第34話 指名依頼
月日が流れるのは早いもので、私は16歳になった。
『幻視のネックレス』の効果が、経験値3倍になってからといもの、ルカのレベル上げは順調に進み、この4年間で、下級職・中級職は全て極めて、現在上級職3つ目に取り掛かっている。
いや?順調……なのか?
4年間、経験値3倍にして、ほぼ毎日のように取得経験値1番多い場所で1日中レベル上げしてて、ここまでしか上がってないって……
経験値3倍というズルを使って4年、って事は通常だったら、単純計算でも12年。
私がいたからルカは、古の幻林で経験値稼ぎができたけど、普通なら推奨レベルに合った場所でしかレベル上げができないだろうから、さらに時間がかかるだろう……
もうね、この世界の仕様が最上級職にさせない気満々だよね?
ちなみに、その最上級職と同等な私は、この4年間で10レベルほど上がり、現在はレベル19となっていた。
ルカと会うまで、どれだけ私がレベル上げをサボっていたのかが露呈してしまったようで、何とも言えない状態になってしまっていた。
ああ、それと『管理者レベル10』で覚えるようにしてくれ、って姉ちゃんに頼んでおいたスキルだけれど、結局覚える事ができなかった。
中身の無いスキルだから習得できなかったのか、姉ちゃんが何かミスったか……はたまた姉ちゃんが何もやらずに放置したか……
とにかく全て姉ちゃんが悪い!
……どうしたんだろう?姉ちゃん。
まぁいいか。
覚えられなかったスキルとか姉ちゃんの存在とか気にしててもしょうがない。
そうそう、スキルといえば……最古の魔獣をソロ討伐すると得られる『不老不死』のスキルはまだ取得していない。
15歳の時に、ソロ討伐できるだろうレベルには到達したものの、不老不死スキルなため、体の成長がそこで止まるのは正直どうかと思って先延ばししている。
目安としては、転生前の17歳まで待とうかとも思っているものの、今現在「もう16歳でも17歳でもほぼ一緒じゃね?」という思考になってきている。
そんな事を考えながら、今日も今日とて目の前の酒を飲む。
只今ルカは、ソロ活動として『ヴィジー大砂漠』の調査依頼に出掛けているため、おそらく10日くらいは帰ってこないため、私は一人の時間を満喫中である。
13歳の時ルカはハンター登録をしている。
いつも通り、数か月に1回ペースで裏依頼を受けてお金を稼いでいた私を見て、突然「私もちゃんとお金を稼ぐ!」と言い出したのだ。
私だったら、働かなくていいなら甘んじてヒモという称号をうけるというのに、根がマジメなルカはそうではなかったようだ。
そんなルカに私は、裏依頼は絶対に受けてはダメ、という条件でハンター登録をさせた。
何というか、ルカには汚い仕事はやらせてはいけないような気がしていた。
ルカは精神的にはあまり強くない。
ちょっとした事がキッカケで、目の前で親しい人達が殺された場面がフラッシュバックして、正常な判断ができなくなった事が稀にあったため、両親が殺されるキッカケになった裏依頼を受けさせたらどうなるかわからない。
ルカの今の戦闘力を見れば、ここのギルマスなら間違いなくルカに裏依頼を持ちかけてくるだろうから、それには絶対に乗るな、と事前にルカにはくぎを刺しておいた。
そんなわけでルカの日課は、レベル上げをメインにしつつ、難易度と報酬が良い依頼があった時はソレを受けてお金を稼ぐ、という感じになっていた。
そして今回は、条件に合った依頼がなかなか出てこなく、ルカの手持ち金額が心もとなくなってきた事もあり、今までずっと残っていた、褒賞金大金貨3枚の『ヴィジー大砂漠』の調査に向かっている次第である。
ちなみに、ルカの幼い頃の思い出にも残っているであろう『グレイルの森』の調査は去年済ませてある。
今のルカの戦闘力なら、ソロでもヴィジー大砂漠攻略は余裕で可能なので、これで未知領域の調査依頼は『古の幻林』だけになるだろう……
「アンちゃ~ん!ちょっとコッチ来てもらってもいい?」
ちびちびと酒を楽しんでいる私に、突然ギルドの受付嬢からお声がかかる。
「どうなされたんですか?私に抱かれたくなったのでしたら、今晩ベットでお待ちいただければお伺いしますよ」
「アンちゃん……ココの馬鹿共から影響受けすぎよ……」
うん……何となく自覚してる。
「まぁともかく、アンちゃんにお願いしたい依頼があるのよ」
私にお願いしたい依頼?って事は裏依頼かな?いや、でも裏依頼だったらギルマスから直接くるはずだよね?
「この町から北に30㎞くらい行った所にある村からの依頼で、最近村を襲って金品や食料を奪っていく野盗集団を討伐してほしい、って依頼なんだけどね……ちなみに褒賞金は金貨5枚」
私の返事を待たずに、依頼内容を話し出す受付嬢。
にしても、野盗集団討伐で金貨5枚って安っっいなぁ……
「そういった案件は、ギルドではなく、まず国に依頼するものなのでは?」
「国から10人ほど兵士が派遣されたそうよ。もちろん全員高位職で、ロードナイトとクルセイダーで編成された部隊だったらしいんだけど、全滅だったそうよ」
それはまた……野盗の人数が多かったのか、強い奴がいたのか。
「国としては、その村にだけ構っていられるわけでもなく、部隊を再編して、再進軍するには結構な時間がかかるらしくって、そんなのを悠長に待ってたら、村が無くなるっていうんで、今何とかなる金額でギルドに依頼を出してきたって感じね」
褒賞金の少なさはそういう理由か……
「ギルドには『王宮務めの腰抜け兵士10人くらい倒せる!』って息巻いてる猛者は何人かいてね。この前レベル32のアックスファイターが討伐に向かったんだけど、返り討ちにあったみたいで、今日村の近くの林の中で死体になって発見されたわ」
この世界でレベル32の中級職倒せるとか、すごい野盗集団だなぁ……野盗にしとくのがもったいないんじゃない?
「もうウチのギルドだと、何とかできそうなのがアンちゃんくらいしかいないのよ!ギルドとしての面子もあるし……お願い!アンちゃん!!」
たぶんルカでも何とかできそうな気はするけど、今不在だしなぁ……
まぁいいか……どうせルカが帰ってくるまで酒場で飲んでるだけの予定しかなかったし。
「そこまで言うのでしたら仕方ありませんね……受けましょう」
「さすがアンちゃん!そうこなくっちゃ!」
嬉しそうに笑顔をつくる受付嬢。
「ですけど褒賞金が少なすぎです。ギルド側で少し色を付けていただかなければ、私が動く労力に見合っていません」
別に金に困っているわけではないのだが、安い女と思われるのも癪なので、とりあえず賃金アップの交渉はしてみる。
「じゃあ、成功報酬で私の事抱いてもいいわよ」
「……いえ、けっこうです。御自愛なさってください……」
この受付の姉ちゃんも、けっこうギルドの馬鹿共に影響されてるだろ……




