第86話 神再臨
蘇生魔法は何のエフェクトもない淡泊なものだった。
そりゃあ設定も何もしてないのだから、当たり前と言えば当たり前の事なのかもしれないが、製作者の意図をくみ取って、ちょっとくらいは『奇跡が起きているような演出』が加えられててもいいような気がするんだけど……例えば、天使の羽っぽいのが舞い散るような演出とか?
まぁ実際にそんなのが舞い散っても、魔法の効果が発揮された後は、ただのゴミになるだけなんでいらないんだけどね。
そんな事を考えていると、ルカの肌に血色が戻り、ゆっくりと目を開く。
「ルカ。大丈夫ですか?私がわかりますか?」
とりあえず声をかけてみるが、いきなりの事で混乱しているのだろうか、ルカからの返事はない。
……違う。
何か変だ。
生き返ったというのに、呼吸だけはしているものの微動だにしていない。
何よりも視線が定まっていない。
目の前に私がいるというのに、どこを見ているのかわからない。
「……ルカ?」
再び声をかけてみるが、やはり何の返答もないうえに、口元からよだれが垂れてきている。
死亡してから時間が経っているから、まさか脳に障害が残っている!?
その辺も蘇生魔法の効果で何とかならなかったのか?蘇ってもこれじゃあ蘇生魔法の意味があんまりないんじゃないだろうか?
「キュアオール!」
脳障害も状態異常の一種と仮定して、いちおう状態異常回復魔法を使ってみる……が、まったくと言っていいほどルカの反応はなかった。
「管理者権限スキル発動……新スキル設定。スキル名『ブレインヒール』、効果は脳の損傷を回復させる。取得レベル、神のみが使用可能なスキル」『ピンポーン』
よし!上手くいった。これで……
「ブレインヒール!」
設定した新魔法をさっそくルカへと使用する。
しかし、何の変化もなかった……
「何で……何でダメなんですか!!?」
何をしても効果がない焦りと苛立ちで、思わず声を張り上げて叫ぶ。
「……鑑定・改」
何か解決のヒントが、ルカのステータス画面に表示されていないか、祈るような気持ちで鑑定・改を発動させる。
クロエ・バルト 魔王 LV61 人種
力……14992 防御……16398 魔力……24470 魔法抵抗……23554
総合戦闘力……106695
……何だコレ?
今まで表示されていた、この世界での名前の隣にカッコ書きであった「西野琉花」の文字がなくなっている。
ステータスはそのままなのに、スキルが一つも無くなっていて、そのせいで総合戦闘力が減っている。
そしてもちろんだが、状態異常を示すような表記はいっさい表示されていなかった。
鑑定・改でヒントを得ようとしたのに、逆に余計混乱するハメになるとは思わなかった。
ホント何がどうなってるの!?
私はこの世界の神なんじゃないの?この世界の事だったら、何でも好きにできるのが神なんじゃないの!?
「私は……名実ともに神になったんじゃないんですか?神なのに……神なのに、何でこんなわからない事だらけなんですか?」
私以上にこの世界の事を知っている人は誰もいない。それでも、返答がくるはずもないつぶやきが私の口からもれる。
そう、この世界の神は私なのだ、神である私がどうにもならない事を、他の誰かが解決できるとは思えない。
……ん?『神』?
いる!いるじゃないか!!
別にこの世界に限る必要はないんだ。
あの自称・神なら、質問すれば何かしらの答えが返ってくるんじゃなかろうか?
問題は、ちゃんと会えるかどうかだ。
会いたくもないような時は、勝手にすり寄ってきたりするくせに、会いたい時にはどうすれば会えるのかがわからない。
とはいえ、行動しなくては現状何も変わらない。
私は、最初から変わらない格好で、どこを見ているのかわからないルカにそっと触れ、そのまま転移スキルを発動する。
目を閉じて思い浮かべるイメージは、前世の世界に戻った時に、強制的に連れていかれたアノ真っ白な何もない空間。
正直、アノ変な空間にちゃんと飛べるかどうかは疑問だった。
ただ、あそこに行けなければ、自称・神に会うための手がかりが無くなってしまう。
というよりも、むしろあそこ以外のどこで自称・神に会えばいいというのだろうか?
転移スキルが発動したのを確認し、祈るような気持ちで閉じていた目を開く。
そこには何も無い真っ白な空間が広がっていた。
……来れた?うん、来れた、んだよね?
あの時は、自称・神がベラベラと喋っていたので気にならなかったが、そこはまったくと言っていいほどの無音の空間だった。
その静けさに押しつぶされそうになるような印象を受ける、そんな場所。
あの自称・神は、こんな場所に永遠に1人でいるのだろうか?私がこんな場所で1人で過ごす事になったら……
そんな事を考えて恐ろしくなる。
私だったら気が狂って頭がおかしくなってしまうだろう。
……ん?だからアノ自称・神は頭おかしいのか?
いや、今はそんな事はどうでもいい!とにかく今は、自称・神に会わなくては、こんな所まで来た意味がまったくなくなってしまう。
「いないのですか自称・神!!出てこないというのでしたら、出てくるまでコノ空間を力の限り破壊していきますよ!!」
私は何もない空間に向かって叫ぶと同時に、背中から両手剣を引き抜き、そのまま高く振り上げる。
「この場所は物理法則から外れた空間ですから、アナタの力ではどうやっても破壊する事はできませんよ……それと、何ですか『自称・神』とは?もっとワタクシに敬意を込めた呼び名はなかったのですか?」
無音だった空間に声が響き渡る。
っていうか、何が「敬意を込めた呼び名」だよ。自己紹介も何もなしで「神様です」とか言われただけなんだから、どう呼べばいいのかわからないっての。
「神様」って呼べばいいのかもしれないけど、私もいちおうは「神様」だから、それもちょっと違う気がするんだよなぁ……
そんなどうでもいい事を考えていると、ふと背後に気配を感じ振り返ると、そこにはいつ現れたのか、前回会った時と同じように、前世の私の姿をした、自称・神と思われる人物が立っていた。
「どうも~……ワタクシ、皆大好きな人気者の神様ですよ~」
声は相変わらずふざけた声のままだった。




