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第3話 家族会議

 私の懸念も何とやら、何事もないまま5年という歳月がたった。


 あ、いや、家から一歩も外に出してもらえなかった、という点を考えると『何事もない』ってのには語弊があるかもしれない。

 というより、屋敷の1階にすら行かせてもらえなかった。

 もうね、少しでも私を外界に触れさせない気満々な対応だった。


 ただ、その5年の間に異世界語含め、色々とわかった事がいくつかあった。


 まずは私が生まれた家は、名門の貴族な家柄であること。

 そして私は待望の第一子だったらしい。

 それが男でなかった上に、化物みたいな戦闘能力を秘めてたりで家中大騒ぎ。知らない間に、恨みを持たれている他家から呪いでも受けてるんじゃないかと邪推までしているようだった。

 まぁ私の後に生まれた私の妹達も……まぁ『妹』といっているので当然女であるため、跡継ぎのための男児が生まれない、という呪いを実際に受けているのかもしれないが……


 次に、この世界には上級職の人間が一人もいないという事。もちろん魔族やエルフも同様だ。

 私が生まれた時に見た、中級職であるハイプリーストのオッサンですら、この辺りではかなり有名なレベルの強さだという。

 そりゃゲームプレイヤーはちょっとしたデスペナルティはあるものの、死んでも平気だけど、実際にこの世界に生きる人達は「死んでもいいや」なレベル上げはできないだろう。プレイヤーと違って、死んだらそこで終わりなのだから。

 そんなわけで、必然的に無茶なレベリングができないこの世界では、中級職の人間までしか存在していないのだ。

 そして、そんな世界で中級職になってしまえば、皆から一目置かれ就職には困らない上に、どこに行ってもチヤホヤされる。

 うん、それ以上に無理に頑張って上級職を目指すメリットが皆無だわ。


 最後に、この世界にはちゃんと公共機関が存在している事。

 ……そんなのゲームMAP上には作ってなかったんだけどね。

 いや、まぁ『人口5000人程度の町』という設定でも、NPCを30人程度しか配置してなかったりもしてたんで、設定通りの世界が再現されているのならわからなくもないのだけれど、何分一切外に出してもらえないため、ゲーム世界から現実世界になる事で、私が作った街並みとどれだけの差異があるのかをまったく確認できないのだ。

 まぁそれを言ったら、私の今世での家族もNPCとして作った記憶は無いので、既に私が知っているゲーム世界と差異はあるのだけれど……


 そして、今我が家で問題となっているのが、その公共機関である。


 来年に控えた、私の学校入学をどうすべきか、という議題で家族会議が行われていた。


 家長である祖父は『こんな化物みたいな子を世に解き放って何かあったら家名に傷がつく』と言い、次期当主である父が『能力だけ見れば超絶優秀児だから、きっともの凄い手柄を上げ我が家の家名を世に知らしめられる』と言って、絶賛対立中であった。


 まぁ私の当面の目的である『世界を平和にしない!』を考えると、祖父の意見の方が正しいのかもしれないが、その意見を支持すると、私は一生この家から出られなくなるので、わざわざ自分の首をしめるようなマネはしない。

 それに、そんな事をしたら、本当に「世界を平和にしよう!」と動き出した一緒に転生した元クラスメイトが上級職にでもなってパーティプレイでもしだしてしまったら、妨害する事も止める事もできないまま、本当に世界が平和になってしまう。

 それだけは絶対に阻止しなくてはならないので、いつでも動き出せる体勢は確保しなくてはならない。


「あの……でしたら、私を形だけでも勘当した事にしてはどうでしょうか?」


 平行線な言い争いをしている、祖父と父に意見を述べる。


「家名は決して名乗りません。なので、私が何かしでかした時は『アイツは勘当したからウチの家とは何も関係はない!』と言っていただければ問題ありません」


 本来ならば、その場にいるだけで、発言権はないのだが、話を進ませるため……ひいては私の自由行動のために、発言した事へのお叱りを受ける暇を与えないよう、早口で矢継ぎ早に口を開く。


「逆に、何か手柄をたてられた場合は勘当を解いて、一族の手柄とするのはどうでしょうか?」


 5歳児の口から、そんな発言が飛び出すとは思っていなかったのか、一同ポカーンとした表情になっている。


「もちろん本当に勘当されてしまっては、私一人で学費を出す事ができなくなってしまいますので、学費と下宿先への支払いはお願い致したいのですがよろしいでしょうか?」


「も……もちろんだよルーナ。もとより勘当なんてするつもりはないから安心してくれ」


 いち早く正気に戻った父が、私のお願いを受理してくれる。

 でも、今じゃなくても、後々には本当に勘当してほしいんだけどなぁ……その方が色々と動きやすい。


「おじい様はどうでしょうか?」


 家長である祖父にも問いかける。

 若干瞳を潤ませつつ、上目遣いで迫ってみる。


「ぐ……ぬぬ……仕方ない……だが、保険として勘当しているフリはするぞ。学校生活では家名を名乗る事を禁じるからな!」


 落ちたな……私の色気に惑わされるとは。ちょろいな爺さん。

 あ、いや、本当に5歳児の色気に惑わされてたらかなりヤバイ人だろうけど、私のじいちゃんは大丈夫だろう、たぶん。


 そんなわけで、とりあえずはやっと家から出られる事になり、私のヒキニート生活は来年には終わりを告げるわけで……

 ちょっと出遅れた感はあるものの、やっとこの世界が見られる。

 私が設定したゲームマップ上の世界とどの程度の差異があるのか、それによってどう行動すべきか、その辺の計画がやっと立てられる。

 5年……いや、学校入学は来年だから実際は6年か……6年かけてやっと入り口に立つとか、他の転生者に比べてだいぶ遅れた気がするけれど大丈夫だろうか?


「化物じみた戦闘能力にして、5歳児でここまでの知恵までつけているのか……我が孫ながら末恐ろしい子供だ……」


 そして、誰にも聞き取れないような音量でつぶやくおじいちゃん。

 当人である私に聞こえちゃってるんだけど大丈夫?もしかしてボケが始まってる?

 あと、5歳児の知恵じゃなくて、実際は22歳児の知恵なんで、別にそこまではおかしくはないと思うよ。まぁ転生の事知らなきゃわからないんだけどね。


 にしても、おじいちゃん私の事だいぶ不審がってるなぁ……まぁその予感は正しいんだけどね。


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