第2話 ステータス
『さて、ここまでがゲーム内でのキャラ設定画面でした……アナタは転生者であるため、特別に生まれる種族と適性のある職業を選んでいただきましたが、コレは本来この世界に生まれるにあたっては有り得ない事だと理解してください』
突然、私と同じ声のシステム音が、私が録音した記憶にない単語を喋り出す。
『ゲームではキャラメイキングが終われば、そのままそのキャラを動かして冒険する事になっておりますが、既存のシステムではこの世界を平和にする事は不可能です。アナタにはこの世界の住人になる事でシステムに捕らわれる事なく世界を平和にしていただきます』
よくわからない……どういう事?私の声で、私がわからない事発言するのはやめてほしい。
『アナタにはこの後、この世界の赤ん坊として生を受けてもらいます』
ああ、そういう事か。
小難しい単語を並べるのではなく、最初からそう言ってくれればいいのに……
このゲームのラスボス的ポジションにいる、世界中の魔物を生み出し続ける『最古の魔獣』は『不死』の設定が組み込まれており、倒しても何度もリポップする仕組みになっている。
討伐経験値や討伐報酬を多少良く設定しているので、ある程度上位のプレイヤーが、レベリングや対人対策に狩りまくれるようにしてあるのだが、つまるところソレは、ゲームプレイヤーでは絶対に、倒しきって世界に平和をもたらす事が不可能という事になる。
なので、システム上の設定とは関係ないゲームプレイヤー外の人物が、不死設定を無効化する何かを見つけて攻略する必要がある。
この世界を平和にするというのは、つまりはそういう事なのだろう。
『ちなみに、生まれる場所や身分はランダムで決められるため、良い家柄に生まれる事をお祈りいたします』
……は?何ソレ?それって下手したら、生まれた瞬間に人生詰む可能性あるじゃん!?
『それでは、素晴らしい第二の人生をお楽しむください』
「ちょ……!?待って!!?」
私の抗議の声は無視されるようにして、再び視界がブラックアウトしていく。
お願いします!王族とまでは望みません!せめて貴族階級くらいで生まれさせてください!!
…………
……
再び目を開けると、そこには見慣れない中世欧州風な天井が目に入ってきた。
上手く体が動かせないながら、腕を上げてみると、ものすごく小さい手が視界に入ってくる。
よかったぁ~……既に生まれた後の赤ん坊の状態だぁ……胎児状態で母親のお腹の中からだったらどうしようかと思った。
続いて、首だけを回して、今いる部屋を確認してみる。
……でかい部屋だなぁ。
まぁ、コレはどっから見ても平民の家って事はないだろう。
とりあえず第一関門は突破した!
これは結構な上流貴族?もしかしたら王族って可能性もあるぞ。
「ラーアラア、ガーメノタテメサ?」
突然扉から入ってきた女性が、私を見て何やらよくわからない言語を口にする。
「『カンテイ』ルキールイテエモ『ハイプリースト』マーサヨノタキテレーツ」
やばい!どう考えてもコレ日本語じゃない。
異世界語なんて設定した覚えないぞ!?
まぁ普通に考えて、異世界で日本語しゃっべてるわけないから、わからなくもないけど、そういう不親切設定はしなくていいだろクソ神!?
とりあえず、設定しておいたスキルと職業はそのままの単語なのだろう。
『鑑定』と『ハイプリースト』って単語だけは理解できた。
『ハイプリースト』はプリーストのレベルを30まで上げるとクラスチェンジできる中級職の名称で、『鑑定』はどの下級職でもいいので、レベル30まで上げれば得られるスキルである。
まぁつまるところは、中級職なら誰でも持っているスキルである。
『鑑定』は通常ならば、他人の職業やステータスは覗き見る事はできないのだが、それでは対人戦をする際、敵の情報が無さすぎるのも問題であるため用意したスキルである。
相手の職業と現在のレベル。そして、各ステータスはわからないようにしてあるが、各ステータスの合計値や装備している物や持っているスキル等を総評して『総合戦闘力』という数値で見れるようにしてあるのだ。
つまりアレかな?生まれたばかりの私が、どれだけの才能を持っているかを鑑定して調べようって事なのかな?
案の定、女性の後ろに控えていた、ハイプリーストと思われるオッサンが、無言で私の顔を覗き込んでくる。
そして次の瞬間、大きく目を見開き、狂ったように何かを叫びだす。
何だろう?何かよくわからないが、何かとてつもなく嫌な予感がする。
私はゲームでスキルを使用するのと同じ要領で、頭の中でコマンドを念じてみる。
(鑑定・改、使用)
鑑定・改は『管理者』限定スキルで、そのキャラのステータスが全てわかるようになっている。
まぁテストプレイ専用職だから持っているスキルではあるのだけれど……どうだろうか?
ルーデ・フィリップス ハイプリースト LV23 人種
力……152 防御……188 魔力……335 魔法抵抗……963
ヒール ハイヒール キュアポイズン キュアパラライズ シールド マジックシールド ライトボム ヒーリングサークル パワーゲイン マジックパワーゲイン
総合戦闘力……1047
サーシャ・ルイス プリースト LV2 人種
力……9 防御……11 魔力……25 魔法抵抗……77
ヒール
総合戦闘力……80
狙い通りに私のスキルは発動し、二人の能力が網膜に映し出される。
女性の方はほぼ初期ステータスのまま、という事は戦闘とは縁遠い生活してた貴族的な人なのかな?
それに比べてオッサンの方は中級職だけあって、そこそこな数値とスキルを持っている。
そして、私は……?
ルーナ・ルイス(沙川マヤ) 管理者 LV1 人種
力……20000 防御……20000 魔力……20000 魔法抵抗……20000
~全スキル使用可能~ 詳細は別コマンド参照
総合戦闘力……158500
……うん、桁違いだね。
各職には『最低ステータス値』が設定されている。
職が変わるとレベルが1になる。とは言っても、それまで育てたステータス値は減る事はないのだが、例えばファイターを30レベルまでやった後、中級職に行かずにマジシャンになった場合などは、力は高くても魔力はほとんど無い状態になる。
そこで、マジシャンをやる上で必要最低限の魔力の数値は保証されるようにしてある。もちろん、マジシャン→ファイターなどの逆パターンのもある。
そして、最上級職と同等の『管理者』にも、その『最低ステータス値』が設定されている。そう……最上級職と同等の、である。
いやぁ……そりゃあビビるよね?不気味だよね?
生まれたばかりの赤ん坊が、意味不明な職業してる上に、自分の100倍以上の総合戦闘力持ってたら怖いよね?
大丈夫かなコレ?気持ち悪がられて捨てられたりしないかな?いや……最悪『悪魔の子』扱いされて処刑とかされる可能性もあるんじゃないの?
あ、それはそうと、この女性もしかして私のお母さんなのかな?名字同じだったし……
って現実逃避してる場合じゃないか?
どうする私ぃ~!!?




