表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/96

10 はしたなくも全力疾走ですわ!




 摩訶不思議、動く階段!

 上の段が下へとどんどんスライドし、床に飲まれて消えていきます。

 そして最上段から次々と新しい段が出現してくるのです。


「ど、どうなってますのぉぉぉぉっ!!」


「知らないわよぉっ! と、ともかく、走ってのぼらないと、いつまでたっても上につけないわ!」


「で、では行きますわよっ! 全力疾走ォォォォォッ!!!」


 手をつないだまま、全速力で駆け上がる。

 け、けっこうスライド早いわね。

 なんとかじわじわ上がれているけど、最上段までが遠い……!


「も、もう少しですわ……っと!」


 最後に思いっきり足をのばして、なんとか二階の床を踏めた。

 アイシャさんは……まだ登り切れていない。


「アイシャさん、引っ張りますわ!」


「必要ない――っひゃぁ!」


 足がもつれてつまずくアイシャさん。

 まずいっ、このままじゃ顔面強打ッ!


「危ないですわッ!!」


 つないだままの手をとっさに引っ張ると、勢いあまってわたしも後ろにバランスを崩してしまった。

 アイシャさんも倒れ込むようにわたしとぶつかって、二人重なって床に倒れ込む。


 どすんっ!


 その衝撃で、床につもっていたほこりがブワっと舞い上がった。


「うわっぷ! げっほ、げほっ! ほこり、すごいですわ……っ!」


「な、なんなのよ、ホントにもう……」


 目に入りましたわよ、ったく。

 なんでこんなにほこりっぽいのかしら。

 せき込みながら手をパタパタしてほこりを払います。


「うえっほ、えっほ! ……はー、きったねーですわ! たまったモンじゃねぇですわね……。アイシャさん、おケガはありませんこと?」


「へ、平気……。その、ありがと……」


 あらあらあら、ほんのりほっぺを赤らめてのお礼ですか。

 かわいいトコあるモンですね。


「ニヤニヤするな。なんか腹立つ」


「むふふ。手、つないでて助かりましたわね。これから先もつないでおきます?」


「……ふんっ、こっから出るまでだから」


「わかってますわよぉ」


 ふたりで服についたほこりをパンパン、とはたきながら立ち上がる。


 出るときまで、かぁ。

 だったら出るまでのあいだに、少しでも仲良くなっておかないとね。

 ……それよりまず、無事に出られるか、の心配からするべきかしら。


「で、ここからどうする? とりあえず3階まで行けるみたいよ」


 2階は東西に廊下が続いていて、3階に行ける登り階段は下り階段のとなりにある。

 その階段をかこむように通路がロの字に作ってあって、北側にあるもうひとつの廊下と行き来できるようになっていた。


「3階……。エイツさんの部屋がある階でしたわね。アテもありませんし、ひとまず行ってみましょうか」


 また階段が動き出したらイヤだけど、ね。

 手をつないだまま、3階に続く階段へ進もうとした、そのとき。


 ウィーン……。


 なにかよくわからない音が廊下から聞こえた。

 そちらに目をむけると、なんと床の上を謎の物体が移動してきてる。


 丸くてひらぺったい、駆動音を鳴らしながら無軌道に廊下を這いまわる謎物体。

 そいつが通った場所のほこりが、なぜだかキレイさっぱり消えていた。


「……なにあれ」


「わかりませんわ。皆目見当つきませんわっ、なんですのあの物体っ!?」


 ウィーン、という音とともに、その物体がこちらへやってきた。

 ソイツは床のほこりやよごれをキレイにしながら、わたしたちの前を通って反対側の廊下へ行ってしまう。


「も、もしやお掃除用のゴーレムかしら? なんだかシュールですわね」


「もうワケわかんない……。とっとと3階行っちゃいましょ」


「ですわね。しかし階段、また動くかもしれませんわ。慎重にいきましょう」


「じゃあ『せーの』でいくわよ。……せーのっ!」


 ふたりタイミングを合わせて、一段目に足を乗せます。

 直後やっぱり、ガタンと音がして階段が動きはじめました。

 しかし今度は上の方へ、ゆっくりと。


「……登っていく、わね」


「これいいですわっ! 楽でいいですわっ!」


「たしかに楽、ではあるわ。もしかしてさっきの、罠じゃなくって降りる用だったのかしら……」


 自動的に上まで運んでもらって、一歩も動かず3階へ到着。

 構造は2階といっしょ、ほこりがしっかり積もってるのまでいっしょ。


「エイツさんの部屋は東側の奥。こっちですわね、行きますわよ」


 ――ガシャンっ。


 西側に背をむけて歩き出したわたしたちの背後から、またも怪しげな音がした。

 さっき見た謎のお掃除ゴーレムの音とも違う、重量感のある音。


「……アイシャさん、聞こえました?」


「聞こえたけど……、ふりむくつもり? また変なモノに決まってるわよ?」


 ガシャンっ、ガシャンっ。


「……ねえアイシャさん。なんだか近づいてきてませんこと?」


「近づいてきてるわね。まるで足音みたい……なんて、笑えない冗談かしら。あはは……」


 ガシャンっ、ガシャンっ、ガシャンっ。


「ど、どんどん近くなってきてますわよ!?」


「知らないわよ、もうっ!」


 今にも泣きそうですね、アイシャさん。

 わたしだってすっごい怖い。

 だけど勇気を振り絞って、そっと後ろをふり返ってみる。


 そしてすぐに後悔した。

 だって、クモの巣が張った空っぽの鎧が、猛然とこっちに走ってきてたんだもの。


「――っ、いいいいいいいぃぃぃぃやあああぁぁぁああぁぁぁぁッ!!!!!」


「い゛っ!? な、なになになになになになになになにぃっ!!?」


 勝手に口から叫び声が出てしまった。

 同時にアイシャさんの手を引いて、全速力で走り出す。


「なによなによなんなのよっ!! いったいアンタなに見たのっ! 言いなさい!!」


「ご自分で見て確かめてみたらいいじゃありませんのッ!!」


「イヤよぉ! 怖いものッ!!!」


 わたしもアイシャさんも、もう半泣き。

 必死に走って走って走って、一番奥の部屋のドアに体当たりしてブチ開けた。


 ダァァンっ!!


 転ぶようにして中に飛び込むと、その瞬間、またあたりの景色がぐにゃぐにゃと歪みだす。


「こっ、今度はなによぉ……っ」


「泣かないでアイシャさん! おそらくですが元の世界に戻っていきますわ!」


 これ、トラップハウスに入ったときとおんなじ現象だわ。

 ぐにゃり歪んだ風景が、だんだんと形を取り戻していく。


 そうして歪みが落ち着いたとき、わたしたちはなんの変哲もない寮の一室の入り口にいた。


「こ、ここは……」


 開けっ放したドアにかけられた名札に目をやる。

 『エイツ』。

 間違いない、ここが目的のエイツさんの部屋だ。


「よ、よかったぁ……。戻ってこられたのね……」


「寿命が縮まった思いですわ……」


 ふたりでホッと胸をなでおろす。

 直後、アイシャさんはつないだままの手に気がついた。


「あ――」


「……? いかがしましたの?」


「え、えーっと……。も、もどったから、コレ終わりだからっ!」


 バッ、とすごい勢いで離してしまいました。

 や、やっぱりイヤだったの……?


「――キミたち。他人の部屋に入ってきてあいさつも無しかい?」


「……!」


 奥の方から声が聞こえる。

 おそらくこの部屋の主の声でしょう。


「し、失礼。ちぃとばかし危ない目にあって、余裕がありませんでしたの。ご無礼、お許しあそばせ」


「その声、ソルナペティ嬢、か……? あぁなるほど、だから僕の実験スペースに紛れ込んだのか……」


「実験スペース……?」


「いいさ、ちょうどいい。奥に入ってきなよ。そろそろキミに会いたかったところだったんだ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ