第79話 内政問題
事は順調に進んでいた。
国同士の境界線付近にあるノーム村を占領した後、近隣にある町を、人間領・エルフ領から1つずつ、ノーム村と同じような手法で手に入れる事ができた。
あまりに順調にいきすぎて、肝心な事を失念してしまっていた。
一言で言うと『圧倒的に人手が足りない!!』
あまりに無計画で行動しすぎた……
私とルカと愛花、3人いるから、とりあえず3種族から1つずつ領土奪って、それぞれで管理維持すればいんじゃね?くらいで考えていた。
しかしふたを開けてみたら、勇者である愛花は、魔王軍として私達と一緒に町を占領させるわけにはいかずに、その時点ですでに1人人員不足が発生していた。
そして、陣取りゲームとかと違って、きちんと内政を整えないとどうにもならない事を今更ながら実感した。
当たり前の事なのだが、『はい、町を占領しました。これで次ターンから一定の収入が入ってきます』なんてのはゲームの中だけだったのだ……いや、いちおうこの世界、私が作ったゲームではあるんだけど、言いたい事はそういう事じゃない。
ここは既に現実と化した世界なのだ。
ゲームの魔王のように、城に引きこもりしているだけで生活できるほど、ニートに優しい世界ではなくなってしまっている。
魔王軍らしく、近隣の町を襲ってヒャッハー!しながら物資や金銭を奪うのもありなのかもしれないが、それは私の作った世界の品位を落としてしまいそうなので、できればやりたくない。
というか、そんな行為を、ルカや愛花が許容するとは思えない。
やるべき事は住民の把握、そしてそこから効率の良い税金徴収のシステム作り。町設備の充実化、住民の生活安定化に、土地を誘致しての移住者の受け入れ。もう挙げたらきりがない。
つまることろ現在、簡単に言えば内政ガタガタな状態なのだ。
政治等に関してはド素人な私達が本来取れた行動としては、町の代表者を呼んで「私達が今日からこの町を統治する。今まで通りの生活を送りつつ、取り立てた税金は私達に持ってこい」とか言うべきだったのだろうが、生憎と今まで町を管理維持していた領主は実家に送り帰してしまっている。
そんなわけで、既存システムを引き継ぎできないで今に至ってしまっているのだ。
「とりあえず、町役場みたいなものを設置して、住民から職員を募集しますか……」
「ルーナ……私達っていちおうは魔王一派なんだよね?」
今後の方針を話し合い中、私の放った一言にルカからの適格なツッコミが入る。
わかってる。言いたい事はよぉ~~くわかってる。
魔王軍のイメージとかけ離れすぎてるよね。
「ルカ……イメージを大事にしたいのはわかりますが、それだけでは飯は食えないのですよ」
現実を直視するようルカを諭す。
「いや、それもあるんだけどね……職員募集に人集まるのかな?恐ろしい魔王の下で働きたい人とかいるとは思えないんだけど……」
「何を言っているんですルカ?ただの一般的な会社職員じゃなくて、公務員ですよ!安定した職業に就けるなら喜んでくるハズですよ!」
「公務員って概念がこの世界の人に通じるかな?」
ダメかな?
「それに、職員募集してどんな仕事をさせるの?」
言われると難しい質問だ……
伊達に、まったく社会に出ていない高校生で止まっているだけあって、現代日本の社会システムとか大雑把にしか理解していない。
「えっと……町設備の管理維持とか?」
「こんな田舎町に、どれだけ定期メンテナンスしなくちゃならない設備があるの?」
「うう~……住民票を作らせて税金徴収させたり?」
「文字も読み書きできない人が多い町で、手書きの住民票作成?データ重複とか大丈夫?作るまで時間かかりそうだよ?それまで税収は無し?」
「じゃ……じゃあ学校を作って効率良く優秀な人材を……」
「そっちの方が時間かかるよルーナ……第一、今税収0だよ?そんな設備作るのに、どこから資金を出すの?」
私の案は、ルカによってことごとく否定されていく。
ボロクソに言われすぎて、正直泣きそうだよ……ルカさんひどすぎです。やっぱ魔王だわ。
とはいえ、国境付近の町を軒並み接収できたので、そこで生活している商人は、けっこう富豪が多い。税収のシステムさえ何とかして、収入の何割かを法人税として納めさせる事ができれば、けっこう安定した収入源になるハズなのだ……うん、システムさえ出来上がれば。
「それにルーナ。町役場を設置するにしても、そこの建設費用はどこから捻出するつもりなの?」
知らないよ!!そこまで考えてないよ!!いい加減にしないと本気で泣くぞ私!!
「わかりました!!何をするにもお金ですよね!でしたら、魔王軍らしく全世界の領主を脅してお金を徴収してやりますよ!『御家断絶されたくなかったら出すもん出せ!』って!」
「そんなヤケクソ気味にならないでよルーナ……第一、それこそどうやって全世界に通知するの?使者を出すにしろ、私達は、その使者すら雇えてないんだよ?」
言われてみればそうだ……冷静に考えればわかる。わかるんだけど、私がヤケクソ気味に叫びまくってるのとは正反対に冷静でいるルカが何かムカつく。
「私が行ってやりますよ!全部の国の国王に会って『自国内の領主にお触れを出せ!』って言ってやりますとも!」
転移スキル舐めんなよルカ!
「……それがまかり通っちゃったら、私達が占領した町から税金徴収しなくても大丈夫な基盤が出来上がっちゃうんじゃ……?」
ボソッとつぶやくルカ。
もうやめてルカ……私が熱くなる分、冷静になってツッコミ入れるのは……
私のライフはもうとっくに0よ……




