第24話 メアリーの独白
「私がメアリーの気に障る事を何かしてしまってましたか?」
とりあえず、とぼけた返答をしてみる。
もしかしたら、まだ誤魔化せるかもしれない。
「いつまでそんな気持ち悪い喋り方してんのよ?アンタってほんっっっとムカつくわね」
日本語だ。
もう完全に私を『沙川マヤ』だって確信して喋ってるな。
どうやら誤魔化せるレベルの領域はとっくに過ぎていたようだ。
「あら?随分と化けの皮が剥がれてきておりますね。今まで正体をひた隠して、間の抜けた気持ち悪い話し方をしていたのが台無しになってますよ」
私は天邪鬼な性格なので、メアリーの要望とは反対の、異世界語で丁寧な対応をしてみる。
「……ッチ!もう正体を隠す必要がなくなったからよ。アンタはこの後、私に殺されるんだから、無理して隠し続ける意味はないでしょ?」
メアリーは小さく舌打ちをし、逆に私を煽ってくる。
つうか何言ってんだコイツ?私を殺す?中級職だろ?「鑑定」使えるのに私のステータスがわからにわけないだろうに……
「アンタの謎の強さのタネはわかってんのよ」
そう言いつつ、メアリーは首にかかっているネックレスを見せてくる。
「アンタも、コレと同じような効果のあるアイテム持ってるんでしょ?それと、職業も偽装する何かしらのアイテムも……表示されてる『レベル9』ってのがいい証拠よ」
もしかしてコイツ、私も『幻視のネックレス』に類する物を装備してると思ってるのか?この戦闘力自前だよ?
「アンタはあえて高位職がいる前でハッタリかまして、鑑定使わせて戦う事なく相手をビビらせてきた……職業まで謎の職業なら、なおさら効果があるわ。相手は怖くて手が出せない……違う?」
全然違うよ。
大丈夫か?その話、だいぶ無理があるぞ。
さすがに4年間、戦わずにハッタリだけでここまで懸賞金上げるのはキツイんじゃないかな?
「でも残念だったわね!私はアンタが学校でプリースト科にいた事を知ってるのよ。アンタの真実のステータスはプリーストのレベル9……そうでしょ?」
すっごいドヤ顔してるとこ悪いんだけど、全然違うよ。
「私は2年間アンタを見てきたけど、毎日飲んでるだけで実際に戦ってる場面を見た事がないのに噂だけは広がり続けてる。しかも『武器を見せると食われる』とか『発動した魔法を声だけでかき消す』とか『隣の大陸まで人を投げ飛ばせる』とか、完全に都市伝説並に有り得ない噂ばかり……」
毎日飲んでる事に関しては事実なんで何とも言えないな……
っていうか、戦ってる場面見た事ないって、そりゃあ戦うのは夜中とかにコッソリ裏依頼やってる時だけだしなぁ……見た事ないのは当たり前だろ?
「この世界は最高ね……殺人に関しての刑罰が、前の世界よりも軽いものね……特に、犯罪者を殺しても罪にならない事がいいわね。逆にご褒美の大金まで手に入るんだもの」
そう言いながら、私へと刺突武器のエペの先を向けてくる。
『この世界は最高』という部分だけを聞いたなら、ハグしてキスまでしてやりたい気分なのだが、ここまで私に殺意を向けてくる相手にそんな事をするのは望ましくない。
「……昔っからそう。そうやって冷めた目で黙ったまま『私はあなた達とは違うのよオーラ』出してるところ……本当にムカつくのよ!」
そんなオーラ出てんのか私?自覚ないんだけどなぁ……
ってか黙ってるけど、結構内心じゃ滅茶苦茶文句言いまくってるよ。
「いつか私の手で殺してやりたいってずっと思ってたのよ……頭の中で何度アンタを殺す場面を想像したかわからないわ」
うわぁ……ソレはちょっと引くわ……
「西野だけじゃなくて、沙川まで一緒に殺せる機会がくるなんてね……かなりラッキーだわ」
あ~あ……かなり盛り上がっちゃってるよこの子……
理論にけっこう無茶があっても、目の前にぶら下がってる絶好の機会に目がくらんで、その自分で考えた無茶な理論を疑えなくなっちゃってるんじゃないの?
いくら私を殺したくても、もっと慎重に物事を考えれば、理論の正確性が確信できるまで、まだ動かない方が得策だってわかるとは思うんだけどなぁ……
それとも元々そこまで頭良くないのか?
私が持つ奥澤螢の印象は、クラスの女子の中心的な立場にいながら、裏でこっそりと自分の気に入らないものを排除している狡猾なヤツって感じだったけど、この程度なのかな?
「う……あ……ぅ…………」
突然、倒れこんでいるルカの口からうめき声が漏れる。
え?まだ生きてる!?
私は急いでルカへと駆け寄る。
「アンタ……馬鹿じゃないの?」
ルカが倒れているのは、メアリーの足元。
そこへと駆け寄って、無防備な状態を晒した私の背中むかって、メアリーは一言つぶやきつつエペを突き下ろす。
でも。エペの攻撃補正値は40%。
メアリーの力302に40%加わったところで、攻撃力は420程度だ。
単純に『攻撃力-防御力=ダメージ』という計算方式は採用しておらず、攻撃側にそこそこの補正値が入るようにはしてあるが、30000弱ある私の防御力をブチ抜いてダメージを与えるにはちょっと力不足だ。
「なっ!!!?」
私の皮膚に刺さらない刃を見て、驚愕の声を出すメアリー。
「後で遊んで差し上げますので、少し黙って待っていてくださいませんか?奥澤螢さん」
「何で……私……名乗ってない……」
私の言葉を聞いて、メアリーは少し後ずさりしながらひとり言を漏らす。
だけど今は、そんなメアリーにかまっている暇はない。
「エクストリーム・ヒール」
まずは、とりあえず最上級の回復魔法をルカへと使う。
「え?……何その魔法?……そんな魔法聞いた事ない……」
まぁそうだろうね。
ハイプリーストで使える単体回復魔法は「ハイヒール」までだしね。
私が使ったのはハイプリーストの上位職であるビショップで使えるようになる魔法だ。
回復魔法を使いつつルカの状態を確認する。
他の人達が全員が急所を一突きにされているのに対して、ルカだけは違っていた。
急所を避けるようにして、何か所も刺されている。
何というか、優位に立った小悪党がやりそうな行為だな。
いたぶってジワジワと殺していくやり方……どんだけルカの事が嫌いだったんだよ?
まぁ結果としては、殺しきれずにいたおかげで、私はこうやって回復魔法かけてやれてるんだけどね。
もしかしたら、メアリー当人は、私が来る前にルカを殺しきったと思っていたのかもしれない。
「お待たせしました……では少々遊んで差し上げますよ」
ルカの回復が完了したので、私はゆっくりと立ち上がり、後ろを振り返る。
……誰もいなかった。
逃げた?その判断の速さは褒めてあげたいかもしれない。だけど……
「私から逃げられるとお思いですか……?」
私は一人、笑みを浮かべながらつぶやくのだった。




