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第39話 ブレスレットの効果

 動揺の広がる野盗集団を眺めながら、私はレイピアを構える。


「ま、待ってくれ!先程の部下の行為は謝罪する!俺達はアンタに敵対する意思はない!そ、そもそもだ……何故村人は無視して俺達にだけ敵意を向けてくるんだ!?」


 野盗のボスの発言を聞きながらも、私は近くにいる野盗の額をレイピアで刺し貫き1人仕留める。


「知らなかったとはいえ、私を泊めてくれた村と、その村を襲って来たアナタ方……どちらの味方をすると思いますか?」


 レイピアに付いた血を払い飛ばしながら答える。


「アナタ方は何故この村を標的にしたのですか?……人口が程よかったから?強者がいなさそうだったから?でも、その程度の理由でしたら、他にも候補になる村はたくさんありましたよね?」


 威圧するように、野盗集団へと一歩を踏み出す。


「この村を選んだのはただの気まぐれではないのですか?……そして、私が村人の味方をするのもただの気まぐれです。他に何か理由があると思いますか?」


 そう言いつつも、勢いよく突貫し、一番近い野盗の心臓を刺し絶命させる。


 私の行動と、野盗のボスとの会話を、黙って見ていた野盗が2人ほど、突然「死にたくない!」と叫びながら逃げ出す。

 そりゃあそうだよね。

 目の前で仲間が、一人また一人と殺されており、黙ってその場に留まっていれば、次は自分の番なのだ。

 抵抗しても殺されるとわかっていれば、あとは逃げるしか選択肢がない。でも……


「逃げられると思っているのですか?」


 手に持っていたレイピアを逃げた野盗の一人に投擲しする。

 もう一人は……えっと……とりあえず足元に落ちていた、適度なサイズの石を拾って思いっきりぶん投げる。

 投げた得物は、両方とも逃げた野盗の頭部に直撃し、2人を絶命させる。


 ふぅ……足元に適度な石があったから良かったものの、2人同時逃げにはちょっと焦った。

 せっかくだったので「知らなかったのか?大魔王からは逃げられない」とか言いたかったんだけど、プチパニックになって言ってる余裕がなかった。

 仕方ない……このセリフは次回以降のお楽しみに取っておこう。


「馬鹿野郎共……逃げて無防備な背中を狙われるくらいなら、全員で戦った方が死なずに済む確率が上がったってのに……」


 遠くで倒れる部下2人を見て、野盗のボスが小さくつぶやく。

 でも、このステータス差じゃ、全員でかかってきても私に勝つのは難しいんじゃないかな?


 そして、数分前まで7人いた野盗集団も、今はボスと、そのボスのそばに付いていた副リーダーっぽい男の2人だけとなっていた。


「……どうするんだよ、頭?」


「こうなったらやるしかないだろ……大丈夫、このブレスレットを上手く使えればチャンスはある……」


 何やらブツブツと打ち合わせをする、残った野盗2人。

 意を決したように、2人して私をにらみつけ、同時に剣を抜いて向かってくる。


 2人して前衛職かい!?

 ボスの方は、事前情報で前衛職だって事はわかってたけどさ……この野盗集団って後衛職いたの?パーティ編成としては偏ってない?

 まぁ他人のパーティ事情はどうでもいいかな?


 私は襲い掛かってくる2人を迎撃するべく、レイピアを…………

 ってアレ!?レイピアどこいった!?

 あ、しまった!?さっきぶん投げたんだった。


 仕方ないので、レイピアの鞘を腰から抜き取り、ハイ・ウェポンブレイクをセットする。

 攻撃当たっても、たぶん肉体にはダメージは無いだろうけど、服へのダメージは防げないため、武器は折っておくに限る。


 私は、一歩早くやってきた副リーダーの剣を砕く。

 そして、そのまま副リーダーを攻撃しようと、持っている鞘を大きく振り上げる……


「今だ!……頼む『静止の腕輪』!!」


 突然のボスの声に合わせて、ボスの腕に装着されているブレスレットが光る。

 その瞬間、この世界の全てが止まる。


 戦いの様子を心配そうに眺めている村人達。

 武器を壊されて驚いた表情をしている副リーダー。


 皆、そのままの状態で止まっている。


 今、この止まった世界で動く事が出来るのは『静止の腕輪』を使用したボス……

 そして……


「残念でしたね……対策済です」


 私は止まったままの副リーダーの脳天を、振り上げていた鞘で殴りつける。


 おそらく、副リーダーを突き飛ばして、私の攻撃が届かない位置に逃がした後で、時間が止まってる間にひたすら私を斬りつけようとしていたのだろう。

 静止した空間で動く私を見て、予定が狂い咄嗟に体が対応できなかったのだろう。ボスはその場で、足を絡ませて盛大にズッコケる。


 『静止の腕輪』。

 『グレイルの森』の敵が稀に落とすレアドロップ品で、効果はソーサラーが覚える時間停止魔法の「クイックサスペンド」と同じで5秒間使用者以外の時間を止める効果がある。


 ソーサラー経由でのソードマスターやアックスマスターが使うと非常に強力なスキルとなる。

 攻撃力の高い前衛職が5秒間、無防備な敵をタコ殴りにできるのだ。


 こんな戦法を対人戦で使われたら、もう「クイックサスペンド」を如何にして先に使うか合戦になってしまい、つまらなくなってしまうので、もちろん対策スキルも用意してある。


 パラディンが覚える事ができる「アンチクイック」の魔法。

 この魔法を使用すれば、1度だけ「クイックサスペンド」で止まった空間内を動く事ができる。

 しかも、この「アンチクイック」はパーティ全体に効果がある。術者しか影響がない「クイックサスペンド」に対して、である。


 つまるところ……例えば5対5のパーティ戦をした場合、安易に「クイックサスペンド」を使用して相手が「アンチクイック」を使っていた場合、味方4人は止まった状態で、敵5人は動いてくる、という逆に「クイックサスペンド」使った当人がピンチになる仕様になっている。


 これによって、対人戦でクイックサスペンドゲーにならないように警戒し合えるようにしてあるのだ。


 と、まぁそんなわけで、野盗のボスがどうやって『静止の腕輪』を手に入れたのかは置いといて、私はこの「アンチクイック」を事前に使用していたのだ。


「な……あ……ああ……」


 静止した空間を動く私を見て、絶望の表情を浮かべる野盗のボス。


 まぁそれはそうか。

 私との戦力差を覆すための奥の手だったアイテムが通用しなかったのだから……


 「アンチクイック」も「クイックサスペンド」もウェイトタイムは同じくらい長いため、再度「アンチクイック」をセットするのは手間であるため、あまり使いたくはないが、相手からいつ「クイックサスペンド」がくるかわからないため、本来なら面倒臭くても使っておくべきではある……が、野盗のボスは「クイックサスペンド」を使えるわけではない。

 あくまでもアイテムを利用して「クイックサスペンド」と同じ効果を出しているだけあり、『静止の腕輪』は一度使用したら、20分のリキャストタイムを設定している。


 つまりは、一回の戦闘で一度しか使用できない仕様なのだ。

 ……まぁ、かなり戦闘が長引いて20分以上戦い続けていれば別ではあるけど、そんな事は滅多にないだろう。


 そんなわけで、私は再度「アンチクイック」を使う事なく、倒れこんで絶望の表情を浮かべる野盗のボスへとゆっくりと近づいて行く。


 時間停止の効果が切れ、全員の時間が普通に流れ出す。


 村人からどよめきが起こる。

 そりゃあ村人からしてみたら、突然野盗の副リーダーが絶命し、ボスは地面を這い、私はそんなボスの前で仁王立ちしている状態だ。


「因果応報ですね……他人(ひと)を不幸にすれば、それはいずれ自分に返ってきます……今までの自らの行いを恥じて逝ってください」


 私の説法をちゃんと聞いているのか、野盗のボスはただただ恐怖に歪んだ顔で私を見上げるだけだった……



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