第1話 キャラメイキング
ふと気が付くと、私は何もない真っ暗な空間に一人でたたずんでいた。
私は死んだのだろうか?だったら何で、私は今、私という個を維持した状態でこの場にいるのだろうか?
もしかしたら、私の体はまだ死んでおらず、本体は病院の集中治療室とかで生死の境をさまよっている状態で、ここは夢の中のような場所なのだろうか?
生憎と、今までに死んだ経験が一度も無いため、まったく現状を理解する事ができない。
夢の中といえば、先程、神様を名乗る不審人物が、何やらよくわからない事を喋り続けるような夢を見た気がするけれど、アレは一体何だったのだろうか?
何か『記憶維持したまま異世界転生させてやるから無双しろ』とか『ゴミゲーの世界を平和にしろ』とか言ってた気がするけれど、何だったのだろう?
夢の中で夢を見るとか、私も随分と器用なマネができるようになったものだ……
第一、この状態が異世界転生した状態とは、とても思えなかった。
体の感じは生前のままだし、服装も学校の制服のままだ。
そもそもで、この真っ暗な空間が『平和ではない異世界』とも思えない。
そんな事を考えて色々と混乱した状態でいた私の視界が唐突に変化した。
デジタル空間に漂うような、そんな映像が視覚情報として流れ込んできた。
そして、その瞬間に私の思考は完全に停止した……
『オルメヴァスタの世界へようこそ』
どこから聞こえてくるのかわからない声が、その空間にこだまする。
『この世界を冒険するにあたり、アナタには種族と職業を選んでいただきます』
淡々と喋るシステムボイスのような私の声が響く。
そう、このキャラメイキング画面は死ぬほど見た記憶があるし、『オルメヴァスタ』というゲームタイトルも知っているし、何より、キャラメイキングからチュートリアルまでの説明を私が直接録音した覚えがある。
そう……この世界は、私が作ったゲームの世界なのだ。
待って!?ちょっと待って!?ホントどういう事なのコレ!?
いや、それよりも……あの自称・神はこのゲームの事何て言っていた?えっと……『ゴミみたいな作品』だっけ?
………
……
…
っざけんなよクソ神!!!?
ケンカ売ってんの!?ねぇ?よりにもよって、私が丹精込めて作り上げた作品を捕まえて「ゴミゲー」?
つうか『早くこの世界を平和にしろ』ってのは『とっととサービス終了させろ』ってのと同義なんじゃないの!?いや、ホントふざけんなよクソ神!
……ん?ちょっと待てよ?って事は世界を平和にしなければ私のゲームは、永遠に皆を楽しませる事ができる世界なんじゃない?
なんだ……だったら、この世界で私がやるべき事はたった一つじゃないか。
私が平和を脅かす存在になればいいんだ!!
『種族についての説明を致します。
魔族……力と守備に若干の上方補正がかかり、魔力と魔法抵抗値に若干の下方補正がかかります
エルフ……魔力と魔法抵抗値に若干の上方補正がかかり、力と守備に若干の下方補正がかかります
人種……全てのステータスに何の補正もかかりません
ちなみに、一度選択すると二度と選びなおす事ができません』
淡々とキャラメイキングの説明が続けられている。
いいよ、知ってるし……
『続いて、職業についての説明を致します。
ファイター……力の伸びが良く、打撃系のスキルを習得しやすくなっております
ナイト……守備が伸びやすく、防御系のスキルを習得しやすくなっております
プリースト……魔法抵抗値が伸びやすく、バフ系スキルを習得しやすくなっております
マジシャン……魔力が伸びやすく、攻撃魔法・デバフ系スキルを習得しやすくなっております
コチラはゲーム内で変更する事は可能となっております』
やっぱり私が作ったゲームで間違いなさそうだ……私が設定した通りの内容になっている。
種族に関しては、対人戦において戦略が変わってくる程度で、それ以外にはゲームを進ませる上では、そこまで影響はない。
職業に関しては、説明でもあったように、いつでも変更は可能であり、この下級職4種は一定までレベルを上げれば中級職にクラスアップ可能で、さらには上級職も用意してある。ついでにいうと、かなりやりこんだ人用に最上級職がある。
この最上級職までの効率よいフローチャートがわかっている私に死角はない。
「えっと、とりあえず種族は『人種』で、職業はファ……」
ある事を思い出し、私は途中で言葉を切る。
普通ならば、いきなり最上級職は選べない。
もちろんそれはゲームでは当たり前の事である。
最上級職は、長くこのゲームを遊んでくれた人へのご褒美のような意味で用意した職だ。
その能力は、上級職でのパーティプレイが必須な『この世界での最強の魔物』をソロ討伐が可能なほどである。
全ステータスが万遍無く高数値で伸び、全スキルが使用可能であり、専用スキルまで手に入る。そんなチートのような職業。
まぁ、取得条件が『全職業の制覇』なため、全スキル使用可能は当たり前なのだが、とにかく、この職業に行き着くまでには、もの凄い労力を要するのだ。
だからこその『ご褒美職』でもある。
「……職業は『超越者』で」
試しに最上級職をリクエストしてみる。
……まぁ当然ながら反応はなかった。
しかし、目に見えていないだけで、最上級職と同等の能力を持った職が内部データには存在している。
能力は最上級職と同等であるが、最初から設定できるため、分類的には下級職の括りになっている。そんな職業。
それは、最上級職用の魔物を設定する際に使用した、テストプレイするために、私専用で用意した職業……
「それじゃあ……職業は……『管理者』で……どう?」
『では、種族「人種」。職業「管理者」でよろしいですか?』
……通った?
「よ……よろしいです」
自分で選んどいて何だけど、若干動揺しながら確認の返事をする。
『種族・職業が決定されました』
マジで!?「異世界転生」とか言ってんのに、こんな内部データ使っちゃっていいの!?
いや、コレって……
もしかして、転生後の人生、勝ち確なんじゃない?
とりあえず物語の導入部分を連続投稿してみましたが、ココから先は通常通りな投稿スピードになると思います(2・3日に1話くらい?)。
今後ともよろしくお願いいたします。