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第25話 メアリー12歳

 はい、そんなわけで、毎度おなじみ『探索』スキルを発動してメアリーの行方を捜索してみる。

 すると、反応はすぐ隣の部屋にあった。


 なるほど、遠くへ逃げ出したと思わせておいて、実は隣の部屋で息をひそめて隠れている、というわけか……いちおうは考えているようだ。

 でも、そんな小細工は私には通用しない。


「はい、ど~~ん!!」


 私は隣の部屋とを隔てている壁を全力で蹴りとばす。

 そこそこの厚みはある壁ではあるが、力30000弱の私の攻撃には耐え切れずに崩れ落ちる。


「メアリーちゃん見~つけたぁ……」


「ひぃっ……!?」


 崩れた壁の穴から隣の部屋を覗き込みメアリーに声をかけてみたところ、恐怖に引きつった声を上げられ、そのまま走って逃げだされた。


「はっはっは~!どこへ行こうというのかね?」


 『探索』を発動したまま、ノリノリで追いかける私。

 いやぁまさか、このセリフをリアルで使える日がくるとは夢にも思ってなかったわ。


 メアリーは、素直に外へと逃げればいいものを、私の思考の裏をつきたいのか、上の階へと逃げていく。

 徒歩で追いかけてくる私の姿がまだ見えないから、そういう行動に出たんだろうけど、残念ながら『探索』があるかぎり、その行為は無意味だ。


「あら?追いかけっこはもうお終いで、今度はかくれんぼですか?」


 私はメアリーが逃げ込んだ部屋へと入っていき、真っ暗な部屋の中全体に届くような音量で声をかける。

 私は『暗視』スキルのおかげで、いくら暗くても丸見えなのだが、それを知らないメアリーは一縷の望みに賭けているのか、一切物音を立てる事はなかった。


「無視ですか……少し悲しいですね。では私は、アナタが出てくるまで、そこの扉の閉まった衣装棚を使って、黒ひげ危機一髪ごっこでもして遊ぶ事に致しますね」


 そう言って、腰のレイピアを引き抜いたところで、衣装棚の扉が開き、中からメアリーが出てくる。


「何なのよ!!?アンタいったい何なのよ!!?」


 いきなり叫びだすメアリー。

 え?「何なのよ?」って言われても何が何なのよ?


「『管理者』って何!?何でアンタだけ特別なのよ!!?おかしいじゃない!?皆平等に転生したんじゃないの!?」


 ああ、私のステータスが自前だって気付いたのか。

 まぁこの状況で、まだステータス偽装してるだけ、とか思ってるわけはないか。


「そうですね……皆平等に転生したと思いますよ。ただ、偶然私には皆さんと違って若干のアドバンテージがあった、というだけの事です」


「ど……どういう事よ?アンタだけ優遇されてるんだったら『皆平等』じゃないじゃない?」


 まぁそうだよね。それだけ聞いても意味不明だよね。


「始まりは平等ですよ。私もあくまでも『転生者の一人』ってだけですからね……先程も言いましたよね?『偶然』って。本当に偶然だったのですよ……私はこの世界の仕組みを知っていたんですよ」


「はぁ?……『偶然この世界の仕組みを知っていた?』……アンタは何を言って……」


「この世界を創造したのは私です」


 超ドヤ顔する私。

 完全に固まるメアリー。


「アンタ何言ってんの?……昔から頭おかしい子だと思ってたけど、ここまでイカレてるとは思ってなかったわ……」


 ヒドイ言われようだ……

 っていうか、コイツみたいなサイコパスに、頭イカレてるとか言われたくないんだけど!?


「転生前に、自称・神の話を聞いておりましたか?この世界が、ゲームの世界が現実化した世界だという事は理解しておりますか?」


「それは……12年生きてきて、この世界がゲームの様な世界だっていうのは理解してはいたけど……そういえば聞いたかもしれないわね……ほとんど覚えてないけど『クソゲーの世界を平和にしろ』とか何とか……?」


 クソゲー言うなよ!!?容赦なくぶっ殺すぞコラ!!


「それがわかるのでしたら理解できるのではないですか?つまり、この世界の元となるそのゲームを作ったのが私なんです」


 怒り出したい気持ちを抑えて、冷静に続きを説明する。


「……つまりアンタは、その気持ち悪いオタク趣味のおかげでアドバンテージを得てたって事なの?」


 よし、コイツ殺そう。


「随分とふざけた話ね……つまり私達はアンタのせいで、こんな世界に転生させられたって事じゃないの!?」


「考え方を変えたらどうです?普通ならバス事故で死んでお終いだったのが、私がこの世界を作っていたおかげで第二の人生として生を全うできている、と思えませんか?」


 むしろ感謝して、私を拝んでもいいレベルだと思うけどなぁ。


「思えないわよ!!強制的にアンタのクソゲーをプレイさせられてる気分を考えてみなさいよ!!」


 またクソゲー言いやがったなコイツ……


「さて、アナタからの質問の説明はこれでお終いです……では次は、逆にコチラから質問をいたしましょう」


 私の言葉に若干戸惑いを見せるメアリー。


「世間的にバラされたら色々と面倒臭い事になるような事実を、何故私はアナタに教えたと思いますか?」


 私から視線を逸らす事なく、私の発言に耳を傾けるメアリー。


「1.メアリーに殺される覚悟を決めて、最後に真実を伝えた。2.メアリーを仲間に引き入れたくて全てを正直に教えた……そして」


 手に持っていたレイピアを腰に収めながら、私はゆっくりとメアリーへと近づいていく。


「3.死人に口なし。この場でメアリーを殺す事が確定しているから……さぁ何番でしょうか?」


 そう言いつつも、メアリーの答えを待たずに、私は恐怖に歪んだメアリーの顔を鷲掴みにする。


「やだ……やだぁ!……何で!?私っ!!?こんなっ……!!?」


 もう何を言っているのか意味不明な、悲鳴にも似た嗚咽が漏れる。


「クロエとメアリーは同い年でしたよね?」


 私はわかりきった事を質問してみる。

 もちろんメアリーからは嗚咽が漏れるだけで、答えなど返ってこないので、私はそのまま言葉を続ける。


「今回の依頼にはクロエの殺害任務も含まれているのですが、私はあまりクロエを殺したくはないのですよ……ここでアナタの顔をこのまま握りつぶしてしまえば、顔の無い12歳くらいの少女の遺体が1体出来上がりますよね?」


 私が何を言いたいのか察したのか、メアリーは手足を振り回し、泣き叫びながら必死の抵抗をしてくる。


「私まだ喋ってる途中なんで、少し静かにしていただけませんか?」


 そう言いながら、掴んでいる頭を後ろの壁へと叩きつける。

 メアリーは抵抗をやめ、手足をぐったりさせた状態で「うう……」と微かなうめき声をもらす。

 ちゃんと殺さない程度に加減したおかげで、ギリギリ軽い脳震盪を起こす程度ですんでいた。


「そんなわけで、クロエは死んだ事にして私が保護します。なのでアナタはクロエの身代わりになって死んでいただけますか?」


 すでに察していたようだったが、はっきりと言葉にしてメアリーに伝える。

 もっとも、ちゃんと聞こえているのかどうかわわからないが……


 そして……

 私は顔を掴んでいた手に、思いっきり力を加えた……


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