第85話 ルカの訃報
順調だった。
人員も増えて、国としての体裁を維持できるようになってきた。
順調だった。
平和のためにと多くに人々がレベル上げをするようになり、RPGとして私が望むような世界になっていた。
全てが順調だと思っていた。
この瞬間までは……
「アンちゃん……西野が……殺された……」
ルカと八百長試合をしに行くと言った翌日に、愛花が息を切らせて私の執務室へと駆けこんで来た。
地図上ではすぐ近くの町同士ではあるが、徒歩で4時間以上はかかるであろう距離を全力で走ってきたのだろう。愛花の顔からは拭っても拭っても汗が流れ落ちていた。
「何を……何を言ってるんですかレイナさん?今のルカが簡単に殺されるわけないじゃないですか?」
いくらこの世界の人達のレベルが底上げされたと言っても、ルカの総合戦闘力は6桁ある。そんなルカを倒せるようなヤツがいるわけがない。
「私だってわけわからないよ。西野が住んでた屋敷は滅茶苦茶に壊れてるし、町の人に聞いたら『魔王が勇者に討伐された』とか言われるしで……」
どうやら愛花もだいぶ混乱しているようで、町の様子を見て急いでとんぼ返りしてきたのだろう。
「勇者?……レイナさん。話は詳しく聞いてきましたか?」
「ごめん。私もパニクっちゃってそこまで詳しくは聞いてないんだけど『勇者は噂通り若い女の人だった』とか『二人ともスゴイ強くて、実力も同じくらいで接戦だった』とか言ってた気がするんだけど……ねぇアンちゃん、勇者って私以外にいるの?」
冗談じゃない。幼い頃からレベル上げに精を出してた上に、途中から経験値10倍アイテム使って強くなった愛花以外に、勇者職に就けるようなヤツがいてたまるか。
気になるのは『若い女の人』って部分だ。
長年かけてレベル上げをして、今まで目立った行動を起こしていなかっただけの人物が、この世界にいないとは限らないが、今回目撃されてるのは、そんな仙人みたいな人物ではなくて『若い女性』だ。
可能性としては転生組の誰かって線が高い。
ただ、それが誰なのかわからない上に、どういうカラクリでルカを倒せるほどの力を手に入れた?
「いったん落ち着きましょうレイナさん……ちなみにルカの遺体は確認したのですか?」
落ち着くように愛花に言いつつも、自分も冷静になるように努める。
大丈夫……ルカに関しては、管理者権限スキルで、蘇生させるための魔法とかを作れば問題ないハズだ。
「町の人の話だと『魔王の遺体は近くにある丘に埋葬した』って……さすがに墓を暴くわけにはいかないと思って、確認はしてない」
確かに、確認するためとはいえ、墓から死体をほじくり出すのを強いるのは酷だ。
っていうか、まさか火葬されてないよな?
「とりあえず現場に行ってみます。帰ってきたばかりですがレイナさんも一緒に来ますか?」
「そりゃあ私も、西野が本当にやられたのかどうか確認しには戻りたいけど……今まで勇者として噂広げてたのに、私、アンちゃんと一緒に行動しちゃっていいの?」
私の問いかけに、微妙な表情をしながら質問で返してくる愛花。
確かに愛花の言う通りだ。
私もまだ冷静にはなりきれてなかったのかもしれない。
魔王が倒されてしまったのなら、もう勇者も魔王も関係ないかもしれないが、ルカを生き返らせる可能性が有る分、慎重に行動しなければ、今まで噂を広げるため頑張ってきた愛花の努力が水泡に帰す。
「そうですね……やはり私一人で行ってきます。レイナさん、留守番よろしくお願いします」
愛花に一言言い残し、私はいつものフードを目深くかぶり、そのまま転移スキルでルカが住んでいた屋敷へと移動する。
屋敷は、一応は原型を留めている、といった感じな壊れ方をしており、激戦が行われた事を物語っているようだった。
入り口付近には『危険ですので立入禁止』の立て看板が設置されていた。
おそらくはこの町に配置している役所員がやったのだろう。
ルカがいなくなっても支障なく町の平穏が維持されている事も考えて、この町の事務員は優秀なのかもしれない。
たぶん、ルカがやられた事に関しても、手紙か何かの書面で私へと送っているのだろうが、生憎と愛花の脚力の方が上だったのだろう。
もしくは、この世界でネット通信どころか、速達のシステムすらないのが原因か?
まぁともかく、私は町を出てすぐ近くに丘があるのを確認し、早足にその場所を目指す。
「管理者権限スキル発動……新スキル設定」
歩きながらそっとつぶやく。
「スキル名『神の奇跡』、効果は死者の蘇生。取得レベル、神のみが使用可能なスキル」『ピンポーン』
よし、設定できた。
蘇生魔法名とか冷静に考えてる余裕がなかったので、ちょっと適当になっちゃったけど、とりあえずはこれでルカを復活させる事ができるだろう。
丘に着いて、辺りを見回してみる。
たぶんコレかな?と思われる、2本の木を十字に結んだ杭が刺さっている。
何というか雑だな。
私が子供の頃に、家の庭に作った金魚の墓に毛が生えた程度なレベルだ。
大丈夫か?死体とか、ちゃんと深く埋めないと、そのうち出てくるぞ。
私は、刺さっているいる杭を引き抜き、その場所を、持っていた両手剣をスコップ代わりにして掘り返した。
埋めてすぐだからだろう。思った以上の簡単に掘れて、すぐにルカの手と思われる部分が、土の中から姿を現した。
うっかり両手剣突き刺しそうになったのは復活後のルカには黙っておこう。
ある程度姿が見えた後は、力に物を言わせて一気に引き抜く。
その遺体は確かにルカだった。
まだ死後そんなに経っていないからだろうが、死体の腐敗は少ない。若干体が膨張してるくらいだろうか?
そんなルカの姿を見て何とも言えない気分になる。
正直死体は見慣れている。
ただ、この世界で、幼い頃から一緒にいるルカのこんな姿を見るのは、あまり耐えられたものではなかった。
散々人を殺してきた私が、親しい人の死体は見たくないと思うのはわがままな事なのだろうか?
いや、今はそんな事考えてる場合じゃないか……
「すぐに生き返らせてあげますからねルカ……」
ルカに語り掛けるようにつぶやき、私は蘇生魔法を使用した。




