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33 娘さんを必ず頂戴いたしますわ!




「さて、立ち話も難だろう。奥までご案内しよう。ちょうど良い茶葉を取り寄せてね」


「不要。長居などするつもりはない」


 お父さまのおもてなしすら拒否するほど頭に来ておられるご様子ね、公爵閣下。

 血走った目でお父さまをにらみつけて、とっくに小娘ふたりなんて眼中にないカンジ。


(けど、眼中にないままじゃ意味がない……!)


 勇気をふりしぼって踏み込んでいけ。

 欲しいモノを手に入れるために。

 アイシャさんとの結婚を勝ち取るために……!


「エ、エイワリーナ公爵ッ!」


「――あぁ?」


 ものすっごい眼でにらまれました。

 けどわたしだって覚悟決めたんだ。

 ひるまず、むしろにらみ返してやるつもりで……!


「わたくし、ソルナペティ=フォン=ミストゥルーデ。勝手ながら婚約破棄を撤回させていただきましたわ」


「とんでもない話だな。言い訳でも並べ立てる気か」


「いいえ。そのようなつもりはございません。ただ公爵に認めていただきたいのですわ。お嬢さまとの結婚を……!」


「話にならん」


 吐き捨てるようにバッサリ。

 このくらいの反応、まだまだ想定の内です。


「過日のこと、此度のこと、我がエイワリーナ家に重ね重ね、どれほどの恥をかかせたと思っている! この上まだ恥の上塗りをしろとでもほざくかッ!」


「返す言葉もございませんわ。しかしッ! それでもッ! わたくしはアイシャベーテさんと婚姻を結びたいのです!」


「ソルナ……」


「大丈夫ですわ」


 不安そうにつぶやくアイシャさんを少しでも安心させたくて、彼女の目を見てほほえみます。

 それからまた、こわーい公爵さんにむきなおって。


「……謝罪をお求めになるのであれば謝りますわ。婚姻にどのような条件付けをされても甘んじて受け入れます。わたくしはそれほどまでに――」


「貴族の立場を降りろ、と言われてもか?」


「……!」


「その程度のこと、私の立場ならばたやすく実行できるのだ。手段さえ選ばなければ、な」


「コホン。エイワリーナ公、さすがに言葉が過ぎますな」


 お父さまが釘を刺そうとしてくれています。

 たしかにいまの、なかなかの問題発言。

 ですがその程度のおどしで『わたくし』は止められませんことよ……!


「望むところですわ!」


「ソルナペティ……!」


「……ほう」


「伊達に公衆の面前で恥ずかしい告白しておりませんことよ! その程度のおどしでは、わたくしまったくひるみません!」


「なるほど、な。……いいだろう、少なくとも覚悟の上での発言であることは理解した」


 大きくうなずいたエイワリーナ公爵。

 認めてくれたわけではありませんが、覚悟のほどは伝わったようです。


「エイワリーナ公。我が娘の覚悟が伝わったところで、だ。私からひとつ提案があるのだが」


「提案、とな。聞かせるがいい」


「私としては娘たちの婚姻を許してほしい。しかしいくら言葉を並べ立てたとて、納得できるキミではない」


「よくわかっているではないか」


「重要なのはエイワリーナの家の名誉を、これ以上(おとし)めないこと。そして、エイワリーナの娘を娶るに足る資格をソルナペティが持っているか否か、だろう?」


「そのとおり。そこまで理解できているならミストゥルーデ公、そなたの提案とは私を納得させるものなのだろうな」


「もちろんだとも」


 ここでお父さま、わたしの方をチラリと見ました。

 もう一度、わたしの覚悟を確かめるように。


(……かまわない。どんな提案だろうとしちゃってくださいな!)


 って気持ちをこめてうなずくと、お父さまはうなずき返して視線をもどし、口を開きます。


「貴族の取り決めとして後腐れなく、名誉も傷つかない方法があるだろう。互いの名誉と誇りを胸に力を見せ合い、その結果に何人(なんぴと)たりとも口をはさむことが許されない方法が」


「……ミストゥルーデ公、自分がなにを言わんとしているか、理解しているのか?」


「もちろんだとも。エイワリーナ公、貴君とソルナペティとで『決闘』を行う……というのが私の提案だ」


 け、決闘……!?

 ちょっとさすがに耳をうたがいたくなるようなフレーズが飛び出した。

 だってわたし、あんなムキムキで怖そうな人に勝てるビジョンがまったく浮かびませんわよ!?


「は――っはっはっはっはッ! 面白い冗談だ! 小娘相手に決闘などと、勝負にもならん! 行う意味自体がまるで無い!」


「一対一、腕っぷしでの決闘ならばそうだろう。しかし我が娘ソルナペティ、なかなかに人望というものを集めていてな。周囲になかなか優秀な人材が集っている」


 優秀な人材……。

 たしかにそうだわね、ホンモノのお下がりな爺やさんは置いておいても、チヒロとかエイツさんとか。


「貴族の強さは腕っぷしのみにあらず。人の上に立ち、人を導く器の大きさこそがもっとも寛容。そこで決闘は集めた人材をひきいての『模擬合戦』という形にするのはどうだろう」


 なるほど、それなら腕っぷしなんて関係ない。

 ちゃんとわたしの勝てる可能性がある方法を考えてくれたのね。


「……ふはははっ! それならばこの私に勝てると! 私よりもその小娘の方が貴族たる器が大きいとっ! そう申すかミストゥルーデ公ッ!!」


「相当に自信がおありのようだ。つまりこの決闘、受けてくれるのかな?」


「いいだろう、いいだろう。万が一にも負けたらば、娘との結婚を認めてやる!」


「ほ、本当ですのね!?」


 思わず口をはさんでしまった。

 でもいいよね、当事者だもん。


「貴族に二言はない。名誉と誇りにかけて、二度と異論を唱えぬと誓おう。ただしッ! 私が勝ったらば、公衆の面前でこの私と娘に頭を下げ、二度とその顔を見せるな! わかったなッ!」


「望むところですわ!」


「その意気や良し。だがしかし、勝てるなどとは夢にも思わぬことだな」


「勝ちますわよ! 勝たせていただきます!」


「はははっ、言いおるわ」


 笑われました。

 しかし公爵さま、目がまったく笑っておりません。


「ではエイワリーナ公、細かなルールや日時、場所は追って伝えよう。立ち合い人もこの私がつとめるが、かまわないかな?」


「あぁかまわぬさ。貴君のことだ、不公平な裁定はすまい。では帰るとする! 来い、アイシャベーテ!」


「……はい」


 エイワリーナ公爵にうながされ、わたしから離れていくアイシャさん。

 こうして嵐のようにやってきたエイワリーナ家ご一行は、嵐のように去っていきました。


 思いがけずも決まってしまった変則的な『決闘』。

 これに勝ちさえすれば、アイシャさんといっしょになれる。


 あの子、去り際不安そうな表情をしていましたが、大丈夫。

 『わたくし』ぜったい負けませんから!




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