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04 嫌われっぷりがすごいですわ!




「なに? アホ面で天をあおいで。なにか面白いもので……も……」


 アイシャ嬢もわたしにつられて、頭上を見上げて絶句する。

 直後、術式が完成したのだろう巨大な岩石が、わたしたちめがけて落下をはじめた。


「危ないッ!」


 とっさだった。

 動けずにいるアイシャ嬢に抱きついて、覆いかぶさりながら倒れ込む。

 同時に、どこかに控えているはずのあの人を大声で呼んだ。


「爺やさん、おねがい!」


「かしこまりました」


 どこからともなく瞬間移動でもしたみたいに出現する爺やさん。

 落下してくる大岩にむかって飛び上がり、


ッ……!!!」


 目にもとまらぬ連続蹴りを大岩に叩きこんだ。

 直後、


 ドガァァァァァァァ……ッ!!


 大岩は盛大な音とともに爆散。

 飛散してくる破片から、体の下のアイシャ嬢をかばう。

 小さい破片が何個か頭にぶつかって、ちょっと涙が出た。


「お嬢様方、お怪我はありませんでしたかな?」


「……こほん。わたくしには何の問題もありませんわっ。ご苦労、爺や。褒めて遣わします」


 緊急事態で素がにじみ出てた気がするので、優雅に立ち上がりながらとりつくろってみる。

 大丈夫よね。

 ソルナ嬢じゃないんじゃ、とか怪しまれてないわよね……?


「結構。ではわたくしは下手人の捜索にむかいます」


 爺やさんが左右の壁面を交互に蹴って、屋根の上へとあがっていく。

 犯人がいるとしたら、たしかに屋上の可能性が高いだろうね。

 見つからずに見下ろせそうだし。


「アイシャさん、あなたもご無事でして?」


「……」


「アイシャさん?」


「……あ。え、えぇ、無事よ」


 あおむけに倒れたまま呆然としていたアイシャ嬢が、すました顔を作って立ち上がる。

 いきなりのことにショック、だったのかしら?


「そ、それより今のなに!? イタズラだとしたら度が過ぎてるわよ……!」


「おそらく暗殺、でしょうね」


「あ、暗殺……っ!?」


「魔力で作られた大岩は、すぐに魔力に戻って大気に還元される。証拠の残らない凶器として申し分ないですわ」


 あちこち飛び散った岩の破片は、早くも空気に溶けていっている。

 落下音を聞きつけて誰かがやってきたとしても、見つけるものは潰れたわたしたちだけ。


 武器を使って襲うよりずっと足がつきにくいワケね。

 姿を見せずに隠れて襲えるし。


「だ、だとしても……、いったい誰の差し金で! どっちを狙っての暗殺なの……!」


「なんとも言えませんわね。あるいはどちらとも、でしょうか」


 わたしだけを狙った暗殺なら、こんなタイミング、こんな形で襲ってくるわけがない。

 今のは明らかに、わたしと彼女、ふたりともを亡き者にしようってカンジだった。


「この私が、命を狙われているかもしれないですって……? そんなこと……っ」


 明らかにショックを受けて動揺してるな……。

 若干青ざめて、握りこぶしをプルプル震わせて、ちょっと気の毒になるくらい。


 単純にわたし――というかソルナ嬢を狙った暗殺に巻き込まれたってだけかもしれないし、ちょっとフォローを入れておきましょう。

 彼女の手をとって、ギュっと握って、と。


「なぁ……っ、なんのつもり……っ」


「心配なさらないで」


「え……?」


 アイシャ嬢の瞳が揺れる。

 さらに頬がほんのり染まった……気がするけれど気のせいでしょう。

 さて、不安げな彼女を元気づけるために、ソルナ嬢が言いそうなことというと……こんなカンジかな。


「だいじょうぶですわ。――このわたくしにッ! あのような狼藉ろうぜきを働いた不埒ふらち者などッ! 三日と経たずにとッ捕まえてご覧遊ばしますわぁ――ッ! おーほっほっほっほっ!!」


「……」


 あら、ゴミを見るような目に戻った。

 手もブンッ、といきおいよく振り払われる。

 よし、成功だわね!


「……はぁ。まぁ貴族だものね。しかも御三家、狙われる理由なんていくつもある。これからはあなたのように護衛をつけて、屋敷の警備も強化してもらうことにするわ」


「えぇ、えぇ、それがよろしいでしょう。もっとも? わたくしの爺やほどの腕前の護衛などいないでしょうけれど。をほほほほほほほっ」


「その爺や、戻ってきたみたいよ」


 あら、本当。

 屋上から飛び降りた爺やが、三点着地で軽やかに舞い降りた。


「お嬢様。残念ながら屋上に下手人の痕跡はございませんでした」


「そう、仕方ないですわ。ご苦労爺や、もういいですわ。この事件のことを学園に伝えてきてくださる?」


「かしこまりました」


 命令を出すとすぐに、爺やさんの姿が風のように消えた。

 ホントに優秀な人だよね。

 本物の主人じゃないわたしの命令も淡々と聞いてくれるし。


「わたくしたちも戻りましょう。いつまでも人目のないところにいては、また襲われるかもしれませんもの」


「えぇ、そうね。あなたのくせにもっともな意見だわ。私もちょうど言おうと思っていたところなのだけれどね」


 あぁ、言葉にトゲがある……。

 やっぱりとことん嫌われてますわ。


 ツカツカと歩きはじめるアイシャ嬢。

 その後ろについて歩き出すと、彼女は小さくぽつりとつぶやいた。 


「……暗殺」


「えっ?」


「あなたを狙ったものだとしたら、私に決闘で殺される前に、つまらない死に方するんじゃないわよ。……それだけっ」


 うぉわぁっ、まさかの直接殺す宣言……!

 見え隠れする耳たぶが、怒りのせいか赤く見えるし。

 ここまで嫌われ尽くしていると、こりゃ暗殺だけが命の危機じゃないわね……。



 〇〇〇



 暗殺騒動はすぐに学園中に広まった。

 午後の授業は中止となり、それぞれの生徒に使用人や家族の迎えが来る事態に。

 アイシャ嬢はひと足先に、お抱えの騎士十人ほどに護衛されて屋敷へ帰っていった。


 すぐに学園に侵入した不審者がいないかの聞き込み、および捜索も行われるみたい。

 学園生活初日から、とんでもないことになっちゃったわね……。


「ソルナ様、お怪我はございませんかぁ?」


「頭にコブが出来ていらっしゃるわ。おいたわしいですの……」


 アイシャ嬢をかばったときに出来てたんだ、コブ。

 クラナカールさんに涙ながらに慰められ、テューケットさんに頭のコブをなでなでされる。


「この程度、なんともございませんわぁっ! 暗殺者の百人や二百人、返り討ちにして差し上げますともッ」


 うそ、結構痛い。


「まぁっ、勇ましいお言葉っ」


「とっても素敵ですの……!」


 こんな感じで取り巻きふたりとたわむれてるあいだ、他のクラスメイトたちは遠巻きに見てるだけ。

 だーれも話しかけてきませんわ。

 ま、当然ですわよね、人望皆無の『わたくし』に話しかけてくる物好きなど……。


「ソルナ嬢。よかった、元気そうだね」


 ……いましたわ。

 半年前にソルナ嬢がフったというクシュリナードさん。

 物好きレベル、なかなか高いですのね。


「キミたち、ちょっとソルナ嬢を借りてもいいかな」


「もちろんですわぁ!」


「むしろ、わたくしどものような者にお声をかけてくださるだなんて、光栄ですのぉ!」


 取り巻き二名、やけにテンション高め。

 御三家と言葉を交わせたのが嬉しいのかしら。


「ありがとう。さて、ソルナ嬢。ケガはないかな? 簡単な治癒魔法なら使えるからさ、見せてごらん」


「問題ありませんわっ! い、てて……っ」


「おや、コブが出来てるじゃあないか。放っておくのはよくないね。僕にまかせて」


 有無を言わさず頭に手を乗せられて、治癒魔法をかけられた。

 痛みがスーッと引いていって、謙遜してたけど、これはかなりの使い手……。


「こんなコブができるだなんて。いったいどう襲われたんだい?」


「土魔法の大岩が降ってきましたのよ。爺やが駆けつけて蹴り砕いてくれたのですが、破片が頭にヒットして……」


「それじゃあ爺やさんがいなかったら……?」


「今ごろアイシャさんともども、ぺちゃんこですわぁ……」


「……そうか、彼がいなければキミたち二人とも死んでいたのか。爺やさんには、あとでお礼を言わないといけないね」




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