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42 誰もがみんな知っていましたわ!




 貴族の婚姻が正式に発表される際、最初にそのことを知らされるのが君主であるワークレイド王家。

 それから各貴族にお知らせがいくのだけれど、今回は正式な決闘で決まった再婚姻。

 とってもスムーズに通達が駆け巡り、どの貴族にもすみずみにまで即日伝わった。


 アカデミーの生徒の大半がその貴族であるわけで。

 つまり学園の皆さま方のおうちには、わたしとアイシャさんの婚姻情報が伝えられているわけで。


 ただでさえウワサになってたそのふたりが、仲良くならんで登校して来ようものならば、騒ぎになるのは目に見えているわよね。


「きましたわッ! おふたりごいっしょですわッ!」


「アイシャベーテさま、昨晩ソルナペティさまのところにご宿泊なされたのよね……!」


「あぁっ、とってもロマンチックな、恋愛小説のような一夜を過ごされたに違いありませんわっ」


 はい、みごとに注目のマト。

 校門をくぐった瞬間すべての視線がわたしたちにそそがれて、みなさん大はしゃぎだわよ。


「おほほほっ……。に、人気者はつらいですわね。しかしこれも有名税、選ばれし者の特権ですわ――ッ!!」


「……もう私、二度とソルナといっしょに登校しない」


「なぜにッ!!」


「恥ずかしいからに決まってるでしょっ」


 あぁっ、つれないお言葉。

 けどお言葉はつれなくても、顔を赤くしながら言われたらかわいいとしか思えないのよ。


「んふふ」


「なによそのニヤケ面」


「かわいいなぁ、とか思いまして」


「んなぁっ!? ばかっ、もう知らない!!!」


 あらあら、とうとう恥ずかしさの臨界点をこえてしまったよう。

 耳まで真っ赤になりながら走っていってしまったわ。


 ……ちょっとからかい過ぎたかしら。

 そのうちぬいぐるみとかプレゼントしてあげよう。


「ソルナ様っ、ごきげんようですわぁ」


「あらクラさん、ごきげんよう。今日もお団子ヘア、決まっていますわッ」


「褒めてもなにも出ませんわぁ」


 と言いつつ嬉しそうなクラさん。

 けれど気になることがひとつ。


「ところであなた。テュケさんとご一緒でないの、とってもめずらしいですわね」


「なにやら用事があるとかで、今日はアカデミーをお休みのようですわぁ」


「なにやら。詳細を聞いてはいないのでして?」


「いませんわぁ……」


 クラさん心配そうですわぁ……。

 いつもふたりでいたからかな。

 わたしとしても、おふたりともに出迎えられないといまいち調子が出ないわね。


「少々気になりますが、ケガや病気でないのなら、心配するほどでもありませんでしょう」


「で、ですわよね」


 なんとかなぐさめつつ、いっしょに校舎のなかへ。

 やっぱり校内もわたしとアイシャさんのウワサでもちきりで、いろいろ声をかけられます。


 これも有名税、愛想をふりまき手をふりふり。

 ……アイシャさんも似たような目にあってるのかしら。


 そんなこんなでいつもの倍くらいかかって教室へ。

 入ったとたん、今度はクラスメイトのみなさまに囲まれてしまった。


「ソルナペティさん、ご成婚おめでとうございますわっ!」


「社交パーティーでの電撃的なプロポーズ、そしてエイワリーナ公とのアイシャベーテさまを賭けた決闘!」


「あぁ、美しいですわっ! こんな恋愛劇を見せられたら、わたくし……ッ」


「をほほほほほ……っ。そうでしょうともそうでしょうとも……」


 みなさんの圧、というか勢いがすごい。

 会話というよりはもう、言いたいことをわーっとまくし立てられてるだけだわよ。


「ちょ、ちょっと失礼。ここ教室の入り口ですので、他の方のご迷惑になってしまいますわ」


「まぁ、たしかにっ!」


「まわりに対する細やかな気くばりっ!」


「さすが、かのエイワリーナ公に認められた貴族の器っ!」


 皆さまの評価がすごいことになってるわね……。

 『エイワリーナ公に勝った』ということが、どれだけすごいことか実感として沸いてくるわ。


 ようやく自分の机に荷物を置いて、ほっとひと息。

 クラさんも散々巻き込まれて目がまわっているご様子。

 たいへんお疲れさまです。


 勝利の立役者のひとりなんだから、クラさんだってもっと褒められてもいいのにね。

 と、勝利の立役者といえばもうひとり。

 わたしの机の右ナナメ前、図面を広げてにらめっこしている御用商人さんを忘れちゃいけない。


「エイツさん、おはようございますわ」


「あぁ、ソルナ嬢。来てたのかい。おはよう」


 図面とにらめっこして気づかなかったのね。

 エイツさんらしいわ。


「また新製品の開発ですの?」


「いや。そうじゃない。エイワリーナ公の部下が使っていた強化外装の劣化品(デッドコピー)、覚えているだろう?」


「エイワリーナ五本槍、とかいう方たちが着ていたアレですわね」


「アレがどこから情報流出したのか確かめたくてね。詳しく話を聞いてみたら、どうやら出どころは僕のところじゃないらしいんだよ」


「……どういうことですの?」


「さる裏ルートにこの図面が流れていて、それを買い取ったらしいんだ。話をしたら貸し出してくれたよ。僕のところのアーマーの方が性能が上とわかったからね」


 図面に目を通してみると、たしかに強化外装っぽいモノの図面。

 わたしにはエイツさんのモノとまったく違いがわかりませんが。


「この図面。僕の造った強化外装とまるで異なる。見た瞬間に、僕のところのモノとは無関係だと確信できるだろう?」


「でき、ませんわぁ……??」


 見るひとが見ればすぐにわかるみたいですね。

 このとおり、わたしには何が何やらさっぱりです。


「けどよかったですわね。商会の機密が流出したわけじゃなかったのでしたら――」


「いいや、よくないね」


「良くないんですの?」


「考えてみたまえよ。強化外装は僕が意地と誇りを賭けてひねり出した発明だ。それと同質のモノを作れる誰かがいる。しかも、だ」


 エイツさんが図面の右上を指でさし示す。

 そこには走り書き、というかかなり汚い文字でこう書かれていた。


「『試作案・1』……?」


「おそらくこの図面、構想の初期も初期に書かれたモノ。流出するほど雑に保管されていただろうシロモノだ」


「……つまりエイツさん、こう言いたいんですのね。このデッドコピーの性能をはるかに上回る『強化外装』を作れる誰かが、どこかにいるかもしれないと」


「しかもソイツがアーマーをどんな目的で使用するつもりなのか、まったく見えない。他の貴族の家や他国で『強化外装』が使われている、なんて情報は欠片も聞かないからね。意図的に秘匿ひとくしていることになる」


「裏でなんかコソコソやってる連中がいる、かもしれないと。きな臭くなってきましたわね……」


「まぁ、憶測の域は出ないがね」


 取りこし苦労、だったらいいわね。

 この図面、どこから来たのかわかれば安心なのだけれども。

 帰ったら爺やさんあたりに頼んでみようかしら。




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― 新着の感想 ―
[一言] >それと同質のモノを作れる誰かがいる。  前にそれらしい言及があったね。 >きな臭くなってきました  まあこの作品世界観では、当然のことですがね。
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