柄。


 それが私、アイシャベーテ=フォン=エイワリーナの生まれた『エイワリーナ公爵家』。



「――はぁ」


 自室のベッドに、疲れ果てた身体を投げ出す。

 ……いえ、疲れてるのは精神の方ね。


 もちろん暗殺されそうになったことも、そうだけれど。

 なにより屋敷に戻ったあとの、父の言葉と私にむける目がこたえた。


『またお前か。婚約破棄された次は暗殺騒ぎか』


『暗殺者に狙われたなど、エイワリーナ家の威厳にかかわる』


『まったく、次から次へと。これ以上トラブルを持ち込んでくれるな』


 娘の心配なんか、ひとつもしていない冷たい目。

 ただ家の評判と外からの評価だけを気にかけているのがあの男、ダルガーネス=フォン=エイワリーナ。


 思考の根底にあるのは、おそらくだけれど歴史上、エイワリーナ家だけが王を輩出していないこと。

 その点で他の御三家より劣っている、と考えていて、だから少しでも家の名誉を傷つける者にはどこまでも冷たくなれる。

 と、こんなところなのでしょう。


 だから私も、必要以上に家の名誉と自分の名誉を守るようになったのかしら。

 似たもの同士なのよね、結局は。


「……はぁ」


 二度目のため息。

 他の家に生まれていたならこんな気分にならなかった?

 他の御三家出身のクシュリナードや、ソルナペティは――。


『危ないッ!』


 不意に、あのときのソルナペティの顔が頭に浮かんだ。

 真剣な表情で私を心配して、落石から身をていしてかばって。

 アイツ、あんな顔出来たんだ……。


「……っ、な、なに考えてるの、私っ!」


 枕に頭をぼすぼすっ、と何度も打ち付ける。

 なんでアイツを、あんなヤツを、ちょっと素敵かもだなんて思っちゃったのよ!


 あ、ちがう!

 そんなこと思ってない!

 ぜったい、ぜったい、ぜーったい思ってない!!


「……おかしい。おかしい。ぜったいにおかしいわ。あんなヤツ、私が好感を持つはずないのに」


 あんなヤツ、私の一番嫌いなタイプじゃない。

 それでも家のために、ガマンして婚約してやろうと思っていたら婚約破棄だし、もう最悪。


 ……ガマンして、か。

 そう、貴族の婚姻なんてのは家のためにガマンすることだ。


 家の発展のため、両家の結びつきを強くするため。

 政治的に有利に立ち回るための道具として、当主は子どもをたくさん作ってあちこちと婚姻を結ばせる。


 結ばれた当の本人同士が不仲だろうと、子どもが出来なかろうと関係ない。

 すべては家の結びつきのためだけに。


 私だって姉さんだって兄さんだって、みんなみんな、ガマンしてるんだ。

 なのにあの女、立て続けの婚約破棄だなんてふざけるんじゃないわよ……!


「……はぁ」


 とうとう三度目のため息が漏れた。

 もう疲れちゃった、なにも考えたくない。


 枕に顔をうずめて思考を放棄する。

 頭の中から不安とか、チラつくアイツの顔とかを、ぜんぶぜんぶ追い出したくて。



 〇〇〇



 ソルナペティとして過ごす、最初の一日がやーっと終わった。

 誰もいない広い自室で、やっと『自分』に戻れるわ。

 さっそく暗殺されそうになったけど、正体を怪しまれたり、なんてことはなかった。


「爺やさんの教えのおかげだわね」


 机の引き出しから、爺やさんに教えてもらったソルナペティの情報がつまった皮張りの手記帖ノートを取り出す。

 この中の情報、我ながらよく一晩で覚えられたね……。


「でも、これをこの先毎日かぁ……。やってるうちに、そのうち『自分』がわかんなくなりそう……」


 自分は『シャディア・スキニー』だって強く思っていないと、いつかホントにソルナペティお嬢様になっちゃいそう。

 あっ、いま背筋がゾッとした。


 と、そういえば家族にはまだ会ってないんだよね。

 ご学友方は騙せても、血のつながった肉親相手じゃどうだろう。

 貴族だからそんなに家族付き合いないのかな。


 ……天涯孤独のわたしには、普通の家族ってのもよくわからないのだけれどね。


 ――コンコン。


『いらっしゃるかしら、お姉さま』


 ウワサをすれば、さっそく来た。

 この声、三人いる妹のうちの誰かかしら。

 すぐに頭を『ソルナペティ』モードに切り替えて、手記帖を引き出しにしまってカギをかけて、と。


「えぇ、わたくしならここに。入ってもよろしくてよ」


『では、失礼いたしますわ。くすくすっ』


 な、なにが面白いのでしょう。

 含み笑いとともにドアが開きます。

 開けたのは黒髪のメイドですわね。


 そして彼女を従えて入ってきたのは、だいたい12歳くらいの金髪の女の子。

 この子は……そう、四女の――。


「シーリン。なに用でして?」


 シーリアンヌ=フォン=ミストゥルーデ。

 『わたくし』のかわいい妹です……が、ソルナペティ同様、性格に難アリ、とのこと。


「くすくすくすっ。お姉さまが暗殺者に狙われたって聞きまして、どんな顔してるか拝みにきましたのよっ」


「あらあらあら。いい趣味をお持ちですことっ」


「お姉さまってば、威厳も人望も足りてないからこんなことになるんじゃなくて?」


「足りてるからこそ、いいえ、天下に満ち満ちているからこそ、脅威に思われ狙われるのではないかしら?」


「人望が天下に満ち満ちていたら、お姉さまもーっと友達いるんじゃないかしらぁ。シーリン、仲良しさんが50人はいますけど。お姉さまは?」


「ふ……ッ、ふ、たりですわっ」


「あーらあらあらあらっ。お姉さまの人望、シーリンの25分の1ってことですの? とんだざこおねーさまですわっ。ざーこ、ざーこっ♪」


 こ、このガキ、煽りにきたのかぁ……!?

 わたしじゃなくてお嬢様がバカにされてるとわかっていても、なんか悔しい……っ!


「は、はんっ! まぁ見てなさい。じきにわたくしの真の人望、あなたもその眼におがむことになりますので!」


「ないモノなんて拝めるのかしらぁ。くすくすっ」


 ……っあー、そろそろ血管切れそう。

 爺やさん呼んで追い出してもらおっかなぁ。


「おっと、これ以上お姉さまで遊ぶヒマなんて、シーリンにはございませんでしたわぁ。それでは、ゴメン遊ばせ」


「えぇ、ごきげんよう。二度とそのツラ見せんじゃありませんわ」


「やだー、こっわーい。くすくすっ。……あぁ、それとついでに。そのメイド、お姉さまに仕えたいらしいですわ。物好きもいたものですわねっ」


「……えっ?」


 シーリン嬢といっしょに入ってきて、ずっと無言・無表情で立ってたこのメイド?

 『わたくし』に仕えたいの?

 シーリン嬢の言うとおり、とてつもない物好きがいたものです。


「ではでは、今度こそゴメン遊ばせ~」


 半笑いで手をふりながら退場したガキは放っておきましょう。

 残されたメイドに、とりあえず話しかけてみます。


「……あなた、名前は?」


「チヒロです。お嬢様にお仕えしたく参上しました」


「そう、チヒロ。ひとまずあなたの仕事ぶり、見せていただきますわっ」




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