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番外編 ~出席番号10番 木嶋結衣~

いつもより、ちょっと長めになってしまいました。


いつも書く時、目安にしている文字数よりも1.5倍~2倍くらいになってます。

 異世界転生した事に対して、特に思う事は何もなかった。

 死んでしまった事を嘆いたところで、何か変化があるわけじゃない。精々が、今まで積み上げてきた17年が無駄になったな、くらいな感想しかない。

 そんな過去を振り返るよりも、未来をどうするかである。

 将来、安定して楽に暮らせるためには何をするべきか。私の行動理念はそれだけだ。


 王族や貴族ではなく、平民に生まれた時点で、そういった連中よりも努力しなければ、将来の楽な生活にたどりつけない格差社会に若干ガッカリもしていた。

 とはいえ、革命が起きないとも限らないので、王族や貴族に生まれ変われてたとしても油断はできないのかもしれない。


 それを考えれば、超低確率でもある、将来的に爵位を貰えるように努力する事も無駄に思えてくる。


 この生まれ変わった世界には、明確に個人の優劣をつけるステータスというものが存在する。

 コレを伸ばしていく事が、とりあえずは将来の安泰につながるのではないかと思う。

 もちろん、その結果ともいうべき王国軍や貴族の私兵としての就職なんて興味がない。そんな、定年が存在せず死ぬまで他人に顎で使われるような仕事はまっぴらゴメンだ。私が目指すのは、王国軍すら手出しできないような強さを持った野盗だ。


 目標を設定したら、あとは行動だけだった。

 私は歩けるようになると同時に、毎日暇さえ見つければ、村の近くにいる弱めの魔物を狩ってレベルを上げていった。

 8歳の時には、家の生活を少しでも楽にするため、という名目で冒険者ギルドにも所属し、よりレベル上げの頻度を高めていき、10歳には高位職にもなれた。


 全てが順調だと思っていたある日、ギルドでちょっとした噂話を耳にした。

 曰く、私と同年代くらいで、懸賞金が大金貨100枚にもなっている女の子がいるという。

 その子は『管理者』という意味不明な職業をしており、総合戦闘力が20万前後あるという化物らしかった。


 もちろん、そんな子がいるという事はギルドに所属している身としては、手配書などを見て知ってはいた。懸賞金の額も、宝くじが当たるような感じかな?程度には思っていた。

 しかし、総合戦闘力が20万もあるような化物だとは思いもしなかった。

 そんな化物が存在していては、他よりちょっと強くなった程度では、おちおち野盗もできやしない。

 何かの拍子で、その子とうっかりバッティングしてしまったら、その時点で人生詰みである。


 私はその日から、レベル上げのペースをさらに加速していった。

 とはいえ、総合戦闘力20万以上になるのは至難なので、この子と対峙した時、せめて「コイツと戦うのは面倒臭そうだ」と思わせる程度には強くなろうとした。


 それから数年。私のレベル上げの日々が続いた。

 そんなある日、突然魔物達が行動範囲を変えて、町まで侵入してくるようになり、魔王を名乗るヤツを筆頭に魔王軍なる存在が現れた。

 私の想像を超えるような強さを持つ奴が、銀髪の堕天使だけじゃなく魔王まで……

 わけのわからないヤツの出現に、私のイラ立ちは募っていき、そのストレス発散といわんばかりに魔物を狩っていた。

 そしてレベルが上がった次の瞬間『ソードマスターに転職可』という文字が目の前に浮かんできた。

 混乱した。

 高位職のさらに先がある?もしかして、誰もこのレベルに達してなかったせいで認知されていなかった?じゃあもしかして、銀髪の堕天使の『管理者』ってのも、何かの高位職の先の職なの?

 ……でも


「『ソードマスター』か……私は『管理者』にはなれないの?」


 無意識につぶやいていた。

 別に誰にあてた言葉でもない。本当にただのボヤキだった。


『管理者に転職可能です。転職しますか?』


 目の前に浮かんだ文字に言葉を失った。なれるの?あのルーナ・ルイスと同じ職に?私が?


「……『管理者』に……転職……します」


 興奮が抑えられずに、震える声でつぶやく。

 次の瞬間、目の前の文字が消えて静寂が訪れた。

 それはそうか……職が変わったからといっても、別に変身するわけじゃない。高位職に転職した時もこんな感じだったしね。

 私は恐る恐る自分のステータスを確認してみる。


イリーナ・エルマコヴァ(木嶋結衣(きじまゆい)) 管理者 LV1 魔族

力……20000 防御……20000 魔力……20000 魔法抵抗……20000

~全スキル使用可能~ 詳細は別コマンド参照

総合戦闘力……158500


 自然と笑みがこぼれた。

 まぁそれも当然かもしれない。総合戦闘力が今までの20倍くらいに上がったのだ。

 しかもこの職。レベルは上がり難いが、1レベル上がっただけでも、ステータスの上昇率がとんでもなく高かった。


 化物共の仲間入りを果たし、怖い物の無くなった私は、ある日ふらっと魔王軍領へと足を運んでみた。

 そこはイメージと違って平和そのものの町だった。

 若干肩透かしではあったものの、偶然、魔王と思われる少女と遭遇でき、咄嗟に鑑定してみたところ、総合戦闘力は17万弱だった。


 レベルも少しは上がり、装備品の補正も加えた今の私の総合戦闘力は18万弱……

 私は、魔王よりも強い?


 これは、野盗になるよりも、魔王を倒した英雄の立場を得た方が、より将来安泰なのではないだろうか?

 そんな考えが頭をよぎった。


 その後はほぼ無意識だった。

 気が付いたら私は、魔王が住居にしている館を強襲し、魔王に不意打ちをかけていた。


 不意打ちしたにも関わらず、魔王にはあっさりと対応されてしまっていた。

 何だコイツ!?本当に私より弱いのか?


「……木嶋さん、なの?でも『管理者』って……何でルーナと同じ職に?」


 身構えたままの状態の魔王の口から信じられない言葉が飛び出してくる。

 何で私の前世の名前を?


「何なのアンタ?何で私の前世の名前知ってるのよ?」


「え?何でって……『鑑定・改』があれば……」


 私の質問に正直に答えを返してくる魔王。バカなのコイツ?

 にしても鑑定・改?確かにスキル欄にそんなスキルが追加されていた。

 いきなり全スキル使用可能とか言われたって、全部のスキルを把握できるわけがない。


 私は言われた通り、その鑑定・改で改めて魔王のステータスを覗き見てみる。


クロエ・バルト(西野琉花) 魔王 LV61 人種


力……14992 防御……16398 魔力……24470 魔法抵抗……23554


スキル数78(別コマンド参照)


総合戦闘力……167695


 何だこのインチキスキルは!?ステータス丸見えじゃない!?

 いや、それにしても……


「西野?アンタ西野なの?……ハハ……アハハハハ!」


 我慢できずに笑いがこみあげてくる。

 正直、前世ではコイツの事はあまり好きではなかった。そんなヤツを殺すだけで、私の将来はバラ色になるなんて、こんな楽な事はない。


「西野ぉ!私の将来の名声のために死んでくれない?」


 そう一言放ち、私は愛用の剣を構え直し西野へと突撃する。


 ステータスを見る感じ、コイツは魔法に特化した戦いが得意なのだろう。だったら接近してしまえばコッチのものだ。幸い私は元々接近戦がメインの職だった。私が負ける要素は何もない!


 ……ハズだった。

 西野は私の攻撃を巧みに捌き、ダメージを少なくして、生意気にも反撃してきた。

 私の知らない攻撃魔法だけでなく、バフ魔法やデバフ魔法も多用してくる。

 まったくもって生意気だ!何でコイツはこんなにも戦い慣れてるんだ!?それだけのステータスがあれば、対人戦やっても一方的に片が付くはずでしょ?同レベル相手の対人練習なんてできないはずなのに……

 一方の私は、知っている攻撃系スキルで力任せに攻撃するだけ。

 基本、避けられるか、武器で受けられるかで、たまに攻撃がかする事はあっても、いまだに一発もクリーンヒットしていない。


 総合戦闘力に1万もの差があるのに、無いに等しくなっている現状に私のイライラが募りだす。

 一発だ!一発でもまともに攻撃が入れば戦況はひっくり返るというのに、その一発を中々当てる事ができない。


 館は、私の大振りの攻撃と西野の魔法で、既にボロボロになっており、今にも崩れそうになっていた。

 いや、ボロボロなのは館だけじゃない。私も西野の攻撃でそうとうボロボロになっている。


 どうする?一旦引いて、さらにレベル上げをして出直すべきか?いや!迷っている暇はない。このまま戦っていても不利なのは私だ。ここは恥でも逃げるべきだ!


 私は西野のスキをついて、窓から外へと飛び出す。

 そんな私を見て、西野は逃がすまいと追撃するため、少し遅れて私を追って、同じ様に窓から飛び出してくる。


 ……ん?()()出す?


「馬鹿か西野!空中じゃさっきまでみたいな小賢しい動きはできないでしょ?」


 先に地面に着地していた私は、振り向きざまに西野が落ちてくる方に向かって剣を突き出す。

 西野も咄嗟に体を丸めて、少しでもダメージを減らそうと動くが、そんなのは関係ない。

 勢いよく私の剣へと向かっていく西野と、勢いよく西野へと突き出した私の剣。

 ゲームなどでクリティカルヒットとなるのは、おそらくこういう攻撃なのだろう。


 私の持つ剣の刃は、丸まっていた西野の手と足を貫通して腹部にまで到達した。

 腹を貫通していれば、内臓に致命的なダメージが通り、そこで勝負は決まっていたのだが、手足に邪魔をされてしまった。


「ううぅ……ああぁぁぁ……」


 倒れこんだまま、痛みで苦痛の声を上げる西野。叫びだしたい程の痛みだろうに、声を必死に抑えているのは強がりなのだろうか?それとも、これほどのダメージを受けていても、まだ余力があるのだろうか?

 その証拠に、倒れたまま私を睨む目は、まだ戦う気でいるようだった。


「何なの……何なのよアンタ!?私より弱いんじゃないの!?早く死んでよ!!アンタを殺してルーナ・ルイスも殺せば私に怖い物は無くなるのよ!!私のためにアンタ等は死ななくちゃいけないのよ!!」


 我ながら物騒な発言だ……

 こんな発言を誰かに聞かれたら、私の『魔王を倒して英雄になる』プランに支障が出る。

 ただ、叫ばなくてはやってられないくらいに、さっきまでの戦闘で、私は西野に追い詰められていた。


 だからこそ、聞かれたとしても西野しか意味を理解できない日本語で叫んだ。


「ルーナも……殺すつもりなの?」


 絞り出すように西野が声を出す。


「やっぱり……やっぱりまた転生組なの……?また私の幸せを壊していくの……?やっぱり転生組は……皆殺すべきなの……?ルーナとレイナちゃん以外は……皆……敵だ……!」


 意味のわからない事をブツブツ言いながら立ち上がろうとする西野。完全に目がイっている。


 何なんだよコイツ!?本気で怖い……というより気味悪い。


 私は西野が完全に立ち上がる前に、その腹部を、今度こそ刺し貫く。

 私を睨んでいた瞳が大きく見開かれる。

 そして、その見開かれた瞳は、私への怨嗟を込めた視線へと変わる。


 何だよコイツ!何だよコイツ!!何なんだよコイツは!!?


 恐ろしくなり、西野の腹部から剣を引き抜く。

 そのままゆっくりと倒れこんでいく西野だったが、その視線は、私から一切逸れる事がなかった。

 まるで、このまま再度起き上がり私の首でも絞めてきそうな瞳だった。


 完全に倒れこんだ西野を前にして、私は動けずにいた。


 死んだんでしょ西野?いきなり起き上がってきたりしないよね?


 私は逃げるようにしてその場を立ち去る。

 いつの間にか集まっていた野次馬達は、私に道を作るようにして離れていった。


 ……それから数日経っても、西野に対する恐怖心が消える事はなかった。

 あの最後に見た西野の恐ろしい瞳……その眼光が頭に残って離れてくれなかった。


 そして……

 そんな私の元に、その西野が最後に見せたような恐ろしい瞳をしたルーナ・ルイスが現れた。


 ルーナ・ルイスの鑑定結果は……


ルーナ・ルイス(沙川マヤ)LV0 総合戦闘力0 神 ※鑑定不能


 わかった事はルーナ・ルイスが、私が大嫌いな沙川マヤだという事だけ。

 ……あまりにも不気味な鑑定結果から、もう、私は逃げられないと悟る。


 この時、私は、魔王軍に手を出すべきではなかったと気が付いたのだった。


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