第43話 足止め
町の武器屋で買ったグレートソードを抜き身の状態で右手に持つ。
今までメイン武器だったレイピアは腰に差して持ち歩いていたのだが、大剣であるグレートソードは腰に差すにはバランスが悪い。
そんなわけで、本来は背中に差して持ち歩くのだが、現在私の背中には巨大なリュックサックが居座っているため、武器を収めるスペースが空いていないのである。
リュックの中身は、主に食料が入っている。
ゲームから現実世界になった事で、広大さが増している古の幻林。
レベル上げを兼ねた探索で、1層の広さは把握していた。
道は概ねゲームで設定した通りで、そのまま広大になった感じだった。
なので、おそらくは道に迷う事なく、最短ルートで最深部である4層の最古の魔獣のところへ行くことはできるだろうが、広くなったマップを考慮してみた結果、往復で2・3日かかる目算になったため、その分の食料が入っているのだ。
他にも、回復薬等も入ってはいるが、これ等はもしもの時用であるため、量は少ない。
巨大リュックを持ち歩く一番の目的は、ドロップアイテムを回収するためである。
1層に出現するデーモンやゴーストはあまりアイテムを落とさないが、2層3層はちょっと期待できる。
2層は「最古の魔獣に挑戦して敗れた冒険者のゾンビ」という設定で、上級職と同等の力を持つリビングデッドが職の種類分さまよっている。
私の一番の目的である、ドロップ武器が手に入る確率が一番高いのはココである。
3層に出現するのはドラゴン種で、厄介な敵だが、落とすドロップ品は使い勝手の良い、特殊効果付き装飾品が多い。
それと、鱗さえ何とかすれば、食料が切れた時食えるのはコイツ等だろうと目星をつけている。
そして4層に鎮座する大ボス・最古の魔獣。コイツも、昔姉ちゃんが装備していた『雷光の指輪』をはじめ、他にも結構有用なアイテムを数種類落としてくれる。
そんなわけで、巨大リュックサック様は必需品であり、グレートソードさんの居場所は私の手しかなくなっているのである。
準備を万端にした私は、今、満を持して古の幻林へと、その一歩を踏み出……
「待ってルーナ!忘れ物とかない?本当に大丈夫?」
踏み出す事なくルカに邪魔される。
「ルカ……何度も言ってますが、いい加減あきらめてください……」
最古の魔獣ソロ討伐報酬の条件は意外とシビアである。
実は、古の幻林に足を踏み入れた時点で、ソロかどうかの判定をされるのだ。
なので、パーティプレイで古の幻林を攻略していき、ボス直前で解散してソロ討伐、といった方法では、ソロ討伐報酬の『不老不死』スキルは手に入らないのである。
もちろん、古の幻林入る時はソロでも、道中でパーティ組んだりした場合も同様に入手不可となっている。
と、まぁそんな感じの事をルカに話して、町で待っているように言ったところ「やだ!あんな事があったすぐにルーナと離れたくない!」と駄々をこねられた。
それでも色々と説得はしたものの、なんやかんやで結局、古の幻林入り口手前までついてきてしまっており、ついには一人古の幻林に入ろうとする私の足止めまでおこなってきたのだった。
「だって……ルーナの事が心配なんだもん……大丈夫?本当に無事に帰ってこれる?」
「大丈夫です。私のステータスなら道中の敵は問題ないですし、最古の魔獣を相手にしても普通に勝てますから……それに、マズイと思ったら、無理はせずにすぐに逃げ帰ってきますから安心してください」
これ以上足止めされたくないので、ルカに言い聞かせるように説得する。
「あ、じゃ……じゃあルーナ飲料水はちゃんと持った?食料はたくさん持ってたみたいだけど、飲み物は水筒一つしか持ってなかったよね?水分は大事だよ!今から町まで取りに戻る?」
意地でも私と離れ離れになるのを引き延ばそうとしてるなルカ……
「魔法の存在を忘れてませんかルカ?ウォーターボールの魔法を使えば、いくらでも飲料水の確保ができるんですよ」
魔法が存在する世界の利点である。
前世のような文化レベルはなくても、そういった点においては、今の世界の方が便利である。
「しょ……食あたりした時用に胃薬とかは?」
「……毒耐性持ちなんで心配無用です」
「えっと……もよおした時用に携帯用トイレとかは?」
「この世界にそんな物ありません。もよおした時は、その辺の茂みで用を足すので大丈夫です……って言わせないでください!恥ずかしい……」
「それじゃあ……えっと……あ~~…………」
どうやらもうネタ切れらしい。
「質問はもうお終いですね?では私はそろそろ行きますよ」
私がそう言うと、ルカは涙目になりだす。
「ううぅ~……ルーナぁ~……置いてかないでよぉ~……」
ええい!鬱陶しい!こんな事で泣くな実質年齢33歳!!
「ルカ……べつに今生の別れってわけではないのですから、少し冷静になってください」
ルカの頭を撫でながら、諭すように言う。
「これさえ終わってしまえば、次はルカがこのスキルを取るまでは、ずっと一緒にいられるのですから……ね?」
私の言葉に納得したのか、それとも諦めたのかはわからないが、ルカは無言で首を縦にふり、一歩後ろへと下がって、私を見送るような雰囲気を出す。
「良い子ですルカ……いいですか?私を見送ったら、ちゃんと町に戻ってくださいね」
私は一言そう言い残し、古の幻林の入り口へと足を踏み入れる。
「待ってる……私、ルーナが戻ってくるのをここでずっと待ってるから!」
後ろからルカの声が響く。
言葉を返すと、また色々と面倒臭い事になりそうな気がしたので、ただ黙ったまま、左手を上に上げてちょっとした反応だけは返しておく。
今までのこの世界での人生で、精神的にダメージ蓄積しまくってるせいもあるかもしれないけれど、ちょっと離れるだけなのに、この対応は今後色々と大丈夫かルカ?
それにしても……
最後のルカのあのセリフ……
すっごい死亡フラグっぽく聞こえたんだけど……
無駄に不安になってきたな……
大丈夫だよね私?無事に帰ってこれるよね?




