39 勝利の叫びをとどろかせますわ!
敵の両翼を爺やさんと騎士さんたちが抑えてくれている。
敵本隊は秘密兵器の直撃をくらって半壊状態。
ここしかないってタイミングで突撃を指示し、わたしは敵陣へ駆け出した。
まわりを固めるのはテュケさんクラさん、そしてチヒロと十名の騎士さん。
チヒロ以外はこれまで本陣に温存していただけあって、元気いっぱい万全の状態。
十倍を合言葉にやる気まんまんです。
対するは砲撃で戦闘不能にならなかったものの、うろたえっぱなしの騎士約20人。
あと直撃範囲にいたはずなのになぜか立ってるエイワリーナ公。
こわい。
「貴様らッ、なにをやっておる! さっさと陣形を立て直せぇッ!」
エイワリーナ公が檄を飛ばすと、相手の騎士たちがすぐに落ち着きを取り戻す。
さすがの統率力、なのかしら。
それともこわいからかしら。
ともかく、わたしだってこわがってる場合じゃない。
「チヒロ、それから騎士の皆さまッ! 残ったまわりのお掃除お願いいたしますわッ! エイワリーナ公は、わたくしとテュケさんクラさんでッ」
「承知いたしました」
相手の陣形がととのう前にチヒロが騎士さんたちをひきいて掃討にむかう。
むかってくるわたしたち三人に対し、エイワリーナ公はにらみ殺しそうな視線をむけながら剣をかまえた。
「ぬぅっ、来るか小娘ッ」
兜の上で揺れている旗さえとればわたしの勝ち。
いくら強くても、強化外装を装備したテュケさんクラさんならやれるはず……!
「さぁテュケさんクラさん、とっちめてやりなさいまし――ッ!!」
「合点ですのッ!」
「お守りしますわぁ!」
先を丸くしたヤリを手に、おふたりが果敢に挑みかかる。
そしてはじまるあざやかな連携攻撃。
二本のヤリが何本にも見えるほどの速度と流麗さだけど――。
「フンっ、その程度かッ!」
なんであのひと、剣一本でさばき切れているんですかね。
「ミストゥルーデの小娘よ、ここまで私を追い詰めたこと、見事とほめてやる。人を集め、その上に立つ貴族としての資質は確かなもののようだ」
「お褒めにあずかり光栄ですわ」
「しかし、まだだ。覚悟がまだ足らぬ。そうして他人の後ろで見ているだけか? その程度の覚悟ならば――」
ブオンッ!
「ひゃぁっ!」
「ですのっ!」
体をひねりながらの横一文字の薙ぎ払いが、テュケさんクラさんを吹き飛ばす。
ころがるふたりのうち、テュケさんに狙いを定めてエイワリーナ公の剣が振り上げられた。
「アイシャベーテの伴侶と認めるわけにはいかぬッ!」
剣が振り下ろされる。
まずい、テュケさんがやられる……!
そう思ったとき、体が反射的に動いていた。
ギィンッ……!
「……ほう」
剣を抜いてテュケさんの前に飛び出し、トドメの一撃を受け止める。
重~い一発に手がジンジンするし、怖くて仕方ないはずなのに。
そもそも私の頭の旗、取られちゃったら終わりなのに。
それでも動かずにはいられなかった。
「ソルナ様っ!?」
「テュケさん、立てまして?」
「だ、大丈夫ですの……!」
すぐさま立ち上がり、反撃の突きを繰り出すテュケさん。
エイワリーナ公は大きく飛びのいて距離をとります。
「申し訳ありませんの……! ソルナ様をお守りしなきゃいけないのに、逆にソルナ様に助けられるだなんて……」
「持ちつ持たれつですわッ! あなたがやられたら、どっちみちやられちゃいそうですし、それに……」
立ち直ったクラさんが背後から奇襲するも、それをかがんで避けています、あのおじさん。
後ろに眼でもついてるんですかね。
激しい反撃をクラさんがなんとかかいくぐって、こっちにやってきました。
「あ、あぶなかったですわぁ……!」
「よくご無事で。正直なところ、あんな強さじゃおふたりがかりでも厳しいですわ。ですからちょびっと時間を稼ぎます!」
「ちょびっとですの?」
「いま、エイワリーナ公に助太刀が入らないようにチヒロたちがまわりのお掃除をしてくれていますわ」
エイワリーナの騎士さんたちも猛者ぞろい。
ひとりでも合流されたら大変まずいでしょうが、チヒロが少しずつ気絶させていってます。
「それが片付けば多勢に無勢、さすがのこわーいおじさんも成すすべありません」
けれどさっきの感じでは、ちょびっとの時間稼ぎすら危ないかもしれない。
だからわたし、覚悟を決めました。
「おふたりはやられないよう、うまく立ちまわってくださいまし! 危なくなったらわたくしがフォローを入れますわ!」
「ソルナ様も戦われるので!?」
「無茶はいたしません。まともに戦えばあっという間にやられますもの。……それに、あのおじさまに心の底から敗北を認めさせるためには、見ているだけじゃダメな気がしましたので」
「……話し合いは済んだか?」
おっと、空気を読んでくださっていたのかしら、それともしびれを切らしたのかしら。
エイワリーナ公、すごいいきおいで突っ込んでまいりました。
「では各々、作戦通りに!」
「ラジャーですわぁ」
「ですのっ」
わたしにむかって振り下ろされる剣をテュケさんクラさんが受け止める。
そのスキに剣で頭の旗を狙うも、あっさりバックステップで避けられた。
やっぱり戦力にはなりそうにないけど、ふたりのカバーならできるもんね。
なんとか時間、稼いでいこう。
ふたりはやられないように立ち回りつつ、スキを見て旗を狙う。
わたしもふたりが危ないときにカバーに入って、なんとか三人で時間を稼いでいった。
そのあいだにも騎士さんたちとチヒロでまわりのお掃除は続き、もうあと10人足らず。
少しずつこちらに加勢にくる騎士さんが増えてきて、エイワリーナ公はわたしの軍勢に囲まれていく。
「……ぬぅっ、窮したかッ」
「エイワリーナ公、もはやここまでですわッ! いさぎよく負けをみとめなさいましッ」
「見事、たしかに見事……! だが、だがこのダルガーネス=フォン=エイワリーナ、貴族の誇りに賭け、自らヒザは折らぬわッ!!」
その瞬間、勝利を確信した気のゆるみが出たのか、全員に油断があったことを認めるわ。
エイワリーナ公はその一瞬を見逃さず、体を一回転させながらのなぎ払いで包囲していた全員の体勢を崩した。
「み、皆さ――っ」
「勝ちの目は……ッ」
エイワリーナ公がわたしの兜の上に狙いを定める。
まずい……っ!
「捨てぬ!!」
瞬間的にわたしの間合いに踏み込んで、鋭い一撃が放たれる。
ギィィンッ!
「あぅっ!」
なんとかガードはできたものの、剣をはじき飛ばされた上にわたしも吹き飛ばされた。
飛ばされてくるくる回る浮遊感、新感覚。
兜の旗は……無事みたい、よかった。
けど飛ばされていくこの方向、これは逆にチャンスだ。
「ソルナ様ッ!」
「あなたたち、わたくしにかまわずエイワリーナ公を捕まえなさいッ! 動きを抑えて!」
「わ、わかりましたわ!」
飛ばされながらテュケさんクラさんに指示を出す。
同時にお掃除中のチヒロに視線で指示を。
チヒロはうなずき、すぐさまわたしの落下地点に移動した。
そしておふたりはヤリを捨て、エイワリーナ公の両腕をそれぞれつかんで抑えこむ。
「ぬ、ぬぅっ、貴様らなんのつもりだ……!」
「ソルナ様のご命令ですわぁ!」
「ご免つかまつりますのっ!」
落下地点で風を両手にまとい、スタンバイするチヒロ。
落ちていくわたしがぶつかる瞬間、風をためこんだ両手のひらでわたしの足の底を捕まえます。
「いいのですね、お嬢さま」
「思いっきりやっちゃってくださいまし!」
「では、ご無礼」
ズドンッ!!
まるでさっきの魔導砲みたいに、わたしの体が風圧で撃ち出された。
飛んでく先にはエイワリーナ公の頭。
おじさんの頭上スレスレを通過する瞬間、兜についた旗に手を伸ばし、力いっぱい握りしめる。
つかめたかどうかわからないけど、何かをつかんだ感覚とともに失速、落下。
こちら側の騎士さんたちにキャッチされた。
「――っはぁ、はぁ、はぁ……っ」
すぐに自分の手につかんだものを確認する。
……旗、だ。
兜と、そこから生えた、旗。
エイワリーナ公を見る。
頭になにもかぶってない。
わたしの頭には、ちゃんと兜ついてる。
旗もついてる。
「……勝った」
やった。
実感がわいてきた。
わたし、本当に……。
「勝ったわ、勝ちましたわッ! わたくしたち、勝ちましたわよ――ッ!!」
この場にいる全員に聞こえるように、わたしはエイワリーナ公の兜を高くかかげて叫んだ。




