第80話 穴だらけの収入システム
そんなわけで、本当に各国の王に会って来た。
ルカからは「本当に実行するとは思わなかった……」と軽く呆れられたが、やっちゃったものは仕方ない。
魔族領とエルフ領の王城には実際には行った事がなく、転移スキルで行けるか不安ではあったが、ゲーム作った時に設定したイメージを思い浮かべてみたところ、無事転移する事ができた。
そして、いくら魔王の使者として行っても、いきなりアポ無しで押しかけても通してはもらえなかったので「私がその気になれば5分もあれば、この辺一帯を廃墟にできますよ。話し合いに応じなければやってみてもいいですけど……国王死んでも知りませんよ?」と衛兵を軽く脅したところ、快く国王に謁見させてもらう事ができた。
どこの国の国王も、自らの領土の一部を奪われた際の魔王軍戦力を報告されているのか、一様に顔を青くして私の話を聞いていたので、ここぞとばかりに要求する金額を多少吹っ掛けてみたりもした。
もちろん反発はされたけれど、大抵は王様の近くに控えている騎士長だとか親衛隊隊長だとかいう、その国で一番強いとされている人を、見せしめに瞬殺してみると、黙って要求をのんでくれた。
というか、私に逆らって反発してくるのが、基本王様じゃなくてこの側近騎士だったりするので、そいつさえ黙らせれば何とかなるものなのだ。
私の要求は、貴族が対象になっており、王族に負担はないから、王様にはすんなり要求が通るかとも思ったのだが、そう上手くはいかなかったというわけである。
貴族から金を搾り取れば、それだけ国に入る税収も減るし、何よりも、貴族に爵位と領地を与えているのは国王である。その国王から「俺は関係ないけどお前等は魔王に金払えよ」とか言われたら「は?」ってなるよね。もう王様の求心力だだっ下がりだ。
とはいえ、要求を受け入れなければ命はない。
側近騎士一人を既に殺害しているので、「従わなければ殺す」が単なる脅し文句……はったりなどではない事はわかっているはずだ。
そんなこんなで、無事王様の説得も上手くいき、万事まとまったお金を手に入れる基盤を手に入れたわけである。
ただ、愛花に別行動を取らせている現状、従わなかった貴族の領地を占領して管理するなんて2人だけじゃ無理ゲーなので、いちおう「自分達はこれ以上領土を広げるつもりはないよ、要求に従わなかった場合は別だけどね」と、くぎを刺しておいた。
まぁ、ちゃんと要求に従ってれば、これ以上は何もしないよ、という優しさアピールである。
もちろん本音は「反発されると私とルカが過労死するから、お願いだからマジでやめてね」ではあるのだが……
あ、それと、ついでといっては何だが……
「それと……もし勇者レイナに会う事があれば伝えてください……『この世界は魔王様がいただいたも同然だ。いい加減無駄な足掻きはするな、目障りだ』と、ね」
とか、ちょっと意味ありげな感じに、少し怒ったような表情をしながら、各国で言ってきた。
もちろん本当に愛花に伝言を残したいわけではない。言いたければ直接話せばいいだけなのだから。
あくまでも『魔王に対抗している勇者が存在しているんだよ』ってのを世界中に広めたかっただけの話である。
あとは噂が一人歩きしてくれれば、私が考えていた、ゲームっぽい感じの勇者と魔王のサクセスストーリーの完成だ。
まさに計画通り!
そう!もう全てが上手くいっているかのような気がしていた。
しかし、いざ、各都市の使者がお金を持ってやって来た時、大きな問題に直面したのである。
「ねぇルーナ……全世界の細分化された領地がどれだけあって、どれだけの税収を得てるかって知ってる?」
ええ!まったくもって知りませんとも!!
近場の村や町を見て「あ~ここって〇〇領なんだぁ~」とか、そんなご近所知識しか持ってないし、そのご近所領地でも、そこの損益計算書なんて見た事がない。
「まさか、こんな落とし穴が潜んでいるとは……想像もしていませんでした」
「いや、その辺は理解しとこうよルーナ……私てっきり、ルーナはこの世界の全部を理解してるのかと思ったよ……神様だ、とかも言ってたし」
神様に幻想抱くなルカ!世の中には全知全能じゃない神様だっているんだぞ!私とか、私とか、あと私とかな!
「しかし困りましたね……これじゃあ、どこの領主がお金収めてないのかとか、収められた金額が本当に正しいのかわかりませんね」
特に金額に関しては、監査機関があるわけでもないから、いくらでも収支報告書偽造し放題だ。
そんな物を一緒に提出されても、私達にはいちいち調べてるような余裕がない。っていうか量が多すぎて、二人でまわせるような仕事じゃない。
使者が持ってきた豪華な革袋を眺めてみる。
そこには『ハリス伯爵』とか『プロイセン公爵』とか『クライスト侯爵』とか提出してきた領主の名前が書きこまれており、中身はずっしりと大金貨が入っている。
でもそこに、金額が書きこまれてはいない。
こんなのどうやって真偽を確かめりゃいいんだよ!?コイツ等絶対に、バレないと思って適当な金額詰めてるだろ!?
……まぁでも金送ってくるだけまだマシかな?
問題は提出してない連中がどれだけいるかだ。
「提出しなかったら領地滅ぼすよ」とか脅しをかけている手前、何もしなければ示しがつかない。放置したら「あ、お金収めなくてもいいんだ?」ってなって、次回からどこの領地からも提出がなくなるだろう。
「あれ?ここの隣……魔族領側にあるのってメーストル領だよね?」
ふと、何かに気付いたかのような声を上げるルカ。
「基本私は人種領以外疎いですが、たぶんそうだったと思いますよ」
まぁ人種領も疎いんだけどね……エルフ領や魔族領よりはマシってレベルだ。
「送られてきた一覧に名前がないよ」
マジで?よく見つけてくれたルカ!
全部をあたっていたらきりがないから、とりあえず今回は抽選の結果ココを滅ぼしますって感じにして全世界にアピールしよう!
ってか魔王の権威を維持するためには、その方法しか思いつかない。
「では早速行ってきます!」
「どこへ!?」
とりあえず察しの悪いルカは無視する事にし、即転移スキルを発動するのだった。




