第4話 寮暮らし
私が生まれたのは、クルーク王国のルイス伯爵領。
そして私の名前は、ルーナ・ルイス。
まぁつまるところ、ウチは領主の家系だったようだ。
ゲーム上では「クルーク王国」という城と城下町MAPは作ってはいたが、その国の領内にあるべき細かい町や村などは作成してはいなかったのだが、ゲーム世界から現実世界へと変わる事で、人の営みがあれば、本来なら成るべくして成った町が存在しているらしい。
……設定すら考えてなかったんだけどね。
そりゃ普通にゲームMAPが再現されるだけだったら『国』と名乗っておきながら、人口30人くらいしかいない城下町しかない、とかだしね。現実的にありえないよね。
そして私が通う事になる学校も、このルイス領にある。
国の法律で、6歳から10歳までは学校に通う事を推奨されている。
読み書きやちょっとした計算だけではなく、国の情勢や他国の事、魔物の生態や生息分布、魔法や剣の実習等、この世界を生きるのに必要な教育が行われている。
その学校を卒業した後は、さらに上位の学校に通うのも、家の手伝いをしようが、就職しようが自由である。
ちなみに、学校へ通う事は法律で決められてはいるが、これは義務ではなく、あくまでも『推奨』されているだけである。
授業料等、国からの補助はあるものの、貧しい家や浮浪児には支払いが困難であるためである。
教育機関を設置してはいるのに、その辺に関しての扱いが結構淡泊だよね?
そして、なんやかんやで私も無事6歳となり、この学校に通う事となった。
学校にいる間は寮暮らしになるため、それらに必要な生活様式を用意し、母・サーシャと使用人2人を引き連れ、馬車へと乗り込み、生まれて初めて外界を目にする。
やはりというか、時代設定、というか世界観はゲームのままだったが、こんな町のMAPは作った覚えはなかった。
「……ねぇルーナちゃん。本当にこんな所で生活するの?」
寮の、私が寝泊まりする部屋を見て、サーシャが心配そうな声を出す。
その部屋は、相部屋であり、狭い空間にベットと机が2つずつ置いてあるだけの部屋だった。
「今からでもいいからお義父様に言って、屋敷から通うようにしない?こんな場所にいたらルーナちゃん病気になっちゃうわよ?」
生粋のお嬢様だなこの母……
「心配いりませんよお母様。勘当されている設定を考えれば、寝る場所と食事が確保できているだけでも十分ありがたいですから」
この寮には大きな食堂があり、そこで朝と夜の2回食事が提供される。昼は各自で用意する事になってはいるが、事前に申請さえ出しておけば、お弁当を用意してもらえるシステムがあるらしかった。
「でも、食事も平民と同じ物なんでしょう?お腹壊したりしないか心配だわ」
あ~……心配してくれるのは嬉しいんだけど、ちょっと鬱陶しいな。
「大丈夫ですよ。それに、もう決めた事ですから……さぁお母様、同室の方がいらっしゃる前に荷物を整理してしまいましょう」
いつまでも私の荷物を持って突っ立ている使用人が可哀想だし。
私はテキパキと荷物を整理すると、いつまでもごねているサーシャを追い返す。
そして、使用人に引きずられて帰っていった母親を見送ってから約1時間。部屋で読書をしていると、ドアがノックされ、自分の背丈くらいあるんじゃないかと思えるリュックサックを背負った小さい少女が現れた。
「あ、同室の方ですか?初めまして。私メアリー・オンドリィっていいます。よろしくお願いします!」
ちょっと気が弱そうな感じの少女が、精一杯大きな声で挨拶しているような感じで非常に微笑ましい。
「はじめまして。私は……訳あって性は名乗れませんが、ルーナと申します。アナタ……えっと、メアリーとお呼びしてよろしいでしょうか?メアリーは一人でいらっしゃったのですか?親御さんは?」
家族の目が無いとはいえ、一応は貴族らしい言葉遣いで対応する。
どこで誰に見られているかわからない。うっかりチクられて本当に勘当されて支援金打ち切られるとたまったものではない。日本のことわざでいうと、壁に耳あり障子にメアリー……ごめん、ちょっと言いたくなっただけなんだ……
「えっと、私のおうち皆お仕事忙しいから、私一人で来たの」
「そう……エライのですね」
適当に返事をしつつ、鑑定のスキルを使ってみる。
ナイト LV1 人種 総合戦闘力91
あ、間違えた。使うべきは『鑑定・改』の方だった。
でもまぁいいか、名前は既に聞いたし、ステータスは初期値だろうし、ナイトのレベル1ならスキルも、防御力をちょっと上げる『ガードアップ』しかないだろうから、わざわざ改の方使う必要もないか。
「……ナイトですか。ソロに向かない職ですね」
隠す事なく、思った事を口に出す。
「え!?『鑑定』!?修行を積んで高位職にならないと使えないハズじゃ……」
驚いてる驚いてる。
でも、高位職って……ただの中級職なんだけどなぁ……まぁ上位職の人間が一人もいないんだから、上位職の存在を認知しようがないか。
「秘密です。いずれ知る事になるかもしれませんが、今は内緒にしておきます」
変に誤魔化す事はしない。
ある程度優秀である事はバラしていく方針である。
害の無い存在である事をアピールしつつ、有能さを広めてもらえて名前が売れれば、色々なところにコネがつくりやすくなる。そして、そのコネを利用した情報の吸い上げ。今後単独で動くにあたって必要になってくる事だ。
能ある鷹は爪を隠す?それは、出る杭を打つための言葉だ。
そして、出すぎている杭である私を打てるのは、現状この世界には存在していない。
あ、いや……最上級職の能力っていっても、まだレベル1だから、ラスボス的存在の最古の魔獣なら、私をどうにかできるかもしれない……今なら、ね。
「もしかして、バルト子爵様の御令嬢?神童って噂がある、あの……」
え?誰それ?
『神童って噂』?私だってねぇ、もっと早くあの屋敷から解き放たれてれば、神童とか言われててもおかしくない……いや、どっちかといったら『悪魔の子』とか言われてた可能性の方が高いかも。
まぁともかく、私が狙っていたポジションをかすめ取っていったソイツをまずは潰すか。
どちらが『神童』と呼ばれるのに相応しいか、世間にわからせてやろう。
考えながら、自然と笑みが漏れた。
……そして、私の可愛らしい微笑みを見たメアリーは、何故か怯えた表情をしていた。




