第32話 転職
「あ、今レベル30になったよ」
デーモン4集団の後は、特に怖いエンカウントを引く事なく、1体ずつ地道に魔物を倒していき、ついにルカのレベルが下級職の上限である30に達した。
「合計12匹で下級職終了ですか……さすが最終ダンジョンの魔物ですね……効率がいいです」
もっとも、下級職だけではこんな場所これないし、2・3個上級職を極めた程度じゃ、下級職の補助ができないし、かばいきるにはステータスが若干心もとない。
つまるところ、最上級職にでもならない限りは、このMAPで下級職のレベル上げの補助はできないだろう。
うん!私が設定した、この辺りの敵の強さと経験値のバランスは、やっぱそこまで悪くはないな!
「ねぇルーナ……『ウィザードかセージにランクアップ可』って文字が目の前に浮かんできてるんだけど……どっち選べばいいの?」
「ん?その2つだけですか?転職可能な全職表示を指示できませんか?」
1つの職を極めた時に表示されるのは、転職できる職が増えましたよ~っていう、お知らせ的な意味での表示をするように設定しといたんだけど……
「あ!本当だ。頭の中で『全部の職表示』って指示したら、ファイターとかナイトとかの基本職も出て来た……」
もしかして、この世界の住民皆、下級職からそのまま中級職に進んでる理由って、別の下級職になれるって事に気付いてないのか?
お知らせで表示された中級職をそのまま選んでたのか?
失敗したなぁ……転職に関してのデバックはやってなかったわ。
ああ……今すぐプログラム直したい……
致命的なバグってわけではないけど、これはちょっと不親切設定だった……
これはちょっと姉ちゃんじゃ直すの無理かなぁ?
「ねぇルーナ……結局、私はどの職を選べばいいのかな?」
おっと、ルカの事すっかり忘れてた。
「そうですね……下級職は上限値を結構低めに設定しているので、後回しにすると色々と面倒臭くなってしまいますので、先に全部極めてしまいましょう……下級職なら1職あたり、この辺の敵を12匹倒せば終わる事がわかったので、とりあえずファイターあたりから順にやってしまいましょう」
「わかった……じゃあファイターで!」
ルカは何もない空間を指差しながらつぶやく。
たぶんルカには、あのあたりに文字が浮き上がって見えてるんだろう……
「ルーナ!?ルーナ!?」
突然アホみたいに私の名前を連呼しだすルカ。
「どうしました?尿意をもよおしたのでしたら、見ててあげますからその辺でどうぞ」
「見ないで!?って違う!そうじゃなくて……ステータスが下がっちゃったよ!?」
何だ……そんな事か……
「えっと……とりあえず『鑑定・改』」
クロエ・バルト(西野琉花) ファイター LV1 人種
力……70 防御……52 魔力……50 魔法抵抗……100
ファイアボール、ウォーターボール、サンダーボール、ウインドボール、パワーダウン、ガードダウン、フルスイング
総合戦闘力……305
うん、力は最低値補正で底上げされてるけど、魔力と魔法抵抗値がファイターの上限値にかかって下がってるように見えるね。
「大丈夫ですよ。先程も言いましたが、下級職は上限値を低めに設定してるんです。下がったように見えますが、ちゃんと内部データは蓄積されてますから安心してください」
というか、魔法が使えなくなるわけでもないので、初期ファイターよりも全然高い総合戦闘力を叩き出せているので、あまり文句は言わないでほしい。
「そ……そうなの?」
微妙に疑ってるような声を出すルカ。
ちょっとは信用しろよ!?
『ねぇマヤ?アンタ今どこにいんの?』
突然頭の中に姉ちゃんの声が響く。
『ギルドに来たらアンタいないし、周りの連中は黙り込んで私の事凝視してるし……すごく居心地悪いんだけど』
あ、そうか。チャット機能の存在を忘れてた。
ルカが無反応なのを見ると、私だけにしか聞こえてないのか……って事はダイレクトチャットかな?
ってか姉ちゃん、本当にまたログインしてきやがったのか?鬱陶しいな……
まぁとりあえず姉ちゃんにダイレクトチャット返さないとな。
私は頭の中でメニュー画面を開くように指示をし、目の前に浮かんだメニュー欄からチャットメニューを……
「あれ……?」
「え?どうしたの急に?」
私の突然の声にルカが反応する。
「チャットメニューがありません……」
「え?何?何が?」
いやルカ……いちいち私のひとり言に反応しなくていいって……
ともかく何だ?ゲーム世界ならともかく、現実世界になった事でチャット機能は消されてるって事なのか?
……まぁそうか。範囲チャットは、面と向かって話してれば成立してるし、ダイレクトチャット・ギルドチャット・パーティチャットが現実世界で行われていたら、ただのテレパシーだ。
人類全てがニュータイプなんて、某ロボットアニメでも不可能だった事が、いとも容易く異世界で実現できちゃったら、何か色々と間違った方向に行きそうだ。
なるほど……いくら魔法が横行している世界観とはいえ、それはあくまでも戦闘においての魔法であり、経験を積んでレベルが上がらないと覚えられなかったりもある。
それなのに、職業・年齢関係なく、赤ん坊や主婦、魔法とは関係ない脳筋ファイターまで全員がテレパシーなんて使えるとか、あまりにも現実離れしすぎてる。
おそらくそういった、あまり非現実すぎる要素ははぶかれているのだろう。
「お姉様がまた来たみたいです……とりあえず町に帰りましょうルカ」
まぁけっこうな時間ここにいるし、帰宅時間まで考えれば、今日のレベル上げはそろそろ潮時かもしれないしね。
「え?あ、うん……まぁ町に戻る頃にはもう夜になってるだろうし……でも、何でお姉さんが来たのわかるの?」
「えっと……『元』とはいえ家族の絆みたいなものですかね?」
適当な事を言ってルカを誤魔化しておく。
……ルカの表情を見ると誤魔化しきれてなさそうにも見えるけど。
まぁともかく、私達が戻るまでの間、居心地の悪いギルドで一人で待ってられるだろうか姉ちゃん……




