第40話 知られざるローカルルール
私が、いつものギルドへと帰還したのは、野盗を退治した翌日の夕方だった。
野盗討伐に成功した私のために、村を上げてのお祭り騒ぎが行われた。もう飲んで食べての大宴会だ。
私は気持ちよく、上機嫌に飲んでいたが、よくよく考えると『もてはやして誠心誠意お礼をしなければ、下手したら殺される』という村人の恐怖心からのおもてなしだったのかもしれない。
思い返してみれば、料理を運んできたおばさんの笑顔が凄くぎこちなかったような気がする……
まぁ村人が内心どう思っていたのかはわからないが、私はただ酒が飲めただけで大満足だった。
そんなこんなでギルドである。
私は野盗を討伐した旨を、ギルドのカウンターに座る受付嬢へと報告する。
「そんなわけでして、遭遇するまでに多少時間はかかってしまいましたが、無事野盗討伐してきましたよ」
「おお~!さっすがアンちゃん。やっぱり強いねぇ」
暇そうにしていた受付嬢だったが、私の報告を聞いてテンションがあがる。
「報酬は、ギルド連絡員が依頼主への確認取れてからになるから、数日待っててね……それで?捕らえた野盗達はどこに縛り付けてるの?」
「……え?」
『捕らえた』?
「『え?』って……え?」
私の反応が予想と違っていたからか、受付嬢も変な声をあげる。
「え?ちょっと待ってアンちゃん……もしかして野盗を追い払っただけ?」
「いえ……皆殺しにしただけですけど?」
何かまずかったのだろうか?
「『皆殺しにしただけ』って……そうだったわね……アンちゃんは普段、裏の依頼しかしてないから、ソレが普通なのね……」
受付嬢はため息まじりにつぶやく。
え?皆殺しダメだった!?これって報酬もらえないヤツ?もしかしてタダ働きになる!!?
「あのねアンちゃん……野盗とか相手にする時は、抵抗してきてやむを得ず死なせてしまった場合はしょうがないけど、普通は極力生きたまま捕まえてくるものなのよ」
そんなマイナールール知らないし!?ってかむしろ最初に教えてよソレ!?
「え……あの……これって罰則とかあるんですか?……報酬もらえないとか?」
「ん~……まぁ、依頼料はもらえる……けど」
何だろう?何かはっきりしない言い方だなぁ……
「えっとね……アンちゃん。捕らえた野盗を役所に引き渡せば、依頼の褒賞金とは別にお金もらえるのよ」
何っ!!?
「し……死体を!?今から野盗の死体持ってきます!!」
「アンちゃん……アンちゃんみたいな極悪犯罪者だと生死問わずだけど、通常の犯罪者は基本生きたままじゃないとダメなのよ……」
そ……そんな……何で先に教えてくれなかったの……?
「王宮の兵士10人でも捕らえられなかった野盗でしょ?アンちゃんと比べると金額は少ないだろうけど、通常の犯罪者に比べれば多い方だったんじゃないの?……もったいない事したわねぇ」
やめて!それ以上私を死体蹴りしないで!!本気で泣きたくなる……
私は力なくその場でうなだれる。
「ショック受けすぎよアンちゃん……そこの酒場でいつも飲んだくれてる馬鹿共と違って、べつにお金に困ってるわけでもないでしょ?」
「確かにそうかもしれませんが、もらえる物をもらい損ねた精神的ダメージは大きいです……」
受付嬢の問いかけに力なく答える。
「ま、まぁアンちゃんの臨時収入はなくなったかもしれないけど、相方のルカちゃんが依頼達成報酬で、大金貨3枚持っていったから、それで機嫌直しな、ね?」
ん?ルカのやつ、調査依頼終わって帰ってきてるの?
「ルカが戻ってきてるんですか?いつ頃?」
「ん~……今日の昼前くらいだったかな?アンちゃんの事探してたわよ」
そりゃあルカは12歳の時から、若干私依存症な気があるからなぁ……帰って来て私がいないってわかったら情緒不安定になりかねない。
「そうですか……情報ありがとうございます。先にアパートにでも戻ってるんでしょうか?ちょっと様子見に行ってみますね」
部屋で一人寂しくなって泣いてなきゃいいけど。
「どうかなぁ?まだ戻ってないかもよ」
何やらニヤニヤしながら受付嬢が意味深な言い方をしてくる。
どういう事?
「ナンパされて、若い男の子と二人でどこかに出かけて行ったみたいだから、今頃デートを楽しんでるんじゃないの?」
は?
……ナンパされた?デート?
ちょっと何言ってるのか単語の意味がわかりかねるのですが?
「えっと……ルカがナンパされて?楽しそうにデートしに行った……?」
「う……うん。だからさっきからそう言ってるじゃない……どうしたのアンちゃん?」
ふっざけんなよルカ!?
私なんてねぇ!私なんてねぇ!!前世含めて33年間一度もそんな経験した事ないっての!!
デートぉ!?デートって何!?食べられるのソレ!!?
何一人でちゃっかり抜け駆けしてんの!?
ってか私の事探してたんじゃないの!?もしかしてデート誘われて、秒で私の存在忘れた!?
「ふ……ふふふ……ふふふふふふ……」
よくわからない変な笑いが、勝手に私の口から漏れる。
「私、ルカが心配なのでちょっと探してきますね……」
私は受付嬢に背中を向け、フラフラとゆっくりギルドの出入口へと歩いて行く。
ルカ……アンタをそんな、ホイホイ男に付いて行くようなビッチに育てた覚えはないわよ?どうやらちょっとお説教が必要みたいね……
「アンちゃん……ひょっとして妬いてる?」
うっさい!!わざわざ確認するなよ!!
その通りだよ!悪いか!!?




