43 お嫁さんへのプレゼント選びですわ!
例の図面を調べるようにと爺やさんに頼んだのが昨日のこと。
果たして結果はいつ出るのかしら。
それはともかくとして、今日わたしは護衛にチヒロを連れて街に出ることにした。
目的は当然、アイシャさんお泊り用のぬいぐるみを買うこと。
遣いの者に買いにいかせるのが普通だわよね。
けれどアイシャさんのためのモノだもの。
ここはぜったいに、自分自身で選びたいッ!!
「チヒロ、良いところを知っていらして?」
「ファンシーショップ『おいらんず』。貴族も御用達の高級店ですわ」
「おいらんず」
な、名前はともかくチヒロがすすめるのだもの。
きっといいお店のはず!
「では案内なさいッ! アイシャさんのため、最高のぬいぐるみを調達いたしますわよ――ッ!!」
「どこまでもお供いたします」
貴族御用達のお店がならぶ、貴族街近くの繁華街。
その一角にたたずむ珍妙な名前のファンシーショップにやってきました。
なるほど、かなり繁盛している様子。
ファンシーなぬいぐるみがたくさん並んでるし、女の子もおじさんもたっくさん。
みんな『かわいい』が好きなのね。
「さぁてチヒロ、まず最初の難問が立ちはだかりますわ。それがなにか、わかりますかしら?」
「どれを選ぶか、でございましょう」
「いかにも、ですわッ。アイシャさんがどんなぬいぐるみを好きなのか、どれを持っていて、どれを持っていないのか。サプライズプレゼントだからこそ、聞けない、確かめられないッ」
もしも持ってるぬいぐるみをあげてしまったら、どうなることでしょう。
きっとアイシャさん、とりあえず受け取ってくれるわよね。
それからちょっと困った笑顔で……。
『あ、ありがとう……。部屋にいる子、お友達が増えて喜ぶと思うわ……』
みたいな微妙な反応を?
そ、想像するだけで胸が苦しくなってきた。
ホントにこんなことになったら寝込みそうだわ。
「しかし、わたくしこの金色の頭脳でひらめきましたわ! 絶対にダブらせない方法をッ!」
「拝聴いたします」
「ズバリ、今日発売したばかりのモノを買えばいいのですわ!」
「さすがお嬢さまご名案でございます」
「……棒読み気味じゃありませんこと?」
なにを当たり前のことをおっしゃるのか、みたいな目で見ないでほしいわよ?
けっこう傷つくわよ?
「さっそく店員に聞いてまいります。少々お待ちを」
さすがに優秀なメイド、いつもどおりに行動早いわね。
言うが早いか店員に新製品について聞いて、さっさともどってきたわ。
「こちらだそうです。ご案内いたします」
「新製品、アイシャさんが気に入りそうなモノはありますかしら。……わたくしの部屋にもお泊り用のおっきなぬいぐるみ、用意しませんとね」
お泊りのたびに抱きしめられてたら心臓持ちません。
なかなか眠れないから、翌朝眠くって大変なのよ。
そんなことを考えつつ、チヒロの案内で店の中央あたりへ。
「あの棚に今日の新製品を陳列しておられるとのこと」
「あの棚ですわね。なるほど、ひときわお客でにぎわってますわ」
チヒロが指し示した一角には、たくさんのぬいぐるみが並べられていた。
それをながめたり手に取ったりしているお客もたっくさん。
「わぁっ、この子かわいいわ! ねぇエメルダ、この子もお迎えしましょう!」
「お、お嬢さまっ、ちょっと買いすぎでは……!」
貴族っぽい子もいるわね。
ぬいぐるみを両手いっぱいに抱えさせられたメイドを連れて、目を輝かせながらぬいぐるみを抱き上げる、白みがかった青い髪のとってもかわいい女の子が……。
「ん……?」
見間違いかしら?
目をこらしてもう一度、その子をよーく見てみる。
……見間違いじゃないわね、あれアイシャさんだわ。
(まずい……! せっかくのサプライズプレゼントなのに、気づかれたらサプライズじゃなくなってしまう……! あとさっそく新製品買われちゃったら作戦も台無しに……!)
ここは絶対見つからないようにしつつ、なにを買ってなにを買わなかったのかチェックしておかないと。
……いや、でもそれだと『アイシャさんのお目がねにかなわなかったぬいぐるみ』をプレゼントすることになるのでは?
わ、わたしはいったいどうすれば……!
「……あら? ソルナじゃない」
「い゛っ」
「こんなところで会うなんて珍しいわね」
気づかれたッ!
わたしにむけられて嬉しいはずのアイシャさんの笑顔が、いまはとっても見たくない……!
「どうしたのかしら。もしかして私のお泊り用にぬいぐるみを?」
「そ、そんなところですわっ」
「そうなんだ、私のために……。ふふっ」
すっごく嬉しそうな笑顔。
その顔が見られたらもうなんでもいいや。
「アイシャさんはやっぱり、新しいぬいぐるみを買いに来られたんですのよね」
「新作が出るたびにね、買いにきてるのよ。ここのお抱えデザイナーの作るキャラ、かわいくって気に入ってるの」
そう言って、抱きかかえたぬいぐるみを見せてくれるアイシャさん。
なるほど、犬のキャラ……かしら。
つぶらなひとみと、へちゃむくれたほっぺがとっても愛らしい。
「というわけでエメルダ、この子のお会計もおねがい」
「うわぉっと! もう全部じゃないですか! 持ちきれませんよお嬢さま!」
メイドが両手いっぱいに抱えるぬいぐるみの山の上に、犬のキャラのぬいぐるみがポンと乗せられる。
バランス感覚が鍛えられそうね、アレ。
「ひぃ、ひぃ……。お会計、レジが遠い……」
バランス取りつつヨタヨタと歩いていってしまったわ。
お屋敷まで持ち帰るのも大変そう。
というか、全部?
新製品を全部買ったと申されましたねあのメイド。
「それじゃあソルナ、私も行くわね。今度泊まりにいくとき、楽しみにしてるっ」
「えぇ、楽しみにしていてくださいませ――ッ!!」
メイドを追いかけて去っていくアイシャさんに手をふりふり。
人ごみのなかに消えたあと、頭をかかえるわたしです。
とりあえず抱き枕用のでっかいぬいぐるみをいくつか買っていくとして。
プレゼントの方はどうすれば……。
「どうすればよろしいのです、チヒロ! 新製品、全部買われてしまっていましたわッ!!」
「作戦失敗、でございますね」
「次なるプランなんて用意していませんことよ……」
「でしたらこの私の案はいかがでしょう」
「な、なにか考えがありますの? わたくしの案よりも優れたプランなのでしょうね?」
「最高のプランであることをお約束いたしましょう。ただし、少々苦難の道となりますが」
「ほう……。そこまでおっしゃるのならチヒロ、発言を許可いたしますわッ。わたくしを納得させる案、出してごらんなさいましっ!」
チヒロが懐から、針と糸を取り出した。
これは、裁縫セット?
「ま、まさかチヒロ、あなたの案とは……」
「手作りのぬいぐるみ。最高のプレゼントかと存じます」