35 おふたりの腕試しですわ!
テューケットさんとクラナカールさん。
このふたり、なんとわたしのために戦ってくれるそう。
とっても嬉しいですし、ソルナペティがいらないって置いていったわけですから、遠慮なく力を貸してもらいましょう。
しかしここで疑問がひとつ。
じっさいのところ、おふたりはどこまでやれるのか?
というわけで確かめてみることに。
放課後、ミストゥルーデのお屋敷の中庭で、おふたりの腕試しが始まる!
「いざ尋常に、いきますのッ!」
「鍛えぬいた力、見せてさしあげますわぁ!」
「僭越ながら、お相手させていただきます」
先っぽが丸い石突きになった練習用のヤリをかまえるおふたり。
対するはわたしの優秀なメイドであるチヒロ。
チヒロの方が人数で不利。
けれどわたしのメイドは、武装した騎士十人をわたしとアイシャさんをかばいながら無傷で倒すほどの腕前。
力試しにはじゅうぶん以上だわよ。
「息を合わせますわよっ!」
「えぇ、ですのっ!」
うなずき合って、ふたり同時にチヒロへ突きかかる。
ものすごい勢いの踏み込みだわ。
これは思ってたよりずっとやるのかも……!
「……! これは……っ」
チヒロも内心おどろいている様子。
ふたりのヤリのあいだをすり抜けながら、両足首に小さな竜巻をまといます。
そして繰り出す反撃の蹴り。
なんとおふたりとも、ギリギリでそれを回避しちゃいました。
かわりに風圧でふっ飛ばされるも武器は手放さず、宙返りからあざやかに着地。
「お二方、結構なお点前で」
「や、やられるギリギリでしたわぁ……」
「紙一重でしたの……! 次はパターンB、合わせていきますのっ!」
「ラジャー、ですわっ!」
今度はクラナカールさんが先頭きって突っ込んでいく。
ワンテンポ遅れてテューケットさんが続く形。
「チヒロさん、これはかわせますかっ!」
ものすごい速度の連続突き。
わたしの目にはヤリが分裂しているようにしか見えない。
チヒロもチヒロでものすごい速度でかわしている。
わたしの目にはチヒロが分裂しているようにしか見えない。
「この速度では私には当たりません」
「ならばっ、これならどうですのっ!?」
テューケットさん、ヤリを高飛び棒みたいにしてジャンプ。
空中高く舞い上がり、チヒロの上を飛び越えながら、リーチの長さを活かした横ぶりを繰り出した。
クラナカールさんの連打で釘づけにされてるところにこの攻撃。
今度こそヒットするのでは――。
「お見事です。これを使わされるまでとは思いませんでした」
ブワッ……!
チヒロの身体のまわりに突風が吹き荒れる。
直後、彼女を中心とした竜巻が巻き起こり、
「ひゃぁっ!」
「きゃ……っ」
おふたりをまとめて吹き飛ばした。
しかも強烈な突風のせいで、おふたりとも武器を手放してしまう。
どさっ、どしんっ!
おふたりともしりもちをついて芝生の上へ。
飛んでった武器は二本とも、チヒロが見事にナイスキャッチ。
「――お嬢さま。これにて終わりと存じますが」
「……あっ。そ、そこまでっ! ですわ!!」
そういえば立会人、わたしだった。
見入っちゃってる場合じゃなかったや。
右手をあげて『勝負あり』の判定を急いで出す。
「い、ったたた……。敵いませんでしたの……」
「わたくしたち、まだまだですわぁ」
「そんなことございませんわッ! チヒロを相手にあの大立ち回り、たいしたものですことよ――ッ!!」
おしりをさすりながら立ち上がるおふたりに、肩で風切って歩み寄るわたし。
かるく拍手をしつつ健闘をたたえます。
「あなたたち、そこらへんの並みの騎士よりずっと強いですわっ!」
「同感です。お嬢さまの護衛、十二分に務まるかと」
「まぁ……! ソルナ様に認められましたわぁ……」
「こんな日が来るだなんて、とってもとってもうれしいですの……っ」
お、おふたりとも感涙しちゃってる。
けどごめんね、わたしホンモノのソルナペティじゃないの……。
「――しかし、テューケットさんにクラナカールさん。緊急時とかとっさのときに呼ぶには少し長いですわよね」
「あぁぅっ、長ったらしい名前で申し訳ございませんわぁ……」
「噛みそうな名前ですみませんですの……」
「あぁッ……! 責めているわけでは! ――そうですわ、わたくしが短くて呼びやすい愛称をつけてさしあげます!」
「ソルナ様じきじきに愛称を……!?」
「こんな、こんなにうれしいことが続くなんて、信じられませんの……!」
あぁ、おふたりとも感涙がとまらない。
ごめんね、わたしがホンモノのソルナペティじゃなくて……。
「そうですわねぇ……。――ととのいました。テュケさん・クラさんでいかがでしょうッ!!」
「テュケさん……ッ!?」
「クラさん……ッ!!」
お、おふたりとも雷に打たれたような表情をしている……!
気に入っていただけなかった……?
「う、うれしい……ッ! うれしいですわぁ……ッ! ソルナ様に愛称をもらえた事実が、もうそれだけで……ッ」
「呼び方はともかくとして、それだけでわたくしたち、頑張ってきた甲斐があるというものですのぉ……ッ」
あらら、とうとう号泣し始めちゃった。
気に入っていただけたようでなによりです。
……気に入っていただけたわよね?
「さて、これで戦力はだいぶ整いましたわね」
「そうだね。あとは頭脳かな。どうだい? 僕を軍師としてやとうのは」
「……ッ!!?」
こ、このキザったらしいさわやかボイスは……!
ふりむけば、いつの間にかいました。
さわやかスマイルを浮かべたご令息が……。
「……クシュリナさん。いつからいらして?」
「観戦させてもらったよ。大したものだね、彼女ら。で、僕も戦力に――」
「入れませんわ」
「どうしてかな?」
「あなた、御三家の一角であるマシュート家の人間でしょう。ミストゥルーデ傘下の家の彼女たちはともかく、あなたがわたくしの手勢にいたら話がややこしくなりますわ」
「それでは謎の仮面軍師として――」
「結構です」
そもそも今回の騒動、元はといえばあなたのせいでもあるんだから。
そこは自重してほしいところです。
「残念だね。罪滅ぼしをしたかったのだがしかたない、今回は見にまわるとしよう」
「で、用件はそれだけですの?」
「もちろん、それだけじゃない。彼の運搬の手伝いをしていたのさ」
クシュリナさんが指さした先。
お屋敷の前にたくさんの荷物が積まれています。
談笑している御用商人たちと、ベンチで汗だくになったまま突っ伏しているエイツさんの姿も。
「あの荷物――人数分の強化外装でしょうか」
「だね。それともうひとつ。彼、また張り切っちゃったみたいでね。『秘密兵器』を一品、納入したいとさ」
「秘密兵器、ですの?」
「詳しい話は彼から聞きたまえ。それでは、キミの勝利を願っているよ」
ウインク&投げキッスを残して去っていきますクシュリナさん。
投げキッスは回避しておきました。
「エイツさんの新兵器……。いったいどんなものなのでしょう」
ともあれ、これでこちらの準備は万端。
あとはお父さまが本番の日取りを決めるまで、練度を高めていきましょう。
すべてはアイシャさんと結婚するために。
輝かしい未来への大いなる前進を、一歩一歩踏みしめていくわよ!