38 秘密兵器が火を吹きますわ!
この戦い、爺やさんが暴れまわって勝ってしまうという作戦が、作戦会議でまず最初にあげられた。
けれどすぐに不可能だと判明。
むこうも爺やさんさえ潰せば勝ちと踏んでいて、両翼の片方に戦力を集中させていたんだもの。
爺や率いる右翼部隊とぶつかる敵左翼。
率いるはエイワリーナ公爵家の誇る精鋭中の精鋭――。
「我ら、エイワリーナ五本槍ッ!」
「ミストゥルーデのセバス殿とお見受けするッ」
「五人がかりは卑怯と罵られようとッ!」
「おなかすいた」
「主がため、身命を賭して貴殿を倒させてもらうッ!!」
はい、エイワリーナ五本槍の皆さんでした。
この人たち、なんと公爵サイドで五人だけ『強化外装』のようなものを着ているのよ。
エイツさんに言わせれば、どっかから盗んだデータで作らせたデッドコピー――ニセモノみたいなもん。
けれど性能は十分なようで、五人がかりで爺やさんをなんとかおさえ込んでいる。
対する爺やさんは生身。
爺やさん本人の身体能力が異常すぎて、強化外装の方がパワーアップを引き出せないどころか拘束具になってしまうらしい。
あれだけデタラメに強いんだもの、それ以上を引き出す道具なんて作れないわよね。
強化外装を着たチヒロが爺やさんとほぼ互角。
それを思えばデッドコピーの性能の低さに助けられたってとこかしら。
爺や無双を封じられたこの状況だけれど、逆に考えれば、敵の強力な戦力を爺やひとりで全部吸ってくれているわけで。
(――そう。爺やさんと互角なのよ。アーマーを着たチヒロは、ね)
そのことを敵は知らないはず。
さぁ見せておやりなさい、度肝を抜いてさしあげなさい!
「チヒロ、お客人方を丁重にもてなしてやりなさいッ!」
「お嬢さまのご意向のままに」
ドガァァァっ!!
敵先陣とぶつかった瞬間、暴風で相手の騎士たちがふっ飛ばされる。
余裕の表情を見せていた騎士たちがいっせいにたじろいだ。
「な、なんだ、あのメイド……!」
「聞いてないぞ、今日は楽勝だって……」
チヒロに続くこちらの騎士たちもやる気まんまん。
ギラギラした目で敵に襲いかかっていきます。
「うぉぉぉっ、十倍ッ!」
「十倍だ、十倍ィィィっ!!」
なにが十倍なのか、さっぱりわからない相手はさらに恐怖することでしょう。
これで敵右翼を崩せば形勢は一気にこちらの有利になるはず。
「……問題はエイワリーナ公がどう動くか、ですわね」
「ただ本陣にこもって見てるだけ、というのは考えにくいですの……」
「どう出るか次第で、このままプランAの力押しを続けるか、プランBに移行するかを決めましょう、ソルナ様」
「えぇ。ひとまず静観、ですわ」
爺や側は拮抗状態、だけどチヒロ側が押し返していってるこの状況。
このままいってくれればいいのだけれど――。
「……っ!? ソルナ様、危ないですのっ!」
「えぅ?」
テュケさんに押しのけられて、思わずお間抜けな声が出ちゃいました。
直後、わたしの座っていたイスに岩が直撃。
ブッ壊されちゃった。
「な、なんですの、この『岩』ッ」
「敵本陣からですわぁッ! 魔術師部隊の遠距離攻撃ですぅ!」
「なんと」
見上げればたしかに。
100メートルくらい離れた敵陣から、雨あられと石つぶてや火炎弾、げんこつサイズの氷が飛んできております。
離れているだけあって、狙いはデタラメ。
デタラメだからこそ、これは……。
「ま、まずいですわよ! わたくしもまずいですが、これ、秘密兵器に当たったら……っ!」
炎が当たろうものならば、ヘタすりゃバクハツして全員吹っ飛ぶって!
秘密兵器の存在を隠しているからこその大ピンチ……!
「……っ、お嬢さまがあぶないッ」
すぐに異変に気付いたチヒロ。
本陣にとって返して、わたしたちと秘密兵器の前に出ると魔力で風のカベを作り出した。
魔術攻撃は荒れ狂う風の防壁にはばまれ、あえなく散っていく。
「チヒロ、ナイスですわッ」
「しかしお嬢さま……! これではもてなしの指示を守ること叶いません……!」
「かまいやしません! このまま防戦に移行します。プランBですわッ!」
「プランB、了解ですのッ! わたくしたち、いつでもいけますの!」
「エイツさんも、いつでもいけるよう準備をお願いしますわぁ!」
正攻法の力押しがプランA。
対するプランBは、秘密兵器を使った一発逆転。
そのためにまず必要なのが――。
「わかった、準備しておくよ。正面20から30メートル。そこまでおびき寄せてくれ」
「把握ですわッ! みなのもの、エイワリーナ公が焦れるまで耐え抜きますわよぉッ!」
敵の親玉が本隊をひきいて攻撃してくるまで、ひたすら耐えること。
持久戦になるぶん、人数の少ないこちらが不利だけど……。
「騎士のみなさまッ、十倍ですわよ――ッ!!」
「「「うぉぉぉおっ、十倍ッ!」」」
「そぉうっ、十倍ですわ――ッ! あそーれっ、十倍、十倍っ!」
「「「十倍ッ!!! 十倍ッ!!!」」」
十倍パワーで十倍の力を出してもらいましょう。
あとは根気と根性の勝負……!
防戦がはじまって数十分くらい経ったかしら。
爺やさんは相変わらず五本槍と異次元バトルをしていて、敵陣からは魔法が飛んでくる。
それをチヒロが風で防ぎ続けて、十倍を合言葉に必死にがんばる騎士さんたち。
完全な膠着状態のなか、戦場にとつぜん怒鳴り声が響きわたった。
『貴様らッ、不甲斐なし! なにをいつまでも手こずっとるかァ!!』
エイワリーナ公の声、だよね?
ものすっごい声量。
耳元で怒鳴られたかと思った。
『もうよい、私自らが出るッ! 両翼、我が攻撃に合わせて一気に押しつぶせェっ!!』
……よし、来た!
エイワリーナ公が敵本陣を引き連れて、真正面から突撃してくる。
「エイツさん!」
「心得た」
静かにうなずくエイツさん。
魔法攻撃を続けながら、敵本隊がじわじわと接近してくる。
あと60メートル、50、40……!
「そろそろですわ……!」
「まだだよ。撃つのは先頭が20メートルの距離に来たときだ」
先頭を進む騎士が30メートル地点を通過。
エイツさんはまだ動かない。
一歩、また一歩と進軍して、20メートル地点にさしかかったその瞬間。
「今だッ!」
バサッ……!
白い布が取っぱらわれて、秘密兵器がその姿をあらわした。
黒光りする巨大な砲門、基部についたたくさんのメーター、後ろに取り付けられた巨大な魔力カートリッジ。
名付けて『魔導砲』ッ!
「チヒロ、皆さまっ! 射線上から退避なさいまし――ッ!!」
わたしの号令で、砲身の正面にいた全員が飛びのいた。
直後、エイツさんが発射ボタンを押す。
「魔導砲発射ッ!」
「て――ッ、ですわ!」
ズドオオォォォォォォォォォッ!!!
これは決闘、ゆえに非殺傷設定の空気砲、ゆえに射程も短め。
圧縮された空気の弾丸が、砲門から撃ちだされて敵本隊へ直撃する。
「うぉぉォォォォォッ!!?」
「ぐああああぁあああぁぁぁあぁぁッ!!!」
「なんだあああぁぁぁぁぁぁぁああぁッ!!!」
チヒロの全開の風魔法とも比べ物にならないほどの風圧が、本隊のド真ん中で爆裂。
半球状に渦巻く風が敵の騎士さんたちを紙くずのように吹き飛ばし、地面に叩きつけて戦闘不能にしていく。
炸裂が終わったころには、立っているのは陣形の外側にいた20人ほどの騎士と、強そうなエイワリーナ公だけ。
「バ、バカな……ッ!!」
「いまですソルナ様っ、わたくしたちがお守りしますわぁ!」
「いきますのっ! 勝利をつかみにっ」
「私もともに参ります、お嬢さま」
「えぇ、いまこそ好機ッ!」
うろたえるエイワリーナ公にむけてビシッと指をさし、先陣きって走り出す。
「本隊のみなさん、このわたくしに続きなさいッ!! 突撃ッ、ですことよ――ッ!!」