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番外編 ~出席番号3番 飯島愛花~

 私の両親はどうしようもない人達だった。

 いや、正確には、どうしようもない人達だった『らしい』と言うべきかもしれない。

 私に両親の記憶は無く、物心ついた時には、祖父母と生活していた。


 そして、そんな祖父母も、先日交通事故に巻き込まれ帰らぬ人となった。

 私は17にして、天涯孤独の身となっていた。


 ありがたい事に、祖父母が残してくれたお金で、最終学歴が高校卒業まではいけそうだったが、その後の無機質な生活のために、無意味に社会で働き続ける事に対する疑問はあった。

 ただ、自ら命を絶つ勇気もなければ、ここまで育ててくれた祖父母に対しての申し訳なさもあり、ただ、流れるままに生きていた。


 そんな中での、まさかの異世界転生だ。


 正直、前世に未練はなかった。

 むしろ、今までの私の人生がリセットされたようで、とても清々しい気分だった。


 しかし、そんな気分も束の間……

 私は、この世界の両親からも捨てられた。


 望まれて生まれたわけではなかったようだ。

 貧乏夫婦が、育てる余裕などないというのに、快楽だけを求めて猿みたいにヤリまくった結果が私らしい。


 最初は、何とか育てようと努力はしていたようだったが、3歳の時「やっぱり無理」と決断されたらしく、遠くの町に出掛けた際、置き去りにされた。


 私は前前世あたりで、何か悪い事でもしまくったのだろうか?

 そうじゃないなら、何故私だけが、こんな仕打ちを受け続けなければならないのだろうか?


 不幸中の幸いともいうか、捨てられたのが3歳になってからだったため、私は生き残る事ができた。


 この世界は本当にゲームのような世界で、自分のステータスを見る事ができた。

 生まれたばかりの赤ん坊の頃は、ステータスがオール1でどうしようもなかったが、3歳にもなれば、ある程度ステータスが成長しており、冒険者ギルドの簡単な依頼程度なら、何とか出来るくらいにはなっていた。

 報酬は少なかったが、冒険者ギルドの存在のおかげで、何とか生き残る事ができていた。


 いくらこの世界がファンタジー色あふれて、ステータスとかレベルとかが存在する世界とはいえ、私のように3歳でギルドに所属するのは異例だったらしく、多くの人から驚かれた。

 そりゃあ私、普通の3歳児じゃないからね……

 いちおうは、前世での知識をフル活用しての3歳児なんで、普通の3歳児と同じだったらさすがに生き残れた自信がない。


 他の人と比べて、実戦経験が早かった事もあり、私は10歳の時には高位職になる事ができた。

 そして、16歳になる頃には、この年齢にしては前代未聞の、高位職のレベル40となっていた。


 本来、このレベルに到達するのは、もう引退間近のハンターくらいで、現役で活躍するハンターでこのレベルというのは、ほぼ存在していないらしい。


 ……もうね、この世界の人どれだけレベル上げをサボってるんだ、ってツッコミ入れたくなるような現状を聞いて軽く呆れた。


 原因はわかっている。

 レベル上げて強くなっても仕方ないからだ。


 求人として求められている強さは、高位職であれば問題無い程度。

 高位職にさえなれれば、安定した収入が得られるため、それ以上のレベル上げをする人は極端に少ない。


 ギルドでの依頼も、基本は下級職でも何とかなる程度のものしかない。

 未知領域に存在している強力な魔物は、自分の縄張りからは一切外に出ようとしない。


 そんな平和すぎる世界で、わざわざ苦労してレベル上げをする人など存在しなかった。


 危機感が足りなすぎる。

 私の人生のように、突然何が起こるかわからないのに、何故そんなに悠長に生活できているのだろうか?

 突然、強力な魔物が攻めてくるかも、とかは考えないのだろうか?


 私はそんな事を、愚痴まじりに、ギルド酒場で一緒に酒を飲んでいたアン・ノウンという同年代の少女に話をした。

 もちろん彼女のその名前は偽名だ。

 本名はルーナ・ルイスという賞金首であり、『管理者』という意味不明な職業をしており、レベル20でありながら、総合戦闘力は40万近いという化物だった。


 私がこの国のギルドに移籍してきたのが15歳の時なのだが、最初に彼女を見た時は驚いた。

 周りの人達も、彼女がルーナ・ルイスだという事を知りつつも、何故討伐しないのかと疑問にも思ったが、数日様子を見て理由がわかった気がした。


 彼女は世間で噂されている程極悪人ではなく、基本手を出されない限り襲ってくる事はなく、懸賞金もギルドの裏依頼を受け続けた結果だったようで、つまるところ彼女の悪名はギルドのせいとも言えた。

 だからこそ、ギルド側が偽名を推奨し、彼女をかばっているのではないかと私は想像している。


「アナタもそう思いますよね?やはり、この世界の人達に危機感を持たせるには、もっと魔物に積極的に動いてもらう必要がありそうですね」


 そんな彼女が、私の愚痴に対して、そんな返答を返してくる。


 私は初めて出会えた、私と同じ意見を持つ同志に気分がよくなり、酒を飲むペースが早くなって、すでに結構べろんべろんに酔っぱらっていた。


「アンちゃんも同意見なの?やっぱりそう思うわよね?それなのに周りの連中ときたら、レベル上げを必死にやってる私を見て馬鹿を見るような視線を向けてくるのよ……ホント失礼だと思わない?」


「レイナさん……ロードナイトのレベル40ですか。ずいぶんと頑張っていらっしゃるのですね」


 レイナというのは、私のこの世界での名前である。レイナ・ベレージナそれが今の私の本名である。


「あ、鑑定も使えるんだ。アンちゃんの職業って謎な職だから、どうなのかよくわからなかったんだよね」


 完全に酔っぱらっている私の発言に、アンちゃんは少し「フフフ……」と笑う。


「私の鑑定は、皆さんの鑑定よりも、一味も二味も違う優れものなのですよ……内緒ですけどね」


 そう言いながら、アンちゃんはそっと席を立つ。


「さて、私はそろそろ帰らなければ同居人に心配されてしまうので帰りますけど、レイナさんはどういたしますか?だいぶお酒が回っているようですが?」


「あ~大丈夫大丈夫……今日は気分が良いから、もう少し一人で飲んでくわ」


 私を心配してくれるアンちゃんに返事をする。


「そうですか……では私は一足先に帰りますが、レイナさんもほどほどで切り上げてくださいね」


 アンちゃん優しいなぁ……誰よ?『銀髪の堕天使』とか言い出したの?どっから見てもただの天使じゃない?

 私は黙って手を上げて、アンちゃんに返事を返す。


「ああ、そうだ。私も今日は気分が良いので、レイナさんのお願いは叶えて差し上げますよ……」


 去り際に、私の耳元でアンちゃんがそっとささやく。


「楽しみに待っていてくださいね……飯島 愛花(いいじま あいか)さん」


 一瞬にして酔いが覚める。

 振り返ったそこには、アンちゃんは既にいなかった。


 何で……前世の私の名前を?


 もしかしたら彼女は、未知領域に存在する、魔物を統べる圧倒的な存在なのではないだろうか?

 それが、人の形をとり私達人間とコミュニケーションを取りに来ているのではないだろうか?


 何故なら……

 この数日後に、魔物達は自分達の縄張り以外でも行動するようになったのだ。

 未知領域から強大な力を持った魔物が出て来たり、オルメヴァスタ大草原に存在する魔物が町の中まで入ってくるようにもなった。


 ……

 ちなみに、後日この事をアンちゃんに問いただしたところ「前世の名前?魔物の王?何の事です?」と言われた。

 ……酒、飲みすぎて酔ってただけだったのかな?


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