第6話 プチ同窓会
「だって私、友達少なかったし……私の事『ルカ』って名前呼びしてたの、あのクラスだと沙川さんしかいなかったから」
「しまった!?呼称に関しては盲点だった!?……でもルカ、けっこう色んな人と話してたりしなかった?私と同じ、友達いない系な人種だとは思えなかったけど?」
「そりゃあ世間話する程度の人はいたけど、友達ってほどでもなかったし……まぁ沙川さんほど、周りの女子達から嫌われてはいなかったとは思うけど……」
「え!?私ってそんなに嫌われてたの?けっこう波風立てずに静かにしてたつもりだったのに?」
「うん、たぶんソレがダメだったんだと思うよ。沙川さん一部の男子に『物静かでミステリアスな雰囲気が良い』って人気だったから、女子からはひがまれてたんだよ」
「本当に!?知らない間に私モテ期きてたの!?そういう事は死ぬ前に教えてよね……」
気が付くと、同窓会的なノリで会話が弾んでしまっていた。……日本語で。
いきなり異国語で会話を始めるクラスメイト二人を見て、周りの連中は完全にポカーン状態になっている。
それにしても『ミステリアスな雰囲気』か……ただ単に「誰も話しかけるなオーラ」出して、邪魔されずにずっとゲーム作りの事考えてただけなんだけどなぁ……よし!再度モテ期を引き寄せるためにも覚えておこう。
「それはそうと沙川さん。この状況の事何か知ってるの?この世界に生まれる前に電脳空間みたいな場所で、沙川さんっぽい声で何か色々と説明された気がするんだけど……」
ああ、キャラメイキングのチュートリアル画面の事かな?
やっぱアレ、機械的に話してはいるけど、私の声だってバレるよね。特に、そこそこ仲が良かったルカには。
「本当にこの世界ってゲームの中の世界なの?あと、何で沙川さんは、私が『西野琉花』だってわかったの?」
矢継ぎ早に質問してくるルカ。
さて、どこまで情報開示するべきか?
このゲームを作ったのが私、とか『管理者』職とか下手に教えると、どう考えても事の黒幕が私っぽく思われるよなぁ……
この世界は私が作った、とか自慢したい気持ちはあるけど、ソレだけ言ったら絶対に私イタい子だよね?
それに、知ってる事全部教えて、私のせいじゃないのに、私が悪いみたいに思われるのも癪に障るしなぁ……何より、それで関係をギクシャクさせるのもあんまり得策とは思えない。
結論!とぼけて白を切る!!
「私の声っぽいって言われてもねぇ……自分じゃどんな声してるのかよくわからないから何とも言えないかな?ただ似てたってだけじゃない?それとゲームの中の世界かどうかだけど、ステータスとか職業設定とかスキルや魔法があるから、まぁゲーム世界っぽい……とは思うかな?ただ、ここまで精密な町や、人の営みまで一人一人設定してたら、それだけで容量がとんでもない事になるから、この世界は『ゲーム内の設定がそのまま現実世界になった世界』って感じなんだと思う」
ルカが納得できるような言葉を吐きつつ、長々と回答をしておく。
さて問題は、どうやってルカの正体を見破ったか、だけど……
「あと、えっと……何でルカだってわかったか?ルカだって私の正体見抜いてたでしょ?それと同じだと思うよ。仕草が何となくルカっぽかったから、ちょっとカマかけてみたのよ」
ちょっと厳しい言い訳か?通じるだろうか?
「……いきなり脅されたよう気がしたんだけど?ソレについては?」
ぐはぁ!?
どうする!?どう言い訳する!?
「えっと……あ~……いや、ごめん。『神童』とか言われてるみたいだったから、ちょっと嫉妬してた……」
いやぁ~……その言い訳は正直厳しいだろ私。
「え?私って『神童』とか言われてるの!?」
無自覚だったんかい!?
ってか何ちょっと嬉しそうににやけてんだよオイ!?
「ただ、この世界での、今の両親のためにがんばらないと、って思ってやれるだけの事をしてただけなんだけどね……」
そう言いながらルカは、少し寂しそうな表情をする。
「沙川さんは、自分が死んだってわかった時どう思った?」
「ん?あ~……死ぬ直前の記憶を遡れば『あ~やっぱ死んだかぁ』とは思ったかな?」
いきなり質問されたので、率直に思った事を答える。
「沙川さんは強いね……私ね、最初は夢か何かだと思ってたんだけどね、いつまでたっても覚めないから『これが現実だ』ってわかって、悲しくなって毎日泣いてたの……もう、父さん母さんには二度と会えないんだって、二人に恩返しできないどころか悲しい想いをさせちゃったな、って……」
あ~……それが普通の反応だよね。
私は生前の両親よりも、ゲームの事しか考えてなかったわ。
このゲームには私の愛情やら情熱やら全てを注ぎ込んでたから、自分の子供みたいに愛しい想いがあるからなのか……
この世界を皆が……プレイヤーがずっと楽しんでいられるような正しい世界にしなきゃ!みたいな想いが強かった。
ある意味、子供の成長を陰ながら支える母親の気分にでもなっていたせいだろうか?両親を悲しませたかも、なんて感情は二の次だった。
あ、いや、私の名誉のために言っとくけど、ちゃんとそういった感情もあったよ。でもすぐに気にならなくなったってだけで……
「そんな毎日泣いてばかりで、手がかかる私に、今の両親はすごく優しくしてくれたの……生まれたばかりの私に愛情をたくさんくれたの……だから、前の両親にしてあげられなかった事を今の両親にしてあげたいな、ってがんばってただけなの」
ええ子やなぁルカ。しばらく見ないうちにえらいええ子になったなぁルカ……私とは大違いだ。
まぁでも、そんな感じでがんばった結果、幼児らしからぬ知能を存分に発揮して、周りから『神童』とか呼ばれるようになったわけか。
「ねぇねぇ?二人って仲良しだったの?」
突然脇から声をかけられ、振り向くとそこには、寮で同室のメアリーが立っていた。
「何か変な言葉話してたけど、どこの国の言葉なの?」
今頃気付いたけれど、周りのクラスメイトから熱い視線を向けられていた。
話しかけにくいけど何を話しているのか知りたい、といった感じの視線で、どうやら、私と同室という理由でメアリーが代表して声をかけにきたようだった。
児童というのは好奇心旺盛だね。もう少し大きくなれば「触らぬ神に祟りなし」状態で、得体の知れない連中は見て見ぬふりするようになるだろうに。
「気になってしまいました?この言語は『古代オルメヴァスタ語』といい、大昔この世界で使われていた言語なの。私もクロエさんもお互い、この言語を趣味で多少かじっていたため、意気投合してお話をしていたのよ」
「ふぇぇ~……昔の言葉を喋れるなんて二人ともすごいんだね……」
息を吐くように平然と嘘をつき、それを信じてしまう6歳児のメアリー。
その、いとも簡単に行われたゲスい行為を目の当たりにして、ルカは若干引いていた。