第5話 クラスメイト
メアリーとは部屋だけでなく、学校でのクラスも一緒だった。
まったく知らない連中に混じって、ほんの少しだけれど知っている顔があると安心できるので、非常にありがたいのだが、1学年40人弱の1クラスしかなかったため、クラス分け等で生じる弊害は杞憂であった。
まぁこの町自体、そこまで大都市ってわけでもないし、学校に行かない事を選択した同級生もそれなりにいるだろう事を考えれば、妥当な人数なのかもしれない。
見ている感じ、貴族8割平民2割、くらいの人数比率だろうか?
平民でも、そこそこ儲かっている商人の家の子だったり、子供を想って多少無理してでも入学させてる感じの子だったりと色々ではあるが、大抵は金持ちの貴族だった。
そして、基本貴族は実家通いで平民は寮暮らしとなっている。
普通は逆っぽく感じるが、国からの補助がある上に、寮内での生活レベルを極端まで質素にすることで『家で毎日3食与えるくらいなら寮に入れた方が安上がり』という価格にまで抑えられていた。
もちろん、そんな生活に貴族が耐えられるハズもなく、貴族は毎日馬車登校と、お迎えの馬車下校となっていた。
あきらかに見た目貴族の私だが、クラスでの自己紹介で、メアリーに言ったように「わけあって性は名乗れませんが」という一文を加える事で色々と事情を察してもらえたようで、寮暮らしをしていても、何も突っ込まれる事はなかった。
まぁまだ6歳児な集団なんで、意味のわかってなさそうな顔してた子も数人いたけどね……
そして……
「クロエ・バルトと申します。皆さん以後お見知りおきください」
私の標的となる小娘は、自ら名乗り出てくれた。
クラスでの自己紹介って、ただただ面倒臭いって印象しかなかったけど、こんなにも役に立つって初めて知ったよ。
そんなわけでさっそく『鑑定・改』発動。
クロエ・バルト(西野琉花) マジシャン LV1 人種
力……4 防御……4 魔力……70 魔法抵抗……25
ファイアボール
総合戦闘力……95
まぁそうじゃないかなぁとは思ってたけど、やっぱり元クラスメイトの転生者か……あ、『元』でなくて、今もクラスメイトか、今日からだけど。
『神童』とか言われているから、もうどんだけレベル上げしてんだよ、とか思ったけど、これはアレか?知能チートをドヤ顔でアピールしてただけか?
にしてもマジシャンか。
異世界転生するなら、せっかくだから魔法とか使ってみたい、ってノリで選んだだろ、絶対。バカだなぁ……
魔法攻撃は強力だけど、序盤の魔物相手では完全なオーバーキルでしかない。そんなオーバーキル攻撃を、長いウェイトタイム使ってぶっ放すとか効率が悪い事この上ない。
だからといって物理攻撃に切り替えても、ほとんどダメージ通らないし、防御も紙だし、魔法抵抗はそこそこだけど、序盤に魔法使うような魔物は出てこない。
終盤はかなり役に立つけど、序盤はいらない子扱いになりがちな職なのだ。
序盤はファイターでウェイトタイムが無い通常攻撃で殴りまくるのが一番効率がいいレベル上げができる。
そんなわけで、序盤からソロプレイしたい人はファイターか、異世界で魔法使いたいっていう願望があるなら、自前で回復魔法持ってるプリーストをお勧めしておこう。
マジシャンでソロしたいなら、マジシャン系統の上位職であるハイウィザードが覚えるパッシブスキルの『高速詠唱』を取るか、同じくマジシャン系統の上位職のソーサラーが覚える、時間停止スキルの『クイックサスペンド』を利用するかしないと大変なんじゃないかな?
ああ、もしくはファイターを極めた後マジシャンに転職すればいけるかな?
職によって『ステータス限界値』があるけど序盤の敵なら殴り倒せるだろう。
ちなみに、ステータス限界値ってのは、職業に合わない事をさせないためのリミッターみたいなものである。
例えば、下級職の上限レベルは30なのだが、ファイターLV30の力はだいたい500くらいまで上がるが、魔力は50程度で止まる。
その後でマジシャンに転職した場合、ステータスがそのままだと、力500で魔力50の脳筋マジシャンが出来上がってしまう。
そこで、マジシャンの力の限界値を50に設定しているので、力が50。そしてマジシャンの最低ステータス値である魔力が70のマジシャンが誕生する。
もちろん限界値なので、マジシャンでどんなにレベルを上げても、力が50以上上がる事はないのだが、内部データにはきちんとレベルアップによるステータス上昇は蓄積されているため、マジシャンを極めた後に、ファイターからの中級職であるソードファイターかアックスファイターに転職して、力の限界値が解放されれば、ファイター時の500に加えて、マジシャン時に上昇していた内部数字の……まぁ50くらい?が足されて、力が550になっている仕組みである。
そんなわけで、マジシャンの素でのレベル1の力は1桁なので、それがいきなり50もあれば、マジシャンでも序盤の敵なら殴り倒せるのだ。
……あくまでも序盤の敵なら、だけど。
おっと、話がそれたな……
それにしてもルカかぁ……
お互いの家に行ったり来たりするほどじゃなかったけれど、学校内ではそれなりに仲良くしてたんだよなぁ。転生直前に乗ってたバスでも隣の席だったし。
そんなルカを潰すのはちょっと気が引けるなぁ……
とりあえずは「あんまでかいツラすんなよ?」程度の脅しをこめた警告でもしておこうかな?
なぁに!『鑑定・改』を持っていないルカからしてみたら、私が誰の転生後かわからないだろうから、沙川マヤとしての名誉は守れるだろう。
そしてこの、謎の能力を持った美少女の正体が誰なのかを永遠と考えてストレスをためるがいい。
そう一大決心をして、休み時間そっと席を立ち、ルカ改めクロエの方へと歩いて行く。
クロエは、今席から立ち上がろうとしている状態で、特に誰かと一緒にいるわけではない。まさに今がチャンス!
「転生前の知識を使ってだいぶいい気になってるようだけど、これ以上悪目立ちしていると命の保証はできないわよ……ルカ」
すれ違いざまに、日本語でつぶやく。
クロエは大きく目を見開き、時間が止まったかのように、驚きで動かなくなる。
私はその隙に、クロエの脇を通り過ぎ、何事もなかったかのように教室を出ていくような素振りを……
「もしかして沙川さん!!?」
クロエはすぐさま振り返り、私に向かって日本語で叫んでくる。
え?何故バレたし!!?




