序章 消えた神
ジン。それは精霊。世界を守護する、神にも等しい崇めるべき存在。
イブリース。それは精霊の中の精霊。世界を統べる精霊王。
その王たちの中でも特化して崇拝される、『時の力』を持つ存在。それはイブリースの中でも最も強い力を持つ、まさしく絶大なる力を有するイブリース。
暦道のイブリース。
存在する数多のイブリースの中でも、『字』で呼ばれる王は少ない。字とは、人々からも、そして同胞であるジンからも敬愛される精霊王にのみ与えられる御名だ。
絶対的な力をも秘めたる時のジン、暦道のイブリース。
彼の精霊王の持つ時の力は強大かつ絶大であり、人々の生を、そして死を支配する。
本来、イブリースとは人々を守護する神とは限らない。まして、人の死を支配する神は古より恐怖の象徴として人々から恐れられている存在だ。
だが、人々はそれでも暦道のイブリースを崇拝する。それは彼の精霊王が時の力で支配すると同時に、人々を加護しているためでもある。
彼の精霊王は人々を愛し、慈しむ心を持っていた。人々を蔑ろにする同胞にはその絶対なる力を持って戒め、だが自身は必要以上には干渉せず。
生ける者を、そして世界そのものを愛する、もっとも敬愛すべき精霊王。それが彼の王だ。
暦道のイブリース。
それは絶大な、絶対的な時の力を持つ、精霊王の中で最も崇めるべき存在。その清い御心と慈悲によって世界の秩序を守る存在。
そんな彼の精霊王が世界から消えることなど、ありえない。
あってはならないのだ――。