第49話 ルカの暴走
不老不死スキルを手に入れようと、不老不死の書とにらめっこしていたところ、不老不死スキルのせいで復活しはじめた最古の魔獣を見て、急いで第4層から逃げ出す。
何か『不老不死』って言葉がゲシュタルト崩壊しそうだ……
まぁ『不老不死の書』が手元にあれば、とりあえずの目的は達成できているので、問題はないだろう。
私は、用済みとなった古の幻林から逃げるようにして脱出していく。
とはいえ、来る時に1泊してる時点で、帰りにももう1泊必要なため、1層と2層の間で古の幻林での2泊目をする事になった。
まぁちょっと徹夜すれば1層も抜けられそうだったのだけれど、別に無理をする必要もなかったので、この辺りで妥協しての宿泊だった。
ちなみに、現状では、経験値もドロップアイテムもいらなかったので、敵からはガン逃げしてきている。
まぁ就寝中に2回ほど襲われたので、襲って来た敵は撃破したけど……
そんなわけで、就寝中以外は何の問題もなく、無事古の幻林入り口まで戻る事ができた。
いやぁ~それにしても……
「本当に私の事ずっと待ってたんですね……ルカ」
入り口付近に立っているルカの姿を見て、思わず言葉がもれる。
もうどれだけ私に依存してるんだろうルカ……もういい歳なんだから、そろそろ親離れ……いや、ルーナ離れしてほしいものである。
そんな事を考えつつ、ルカがいる方向へと歩いて行く。
そして、ふと違和感に気が付く。
……ルカが私に気が付いていない?入り口付近で、古の幻林の中の様子が見えるような位置を陣取っているのに?
ルカの視線は、私がいる方向とはまったく別の方向を見ていた。
「何かあったのですかね?」
ひとり言をつぶやきながら、古の幻林出入口から出て、ルカの視線の先を辿ってみる。
そこには、他国のハンターと思われる5人組が立っていた。
「知り合いですか?」
ルカに質問してみる。
「あ、おかえりルーナ。思ったよりも早かったね。不老不死スキルは無事に手に入ったの?」
ハンター5人組をガン無視するように、何事もなく話しかけてくるルカ。
「只今戻りました。スキルは……ちょっと問題はありましたが、とりあえずはスキルの書は無事手に入れましたよ……それで?あそこにいる方達は誰です?」
帰還の挨拶と、ざっとした報告をしつつ、再度質問をぶつけてみる。
「さぁ?ルーナが来るほんの1・2分前くらいにやって来たんだけど、何か私を見て固まっちゃった感じなの……あの人達が誰かなんて、むしろ私が聞きたいくらいだよ」
なるほど……
たぶん他国のハンターだろうから、懸賞金目当てで私を狙ってやってきた?……いや、違うか。私がここにいるなんて情報流れてないだろうから知らずに来た感じかな?
って事は、古の幻林の調査依頼でも受けてきたのかな?
もう残ってる未知領域ってココだけだしね。大方、依頼達成の報酬を誰かに取られる前にパーティ組んででも報酬いただきたいって連中かな?
でもなぁ……人数集めたからって、この世界に古の幻林を攻略できるようなレベルのヤツいるのか?
「……鑑定・改」
試しに、固まってる連中のステータスを確認してみる。
案の定上級職は一人もいない。
よくもまぁこんなステータスでココ来たなぁ……自殺願望でもあるのかな?
まぁでも入り口で固まってた理由はわかったかな。
大方ルカを鑑定して、桁違いな総合戦闘力を見せつけられてビビッてた感じなんだろう。
「……って、んん!?」
固まってる連中を全員鑑定して、一人気になるヤツを見つけた。
アレクセイ・アウロフ(安西良樹) プリースト LV29 エルフ
力……92 防御……108 魔力……325 魔法抵抗……953
ヒール キュアポイズン キュアパラライズ シールド ライトボム パワーゲイン
総合戦闘力……947
「あの一番若い感じのプリースト……安西君みたいですね」
鑑定・改が使えないルカに、そっと耳打ちして教える。
安西君は、わりとマジメで大人しい感じのイメージはあったけど、このレベルを見てると、何気にこの世界を満喫してる感じだねぇ……
「安西……良樹、君?」
ん?何かルカの声のトーンが変わったような……?
「また……また転生組?今度は何を……?私から何を奪っていこうとしてるの……?」
何やらブツブツと言い始めるルカ。
これって、もしかして……いや、もしかしなくてもヤバイ感じ?
「アナタも……アナタも私の全てを壊しに来たの?」
安西君に向かってルカが叫ぶ。
ああ……そういやルカ、転生組に対して変なトラウマ持ってて、まだ全然克服できてないんだった。
そんなルカの鬼気迫る叫びを聞いて、さっきまで固まっていた集団が一斉に戦闘態勢に入る。
「ファイアボール!!」
たぶん何かあった時用に、すでに魔法をセットしておいたのだろう。
ウィザードのハンターが先制攻撃で魔法を放つ。
それと同時に、安西君以外が一斉に動く。
「……スペルバニッシャー」
無慈悲にもルカは、ウィザードが放った魔法をかき消す。
いや、そのまま受けてもダメージほとんだなかっただろうに……ガチになりすぎだよルカ……
「なっ!!?……今何をしたんだ!?」
案の定スゴイ焦っているウィザードのハンター。
可哀想に……
「やっぱり……やっぱりそうなんだね……良樹君……」
ルカの殺気が凄まじい勢いで大きくなっていく。
マズイ!?このままじゃ何の罪も犯していない安西君死んじゃうよ!?
ってか、ルカって前世じゃ安西君と、そこそこ仲良くしてなかったっけ?
これはさすがに安西君が可哀想だろ……
「落ち着いてルカ!」
とりあえずルカを止めようと、咄嗟になりふり構わずに日本語で叫ぶ。
「エクストリーム・サンダーストーム!!」
私の制止の声も虚しく、雷系全体攻撃魔法をルカが放つ。
「うげっ!!?」
何故か私にまで降って来る雷の嵐。
どんだけ我を忘れて暴走してんのルカ!?
今のルカが放つその魔法は、さすがの私でもノーダメージってわけにはいかない。
最古の魔獣の攻撃程じゃないけど、けっこう痛い。
…………
……
「ご……ごめんなさい……」
とりあえずルカの頬を引っ叩いて正気に戻した後で、地面に正座させて説教した。
さすがのルカも自分の非を認め、泣きながら素直に謝ってきた。
「まったく……転生者ってだけで無差別の攻撃するのは止めてください!安西君何も悪い事してないではないですか?さすがに可哀想だと思いませんか?」
「ご……ごめんなさい……」
ルカはひたすらに同じ言葉を繰り返す。
ただ、少しずつ声が小さくなっていっている。
いちおう反省はしてるのだろうか……
「はぁ……ではせめて、安西君の死体だけでも丁寧に葬ってあげて……ん?」
安西君を指差して喋っていて、ふと気が付く。
「あれ?今にも死にそうですけど、安西君まだ生きてます?」
よく見ると、安西君は微妙にだが呼吸をしているようだった。
私のその言葉を聞いたルカは、うつむいていた顔を上げ、安西君が倒れている場所へと走っていく。
「ごめんね……ごめんね良樹君…………ハイヒール!」
ルカは泣きながら謝罪の言葉を口にして、安西君へと回復魔法をかける。
とりあえずは応急処置的な感じではあるが、これで安西君がこのまま衰弱死する事はないだろう……たぶん。
「ではルカ、そろそろ行きますよ。安西君が目を覚ますと、説明とか色々と面倒臭いので、起きる前に逃げますよ……直接謝りたかったら、それは後日私がいない所でお願いしますね」
私はそう言うと、座り込んでいるルカの手を引いて、古の幻林をあとにするのだった。
……後日。
おそらくは安西君が報告したのだろう。
『魔王ルカ』という単語が世間に出回った。
安西君……いったいどういう報告してそうなったんだ?
「……良樹君の馬鹿…………」
変なところで有名人になってしまった当人は、部屋のベッドに潜り込んで、ひたすらに愚痴をこぼすのだった。
いや、後先考えずに暴走した結果でしょコレ?自業自得だよルカ。




