37 決闘スタンバイ&スタートですわ!
両軍のちょうど真ん中で、総大将たるわたしとエイワリーナ公がむかい合う。
あいだにはお父さまと、そしてアイシャさん。
「偉大なる主君ワークレイド王の名のもとに、これより決闘をとり行う。立会人はこの私、ヨーシュナルヴ=フォン=ミストゥルーデがつとめるが、両者とも異存はないな?」
「異存なし」
「ありませんわっ!」
同意をうけたお父さまが静かにうなずいた。
「ではこれより一時間ののち、私の上げる狼煙を合図として開戦とする。貴族としての誇りと名誉にかけ、万人に恥じない戦いを期待する」
お父さまの前口上、終了。
こうして見るとホントに威厳あふれる立派な人なのにね。
アイシャさんと顔を合わせるのも久しぶり。
口上が終わったのを見計らって、彼女は小走りでこちらにやってきた。
「ソルナ、久しぶりね……」
「えぇ、お久しぶりですわ。たっぷりお話したいところですが、そうもいきませんわね」
「……そうね、作戦立てたりするための時間が必要ですものね」
ちょっぴりさみしそうな表情に胸が痛む。
けどガマン。
この戦いに勝ちさえすれば、好きなだけいっしょにいられるんですもの!
「それで本当にいいのか?」
む、エイワリーナ公。
なんですか、うら若き乙女たちの会話に入ってきて。
「決闘が終われば、そなたは二度と娘に会えぬ身。開始までの時間を使って、名残を惜しむくらいは許可してやるぞ?」
「はっ、余計なお世話ですわ! わたくし、あなたに勝ちますもの」
「闘志だけは一人前と見える。あっさり終わって退屈させてくれるなよ?」
自信満々だわね。
おっきな身体をゆすって高笑いしながら自分の陣地に帰っていったわ。
「じゃあソルナ、私は公爵といっしょのところで見てるから」
「安心して見ていてくださいませ。すぐにあなたを迎えにいきますわ」
「……待ってる」
最後に軽く言葉をかわして、わたしも自分の陣地にもどる。
自信満々、威風堂々。
本物のソルナペティばりに、肩で風切り胸を張って。
「お、多くない……? なんか敵さん多すぎない……?」
「うーわ終わった。これ負けだわ、終わったわ……」
「うぅっ、下腹に加えて胃まで痛くなってきたぁ」
なんか陣地にもどってきたら、思った以上に士気がガタガタでございました。
『強化外装』を装備しているとはいえ、たったの30人だものね。
しかもチヒロやテュケさんクラさんみたいに、わたしのために戦ってくれるわけじゃない。
やとわれて仕事として戦ってるわけだし。
しかしこれではダメ。
このままじゃ勝てるモンも勝てません。
「……よぉし。ここが総大将の腕の見せどころですわ!」
わたしの激励で、みんなのやる気を頂点まで引き上げる!
「みなさまッ! ご注目くださいまし――ッ!」
パンパンパンと手を叩き、騎士さんたちの注目を集める。
全員がわたしに耳をかたむける状態になったところで、演説開始。
「――こほん。みなさま、今日この場に集まってくださったこと、本当に感謝いたします」
神妙な雰囲気をまとって、静かな語り口で、ひとりひとりの目を順番に見つめながら話していく。
みんなの心を動かすために。
「わたくしの誇りと名誉をかけ、アイシャさんとの婚姻がかかったこの決闘。言うなればわたくしのためだけの戦いですわ。みなが乗り気にならない気持ちもわかります」
誠心誠意、真心をこめて。
ここにいる全員の心をひとつにしなければ、エイワリーナ公には勝てないから。
「わたくし個人の望みのために、わたくしへの忠誠、ただその一点で強大な敵に立ち向かう。そのような無理難題をみなさまに押し付けるなどできません」
ざわ……っ。
広がるわずかな動揺。
揺らいだ心のスキに……。
「ですから、わたくしから皆さまに言えることは、ただひとつ」
一呼吸だけ間を置いて、最後のひと押しを――。
「最後まで立ってた方、もれなく今月の給金十倍ですわ」
「「「――うおおぉぉぉぉぉぉおおおぉぉぉぉぉぉッ!!!」」」
湧き上がる歓声、ブチ上がる士気。
いいわよ、フロア熱狂だわよ!
「「「ソルナペティ! ソルナペティ! ソルナペティ! ソルナペティ!」」」
熱い歓声を浴びながら本陣へ。
さぁてこれからみなを集めて作戦会議、軍議のお時間です。
〇〇〇
そうして一時間後、こちらの準備はしっかり完了。
プランAとプランB、ふたつの作戦を立てられた。
右翼に爺やさん率いる10人、左翼にチヒロ率いる10人。
そして中央、わたしのいる本陣に10人と、テュケさんクラさん親衛隊、加えてエイツさんの秘密兵器。
こんなカンジの布陣となりました。
「テュケさん、敵の布陣はどんなものでしょう」
「陣形、大鷲の陣! 左翼60、右翼60、本陣は80ほどと見受けられますの!」
なるほど、少数を相手にする場合につかわれる、左右からつつみこむようにして包囲する陣形だわね。
上から見るとワシが大きく翼を広げたように見えるのが名前の由来。
基本に忠実、手堅い采配じゃないの。
「エイツさん、秘密兵器の準備は?」
「いつでも撃てるがタイミングがカギだ。一発以上の発射は保障できないからね。作戦通りにいこう」
「えぇ、作戦通りに!」
敵の警戒を薄くするために、白い布におおわれたままの秘密兵器。
圧倒的な戦力差をくつがえす、コイツが最後の切り札だけれど、使うほどピンチに陥りたくはないわね。
「ソルナ様、狼煙が上がりましたわ!」
クラさんの言うとおり、お父さまのいる場所から白い煙が立ち上る。
それと同時に、エイワリーナ公の手勢が一気に動きはじめた。
「敵両翼、動きだしましたわ! ソルナ様、ご命令を!」
「チヒロ、爺や! ただちに迎撃!」
本陣の敵は動かない。
できることならあそこに秘密兵器をブチ込みたいけれど、残念ながらまだ射程外。
だからまずはプランA、すなわち力押し!
「わたくしの両腕として、その力見せつけておやりなさいッ!」
「了解しました、お嬢さま」
「このチヒロ、お嬢さまにはひとりの敵も近づけさせませんわ」
頼もしいふたりの部下が率いる『強化外装』フルアーマーの騎士たちに、エイワリーナ公の手勢が左右から襲いかかる。
すっかり余裕な、油断しきった表情で。
むこうは勝ったつもりでいるのだろうけど、おどろかせてあげるわよ。
わたしのもとに集ってくれた人たちの、とんでもない力でね。