第63話 神様
ここはどこ?私は誰?
いや、冗談ではなく本気で言いたくなる状況である。
突然何もない真っ白な空間に来てしまったのかと思ったら、私の目の前にはどこから見ても私……『沙川マヤ』にしか見えない少女がいるのだから。
そして、そんな沙川マヤちゃんが、自称・神を自称しだすのだから、もう大混乱だ。
「んん~?もしかしてコノ見た目に混乱してます?そのあたりはスルーしてもらえるとありがたいかなぁ~。ほら、ワタクシってこの世界の概念みたいな存在になっちゃってるんで、今現在自分の肉体って物がないんですよ~……この体はアナタと話すために急遽用意した仮初の肉体なんで、そんな感じで理解してもらえるとうれしいですね」
前世の私の姿で、声は自称神という何ともミスマッチな喋り方なせいで、言っている事も半分くらいしか頭に入ってこない。
「いやぁ~それにしても凄いですねルーナさん!アナタ最短ですよ!最短!!」
……この自称・神の言ってる意味がわからない。
「何を言っているんです?……何が最短なんです?」
恐る恐る口を開いてみる。
会ったら、私のゲームをクソゲー扱いしたコイツをぶん殴ってやろうかとずっと思ってはいたのだが、いざ実際に目の当たりにしてみると恐ろしくて行動に移せなかった。
……だって、さっきコイツを鑑定・改で見てみたら。
鑑定不能 神 LV0 総合戦闘力0
この結果はあまりにも不気味すぎだろう……
「ああ、スミマセンちょっとワタクシ興奮してました。とりあえず順を追ってお話しましょう」
そう前置きを入れつつ、自称・神は説明を始める。
「アナタ方を転生させる時、ワタクシが管理しなくてはならない世界が3つも増えた、とワタクシが嘆いていたのを覚えておりますか?」
そりゃあ覚えている。
そのタイミングで私のゲームをクソゲーって言いやがったんだからな……
「実はその世界達、神々の中では一つの世界として認められても、人が住むにはちょっと……という物ばかりだったんですよ。そこでワタクシが、そのゲーム世界の設定で、人が生活するために必要な土台だけを整備してちょっとした初期設定だけした段階で、アナタ方を転生させたのです」
なるほど……それがゲームから現実世界になった時の差異として出てたわけか……
「さて、ここで話は変わりますが、現存する世界にはそれぞれに必ず、その世界を管理する神が存在しています……そんな状況で、どうやったら新たな神が誕生すると思いますか?」
????また唐突すぎる話題転換だな!?
「答えは簡単です。神が持っている世界の管理権限を奪い取ってしまえばいいのです」
……ん?『管理権限』を何だって?何をすると、新しい神様が出来上がるって??
「実はワタクシも先代から、管理権限を奪い取る事でこの世界の神になったんですよ。色々と知識を収めている内に、この世界の仕組みについて気付いてしまいましてね。その仕組みの裏をついてちょこちょこっとやっていたら、世界の管理権限を奪ってしまったんです……まぁそのせいで肉体を失って概念だけの存在になってしまいましたけどね」
うん、ここまで聞いたでけで、もう嫌な予感がプンプンしてるよね。
よくあるラノベの主人公みたいに超鈍感系を装って今すぐ逃げ出したい気分だよ……
「まぁ神になる条件として『不死』である、というのが条件でもあるので、概念だけの存在になる事で、その条件を満たしてしまっていた、と知った時は少し驚愕しましたけどね……」
『管理権限を奪う』『不死である』何だろう……心当たりがありそうなコノ単語の羅列は?
私が、何を言われるか気付いた事がわかったのだろう、自称・神は口元をゆるめて、邪悪な笑みを浮かべる。
「おめでとうございますルーナ・ルイスさん。まさか、こんなに早く管理権限を奪われるとは思ってもいませんでした……新たにできた3つの世界の内では最短記録でしたよ」
コイツが最初に言っていた『最短』ってこういう事かよ!!?
「大丈夫ですよ。私でも神様できるんですからルーナさんなら楽勝ですよ……ルーナさんの性格とかよく知らないですけどね」
うわ!?適当!!?超適当だ!?
「ワタクシの先代の神は、色々と奇跡を起こして、人々を救うような干渉をしていましたが、ワタクシになってからは、そういう事一切行わずに基本放任主義でやっていましたが問題なかったので、ある程度最低限の仕事さえしていれば他の神々からクレームが入る事もないですから、多少手を抜いても大丈夫ですから」
そんな事を言いながら近づいてくる自称・神。
怖い怖い!逃げ出したいけど、この果てしなく続いてそうな真っ白な空間で、どこまで逃げれば逃げ切れるのかがわからなくて動けない。
「ワタクシの先代も、ワタクシと同じように、複数の世界を管理するハメになっていたようで、ワタクシに神の座を与えて去っていきました。なのでコレは代々続く慣例行事だと思って諦めてください」
そう言うと、自称・神は私の肩に手を置いてくる。
「神の座は、権限を奪った相手に、先代が権利を委譲して完了します。まぁ委譲された瞬間に神としての存在に変化するので、人としては一度死ぬんですけどね……そのあたりが神になるための条件である『不死』が必須になってる所以でもあるんですよ……ちょぉ~~っと痛いですけど我慢してくださいね」
何かニヤニヤしながら語ってきてるけど、今何て言った!?
一度死ぬ?
不死が必須!?
「ちょっと待ってください!私まだ不死のスキルは取得してな……」
「ワタクシは異世界オルメヴァスタの神としての座をルーナ・ルイスに委譲します!……って、え!?今何て言いました!?」
コイツ、私の制止を無視して、完全に「委譲する」って言いきりやがった!!?
「え?どういう事です!?だって、ワタクシから見えるアナタの身体データには『蘇生可』って文字が……もしかしてせめてもの仕返しにワタクシを騙そうとしてます!?」
何やら言ってきているが、私はそれどころではない。信じられない程の激痛が身体中を襲ってくる。
「あああああああああぁぁぁぁ~~~~!!!!?」
我慢できずに私の口から叫び声が漏れる。
「待ってください!せっかく管理世界が1つ減ったと思ったのに、今アナタに死なれてしまったら、またこの世界から神候補が出てくるのを待たなくてはならなくなるじゃないですか!?」
そんなん知るか!?だから私は今アンタの相手してる余裕がないくらいに身体中が痛いんだよ!?
「アナタの身体データにある『蘇生可』って何ですか!?不死に関する何かを得ていたのではないのですか!?」
不死に関する何か?それって『不老不死の書』を3分の2読み終えてる事と何か関係ある!?
……ひょっとして、半分以上読んだ事で『不老不死スキル』が発生する前段階ぐらいまで身体が出来上がっていたとか?
この自称・神は、そんな状態の私の身体データを見て、既に不死になっているって思っていたとか?
……ってオイ!?
それって凄いヤバイじゃん!!?
死ぬ?……私死ぬの!?
いつの間にか目の前に地面があった。
気が付かなかったが、どうやら私は既に地面に倒れこんでいるようだった。
「………………!?」
もう声も出ないし、何も聞こえない。
身体の感覚は何もない。
ダメだ……もう……意識が…………




